第41話 体育祭のメインはお昼休みだったりする

 体育祭当日。入場係に当たってしまった私は入場門で立っていた。

 入場係に当たってしまった、とは言うが金尾さんを体育祭実行委員にしてしまった張本人である私が言えた立場ではない。


 体育祭。それは両親が、血のつながった家族が一人もいない私にとって最悪のイベントだった。


 授業参観は体育祭に比べるとまだマシな方で、親が授業を見にくるだけで終わるので親がいなくて困ることは全くない。


 しかし、体育祭となると話が変わってくる。


 体育祭は様々な競技を行いクラス対抗や学年対抗でポイントを競い合い優勝を決めるイベントだ。


 全員の力を結集させて戦うクラス対抗リレーや気持ちが一つにならないと完成しない組体操等、華々しい競技が目白押しとなっている。


 しかし、そのどの競技とも違う体育祭最大のイベントがあることを忘れてはいけない。


 それはお昼休みの昼食タイムだ。


 体育祭は観戦に来た両親が腕によりをかけて作った弁当をお昼休みに家族揃って食べるというのが定番となっている。

 流石に高校生ともなればそこまで盛り上がることもないだろうが、お弁当タイムは子供にとって体育祭の目玉といっても過言ではないイベントなのである。


 しかし、私はその定番のイベントに参加することはできない。


 両親がいないのだからそのイベントに参加できないのは当然のことで、みんなの輪から離れた人目につかなさそうなところでお昼ご飯を食べなければならない。


 自分のクラスの勝ち負けなんてそっちのけで私は朝からそんなことばかり考えて憂鬱になっていた。


 そもそも高校生にもなって親が体育祭を観にくるという習慣があるうちの学校がおかしいと私は思う。

 周辺の高校の話を聞いても高校生になれば体育祭を親が見にくることはなくなるというのに、何故私たちの高校はそうではないのだろうか……。


「おや、飯崎さんではありませんか」


 入場係として入場門に立っていた私に話しかけてきたのは金尾さんだ。

 私と同じクラスの金尾さんは赤色の鉢巻を頭に巻いている。


「金尾さん。次の競技でるの?」


「はい‼︎ パン食い競争ってやつですね。でも走る前から……フワァ。眠くて眠くて」


 体育祭でも相変わらずマイペースな金尾さんは口を手で押さえて大きな欠伸をした。

 このやる気の無さは藍斗にそっくりね。きっと藍斗と同じでやる気がないって理由でパン食い競争を選んだ口ね。


 パンを食べる前の時点で眠いというのにパンなんて食べたら余計に眠たくなってしまうだろう。


「金尾さんはなんでパン食い競争にでるの?」


「天井さんが出るからです」


「えっ、そんな理由?」


「そんな理由も何も、友達がいない私からしたら大きな理由ですよ。体育祭では一人2競技は個人競技に出ろって言われてるので……。まあもう1競技は同じのに出ることはできませんでしたけどね」


 金尾さんのいうとおり、体育祭では全員参加の競技と、個人参加の競技2種目に参加しなければならない。

 まさか藍斗と同じ競技に出たいからという理由で競技を選ぶ人がいるとは思わなかったが、かくいう私も1競技は藍斗と同じ競技に出ることになっている。


 確かに友達が少ない金尾さんにとって藍斗が同じ競技に出ているから、というのは大きな理由になる。

 しかし、友達が少ないという理由で藍斗と同じ競技に出たいというのは建前で、好きな人と同じ競技に出たいというのが本当の理由だろう。


 いや、建前というよりはもう金尾さんが藍斗のことを好きなのは金尾さんからしてみれば当たり前のことで、態々私に伝える必要すらないということなのかもしれない。


 これだけ押せ押せで感情を伝えてくる美人で可愛い女の子がいたら藍斗はどう思うのだろうか。やはり好きになってしまうものなのだろうか。


「二人で仲良さそうに喋ってるなんて珍しいな」


 私の心配をよそに能天気な顔で入場門へやってきたのは藍斗だ。


「天井さん‼︎ もう私、飯崎さん怖くないです。マブダチです」


「い、いつのまにマブダチになったのよ」


「マブダチじゃないんですかぁ⁉︎」


 驚いた表情を見せながらものすごい勢いで金尾さんは私に詰め寄ってくる。

 そんな金尾さんの勢いにやられて、私は思わず「ま、マブダチなんじゃないの」と返答してしまった。


 それをみて、にぱぁっと表情を明るくさせる金尾さんは天真爛漫で、私みたいに訳のわからないことを考えている人より金尾さんみたいな人の方が藍斗にはお似合いだと考えてしまう。


 ってバカ、何考えてるのよ私。お似合いも何も別に付き合ったりする訳じゃないんだから。私は藍斗のことが嫌いなのだから。


「飯崎、大丈夫か?」


「……え? 急に何よ。別に大丈夫だけど」


「そうか。ならいいんだけど」


「え、それってどういう……」


 藍斗が私にしてきた質問の意味を聞こうとしたところで入場ソングが流れ始めて藍斗と金尾さんは駆け足で去っていった。


 私が体育祭を憂鬱に感じていることに気がつかれたのだろうか。いや、でも出来るだけ体育祭を嫌がっている雰囲気は外には出さないようにしていた。


 それに、藍斗が私のことを嫌いなら私のことなんて見向きもしていないはずだし、些細な変化に気がつくはずがない。


 なんなの……。なんなのよもう……。

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