第19話 実は喜んでたりして
母さんは夕飯を食べた後、友達とカフェに行くと言って家を出た。父さんは残業で家にはまだ帰ってきていない。
できるだけ家の中では飯崎と二人きりになるのを避けようとしているのだが、母さんと父さんが家にいないと回避のしようがなく、俺と飯崎が二人きりになる頻度は意外と高い。
母さんが家を出てからしばらくは俺と飯崎の間に会話はなかったが、俺と一緒に旅行に行く事についてやたらと余裕を見せていた飯崎の事が気になって俺の方から飯崎に質問してみることにした。
「飯崎はさ、俺と一緒に旅行行くの嫌じゃないのか?」
実は飯崎は俺の事が好きで、俺と一緒に旅行に行けるながら嬉しいのではないか? なんて能天気な事を冗談まじりに考えていたが、俺が質問をした途端顔を顰め返事をするのも面倒臭いと言った表情を見せる。
「は? 嫌に決まってるでしょ」
飯崎は母さんに頼まれた夕食の食器洗いをこなしながら、当然でしょ、といった雰囲気でため息を吐く。
いつもの飯崎なら、俺と一緒に旅行に行くとなれば、行きたくない‼︎ キモい‼︎ クサイ‼︎ の三重苦で喚き散らかしているところなのに、今日は、嫌に決まってるでしょ、の一言だけ。
なぜ今日はこれ程までに落ち着いているのだろうか。
補足しておくが俺の体臭が本当に臭い訳ではない、と思う。
「じゃあなんでそんなに落ち着いてんだよ。断ればいいじゃねぇか」
「そりゃ落ち着くでしょ。というか落ち着くしかないし。陽子さんと隆行さんからの誘いなんだから断る訳にはいかないし、もう避けられないことなんだから今更喚いてもしょうがないじゃない。別にあんたと旅行に行くくらい対して嫌じゃないわよ」
いや今さっき嫌って言ってたじゃないか。嫌なのか嫌じゃないのかどっちなんだよ。
でも大して嫌じゃないって事は、少しは嫌だけど別に一緒にいてもいいレベルってことか? ヨッシャ‼︎ 大幅なレベルアップだぜ‼︎
「そうか。ならいいけど」
「それよりあんた、さっき珍しくご飯中に誰かと連絡取ってたみたいだけど、今週はまた瀬下くんと遊ぶの?」
「今週は特に予定はないけど、来週金尾と遊びに行ってくる」
「あっそ。ほんと懲りずに毎週よく遊ぶわよね。そんなに毎週瀬下くんと遊んで何してるの……ってえ⁉︎ 金尾さんと遊ぶ⁉︎」
うん、そんな反応になるよな。飯崎は俺と金尾が話しているところを見たことがないだろうし、金尾はずっと寝ているのでそもそも金尾が声を発しているところを聞いたことすらないかもしれない。
それなのに、俺と金尾さんが遊ぶとなれば驚かずにはいられないだろう。俺自身金尾さんと遊ぶことにはめちゃくちゃ驚いてるしな。
「まぁ色々あってな」
「い、色々ってなによ」
金尾さんと遊びに行くことになった理由を話すと長くなりそうだったので、そこは飯崎には伝えない事にした。
飯崎には授業に出なかった理由を体調不良と伝えてあるので、金尾と遊びに行く事になった経緯を話してしまうと一緒に授業をサボっていた事がバレてしまう。
「別に。色々は色々だよ」
「あっそ。別に興味ないし言いたくないならそれで良いけどっ」
興味はない、それでいいとは言いながらも、とてもじゃないが飯崎の雰囲気はそれでいいという様子ではなく、強めにリビングの扉を閉めながら2階へと上がっていった。
なんか機嫌悪かったよな。俺別に悪いことしてないよな? 別に俺が金尾と一緒に遊びに行く事で飯崎が迷惑な事なんて何一つないよな?
飯崎が怒っている理由をリビングでソファーに寝転がりスポーツ中継を見ながら考えていたが、結局飯崎が怒っている原因を突き止める事はできなかった。
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