第18話 あんた、友達いたのね

 学校から帰宅して手を洗っているとポケットから携帯の通知音が聞こえてきた。

 タオルで手を拭いて通知の内容を確認してみると、俺に連絡をしてきたのは金尾だった。


うめ

<今日はありがとうございました>

-16:47


 金尾からのメッセージにすぐ返信を返そうとしたが、どう返信していいか悩んでしまい返信をする事ができないまま時間が経過し、夕食を迎えてしまった。

 あまり返信が遅くなると失礼だし、俺が金尾への返信を悩んでいると思われるのも嫌なので夕食を食べていた俺は金尾からのラインに返信を返すべく、普段なら食事中に弄る事のない携帯を弄りながら返信した。


天井

<こちらこそ、一緒にサボってくれて助かった>

-18:32


 俺が2時間近く悩んで返信をしたというのに、金尾はすぐに返信してきた。こいつには迷いってもんがないのか。


うめ

<流石にもうサボれませんけどね>

-18:34


うめ

<これからも私の事、起こしてくれませんか?>

-18:34


 連続でメッセージを送ってきたと思えばなんだよそのお願いは。人によってはプロポーズと捉えられなくもなさそうな言い方じゃねぇか。お前の味噌汁が毎日飲みたい的なやつだろこれ。


 金尾からのお願いには驚いたが、流石に毎日寝ている金尾を起こすのは負担が大きい。何より面倒臭い。


天井

<嫌です>

-18:35


うめ

<そ、そんな殺生な……>

-18:36


 寝てる奴起こさないだけで殺生って言われるとは思わなかったわ。てか寝てて起きないって完全に自業自得だからね? 俺が悪く言われる理由無くね?


天井

<俺が起こしてたんじゃ金尾のためにならないだろ。自分で起きてくれ>

-18:37


うめ

<流石、こんな時も私の事を考えてくれるなんて>

-18:38


 ポジティブが過ぎるな。俺は本当に金尾の事を考えて自分で起きろと言った訳ではない。ただただ面倒くさいのだ。


 まぁそう解釈してくれるなら俺にとってはありがたい話か。


天井

<ああ。だから自分で起きてくれ>

-18:39


うめ

<承知。まぁ毎日起こしてくれっていうのは流石に冗談として>

-18:39


 いや、今の絶対冗談じゃなかっただろ‼︎ あれは本気だっただろ‼︎ ダメ元でお願いして見てあわよくば起こしてもらおうって思ってたやつだっただろ‼︎ 今更さっきの発言を取り消そうなんてそうは問屋が卸さねぇからな‼︎


うめ

<いつ空いてますか?>

-18:40


 金尾から唐突に予定を訊かれた俺は夕食の唐揚げを口に運びながら返信に悩んでいた。

 

 教室でも金尾からは一緒に遊びに行かないかと声をかけられていたので、ラインで予定について訊いてくるのは予想していた。

 予想してはいたが、実際訊かれるとどうするべきかと頭を悩ませてしまう。


 今週の休日は特に予定がある訳ではないので金尾と遊ぶ事は可能だ。

 しかし、今週遊びに行くとなるとあまりにも急すぎて心の準備ができていない。


 そう考えた俺は今週の土日に金尾と遊ぶ事は回避し、来週の日程を提案する事にした。


天井

<来週の土曜なら>

-18:50


 返信が少し遅れてしまったので金尾には俺が悩んでいた事を気づかれているかもしれないが、今更そんな事を考えたってもう遅い。


うめ

<わかりました。じゃあ来週の土曜で>

-18:52


 そして俺は了解のスタンプを送ってラインを終わらせた。


 それにしても同級生の女の子と二人で遊ぶって俺初めてなんじゃないか? 飯崎以外とは、だけど。


「藍斗、食事中にあんまりスマホばっか弄っちゃダメでしょ」


「あーごめんごめん。友達に返信してて」


 夕食中に携帯ばかり弄っている俺に母さんが注意をしてきた。

 その後で、俺にしか聞こえないほどの超小声で、「アンタ瀬下くん以外友達いたのね」と聞こえてきたがそれは空耳と捉えておこう。


「それで、藍斗は来週の土日空いてる?」


「え、たった今予定埋まったけど」


「あらそう。せっかくだし四人で家族旅行にでも行きたいと思ってるんだけど、どう?」


「……は⁉︎ 四人で⁉︎ こいつも⁉︎」


「なに、そんなに嬉しいの?」


「そ、そんなの嬉しい訳……」


 嬉しい訳ないだろ、と言おうとして俺は言葉を詰まらせた。

 危ない危ない。思わず口を滑らせてしまうところだったが、母さんと父さんには俺と飯崎の仲が悪い事は内緒だ。


「じゃあ再来週は?」


「それなら空いてるけど」


「じゃあ再来週で決まりね‼︎ サクッと温泉旅館でも予約しとくわ〜」


 いやそれサクッと決めていいレベルの話じゃないよ? 高級車買うときくらい悩まないといけないやつだよ? あ、でも金持ちなら高級車買うとき悩まねぇか。


「楽しみです‼︎」


 そうやって嘘の笑顔で心にもないことをさらっと口にできる飯崎が羨ましいよ……。

 俺の横で母さんに満面の笑みを見せながらそう言う飯崎は本当は俺と旅行に行きたくないはず。


 それなのに、俺の両親からの頼みならと嫌ではないフリをしているはずだ。


 フリとはいえ、飯崎、やたらと余裕そうだな。その余裕が俺の事を嫌いじゃなくなってきた証であるのを願うばかりだった。

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