第24話 なんでついてきてんだよ
藍斗達の後を付けて私たちがたどり着いたのは食べ歩きで有名な商店街。
如何にもデートスポットらしいところへ遊びにきて、カップルみたいじゃない。私も藍斗とこんなところ来たことないのに……。
やけに気分が落ち込むが、商店街に到着してからも私たちは藍斗と金尾さんの尾行を続けていた。
しかし、藍斗と金尾さんは変わった行動を取る様子もなくただひたすら食べ歩きを続けていた。
「すごいな金尾さん。めっちゃたべるね」
「あれはすごいわね」
「俺、結構食べる方だけど多分金尾さんには勝てんわ」
金尾さんが食べ物を頬張る幸せそうな表情を見ていると、今日遊びに来たのは別に藍斗と遊ぶのが目当てだったわけではなく、食べ歩きに付き合ってくれるなら誰でもよかったんだと思わせてくれる。そう思うことで私の心は落ち着いていた。
藍斗からはなぜ金尾さんと遊びに行く事になったのか、その理由を全く聞かされていない。
しかし、私の予想では藍斗の方から金尾さんを誘うということはありえない。天地がひっくり返ったとしてもそれはないだろうと言い切れる。
そうなると、金尾さんの方から藍斗を誘った事になる。金尾さんから藍斗を誘ったとなれば、金尾さんが藍斗に対して気があるのではないか、と疑うのが普通ではないだろうか。
なので、私は金尾さんが藍斗になにかしらアタックを仕掛けるのではないかと考えていた。
しかし、金尾さんは全くそんなそぶりを見せる様子がない。
これはこのまま何事もなく終わりそうね。一安心と言えば一安心だけど拍子抜けだわ……。
ってなに安心してるのよ私。私は藍斗を嫌いにならなければならないのだから、安心なんてしてはいけない。
「それにしても本当によく食べるね。いっぱい食べる女の子は可愛いって世の中の男子が言ってるの、そんなの嘘じゃんって思ってたんだけど……。なんとなく気持ちがわかる気がしてきた」
「じゃあくるみもいっぱいたべたら?」
「嫌だよ太るし。それに、あれは食べることが本当に大好きな女の子が、最高の笑顔で食べるから可愛く見えるんだよ。私が食べても意味なんてないね」
「なるほど。参考にします‼︎」
そんな事を言っている間に藍斗たちがやってきたのはクレープ屋だ。
会話が聞こえる距離ではないが、今からクレープを買おうとしていることだけは伝わってくる。
「いやー、金尾さんほんとすごいね。今からまだクレープ食べる気だよ? 天井くんのあの顔見てよ。甘い苗字してるくせにあんなに嫌そうなんだけど」
「別に苗字が天井だからって甘いもの好きだとは限らないでしょ」
「まあそりゃそうだ」
このまま何事もなく終わる、そんな事をおもっていた矢先、あの二人が購入したクレープの数が気になった。
一人一個ずつでクレープを注文したのかと思いきや、二人で一つしかクレープを購入していないのだ。
「おい、あれ見ろ。金尾が天井にアーンしてるぞ⁉︎」
「ほ、ほんどだ‼︎ 金尾さん、積極的‼︎ まさか本当に天井くんのことが⁉︎」
ちょ、ちょっと待って。あの二人、いつどうやって知り合ったかは知らないけどまだ知り合って間もないでしょ⁉︎ それなのにアーン⁉︎
私だって小さい頃しか藍斗にアーンしたことなんてないのに‼︎
そして藍斗はそのまま金尾さんが差し出してきたクレープを口にした。
その瞬間、私の胸にズキっという痛みのようなものを感じた。
藍斗の事を嫌いにならなければならないと理解しているのに、どうしても気持ちがそこについてきてくれない。
「おい‼︎ 見てみろよっ‼︎ 金尾さん、藍斗が口にしたクレープ、あのまま食べる気じゃないか⁉︎」
頭の中が混乱し、二人の状況から目を逸らしていた私だが、瀬下くんの声で私は首をものすごいスピードで二人の方へと向ける。
瀬下くんの言う通り、金尾さんは藍斗が食べたクレープをそのまま食べようとしていた。
「ほんとだ‼︎ まさかの間接キス⁉︎ それはいくらなんでもハードル高すぎたよ金尾さん‼︎ 二人は本当にただの友達なの⁉︎」
「うわぁぁぁぁぁぁ‼︎ 金尾さん、悩まず藍斗が食べたクレープ食べたぞ⁉︎」
「ほ、ほんとだぁぁぁぁぁぁ‼︎ 金尾さんやばい‼︎ やばすぎるよ‼︎」
間接キス……。
子供の時に私は藍斗とキスをした。藍斗は私のことをどう思っていたか知らないが、私は子供の頃からずっと藍斗のことが好きだった。
私が藍斗とキスをした時、藍斗は私にこう言ってくれた。
『僕がキスするは莉愛ちゃんだけだからねっ‼︎』
今藍斗がこのセリフを言った事を思い出したら恥ずかしくて虫唾がはしるだろう。
しかし私は、そのセリフを鮮明に覚えている。
「見ろ‼︎ 今度は金尾さんが口を付けたクレープを藍斗に差し出したぞ⁉︎」
「うぉぉぉぉマジか金尾さん‼︎」
金尾さんは藍斗と間接キスをしたことになってしまったが、藍斗はまだ金尾さんが口にしたクレープを口にしてはいない。
しかし、このままだと藍斗は金尾さんが口を付けたクレープを口にして、金尾さんと間接キスをした事になってしまい、藍斗とキスをしたのが私だけではなくなってしまう。
それが例え間接キスだったとしても、キスはキスだ。
その瞬間、私の体は迷いなく動いていた。
「あ、ちょっと莉愛ちゃん⁉︎」
「ど、どうした⁉︎」
背後から二人が私を止める声が聞こえるが、私の頭の中には藍斗のキスを金尾さんに奪われないようにすることしかない。
そして私は金尾さんが持っていたクレープを大きな口で横から口にした。
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