第26話 知らないからこそいいこともある
「はぁ……。どうしてこんな事に……」
金尾は俺の横で大きなため息を吐いて落ち込む様子を見せている。
俺たちは商店街で合流してから、少し歩いたところにあるファミレスに入店していた。
ファミレスに入ってドリンクバーを注文しコーラを口にした事でなんとか正気を取り戻した金尾だったが、金尾はこの状況に委縮してしまい俺の方に身を寄せてきている。
俺と金尾が並んで座っている正面には飯崎とくるみ、瀬下の3人が座っており、物珍しそうに俺たちを見つめていた。
「ちょ、ちょっとアンタ。金尾さんと距離近すぎよ。離れなさい」
「俺が近づいてってるんじゃねぇよ。金尾がくっついてきてるんだから離れろって言うなら金尾に言え」
「見捨てるんですか⁉︎ こんなにか弱い女子を見捨てるんですか天井さん⁉︎」
金尾を見捨てたわけではない。俺自身金尾にくっつかれている状況を目の前の3人に見られているのは気恥ずかしさもあるし、何より何か当たってるから。見た目以上に豊満で柔らかいアレが当たってるから。
早く離れてくれないと立っちゃうから。立っちゃうから‼︎
「金尾さん。こんな奴にくっついてたら変なこと思い浮かべられるのが目に見えてるから。ヤラシイ目で見られる前に離れてもらわないと危険よ」
「おい、変なことなんか思い浮かべてねぇよ(思い浮かべてた)。ヤラシイ目でも見てねぇよ(見てた)」
「え、別に私は天井くんに変な目で見られても構いませんが……」
いやそれは構えよ。普通構うだろ男から変な目で見られたら。でも見てないから(見てた)。変な目で見てないから(めっちゃ見てた)。
「ちょ、何言ってんのよ⁉︎ 普通男子にヤラシイ視線を向けられたりしたら嫌でしょ⁉︎」
「そ、そりゃ嫌ですけど……」
「じゃ、じゃあなんでこいつなら嫌じゃないのよ‼︎」
「え? だって私天井くんの事好きですし……」
金尾の仰天発言にこの場の空気は一瞬にして冷え切った。
金尾以外の全員が言葉を失い、沈黙が生まれている。
「あ、あれ。みなさんどうしました? 私変なこと言ってしまいましたか?」
いや、変なことというか今間違いなくエゲツない発言したよな。なんでそんなに平然としてられるんだよこいつ。
……そうか、これだけ平然としていられると言うことは、恋愛対象としての好きではなく友人としての好きって方だな。
「ま、まぁいくら友達として俺のことが好きだったとしても、中々好きとは言わないよな」
「友達としてじゃないですよ? 恋愛対象として好きなんです。それなら違和感ないですか?」
金尾の更なる仰天発言に再び空気が凍りつく。
金尾自身が核心を突いたのでこれはもう解釈を間違えようがない。
「こ、これは思った以上ですな」
「くるみ、藍斗と飯崎さんがガチガチに固まってるんだけどどうしたらいい?」
「とりあえず熱々のお湯でもかけたらいいんじゃない?」
「そんなことしたら大火傷だわ。お前も中々やられてるな……」
確かに俺のことが好きなのだとすれば、今日俺を遊びに誘った状況にも説明がつく。
好きな異性とはそりゃ一緒に遊びたいし、もっと仲良くなりたいと思うのが普通の感情だ。
俺も飯崎とは一緒に遊びに行きたいし、仲良くなりたいと思って……って何言ってんだ俺。
とにかく、普通それをこの場で公言したりはしないんですよ。今まで人とコミュにケーションを取ってきていないだけに発言が中々にぶっ飛んでんな金尾は。
この先も金尾の発言については注意するべきだな。
「ま、まぁそれなら違和感ないかもな」
「ちょ、何言ってんのよ‼︎ 違和感あるでしょ‼︎ な、なんか訳わかんないけど色々と違和感だらけじゃない⁉︎」
「確かに好きな人にならおっぱい触られたりしても嫌じゃないってのは理屈通ってるのか……」
「ちょ、くるみ⁉︎ 何言ってんのアンタまで‼︎」
「おい待て、金尾がくっついてくるから当たってただけで俺おっぱい触ってないからな?」
「や、やっぱり変なこと考えてるじゃない‼︎」
も、もうダメだ。みんな頭が混乱しすぎてカオスになってきてる。
早く終止符を撃たなければ。
「天井くんが好きってことは、金尾さんは天井くんの彼女になりたいってことでいい?」
「まぁそうなりますね」
なんでストレートに聞くんだくるみ。そしてなんてストレートに返答するんだ金尾よ。
「じゃあ天井くんは金尾さんのこと好き?」
く、くるみ‼︎ なんてこと聞くんだこんな場面でこんちくしょぉぉぉぉ‼︎
「ま、待つのです。私たちは最近知り合ったばかりなのでまだ天井くんが私のことを好きじゃない事くらいコミュ障拗らせてる自分でも分かってます」
最近知り合ったばっかなのになんであなたは俺のこと好きになってんですか? おかしくないですか? ねぇおかしいですよね?
「なので、私これから頑張るつもりなので皆さんよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる金尾だが、お願いする人間違ってるぞ。というか、好きな人を射止めるために頑張るのでこれからよろしくお願いします、なんて話をその友人にしてる奴初めて見たわ‼︎
「お、お願いされちゃったよ莉愛ちゃん」
「そ、そうね……。されちゃったわね」
「ま、まぁとりあえず友達ってことで、これからよろしくね金尾さん‼︎」
「そ、そうね‼︎ よろしく。金尾さん」
何をよろしくしているのかもはや訳がわからないが、とりあえず俺たちは全員が金尾と友達になることでその場の微妙な雰囲気は解消され、会話を続けたのだった。
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