3章 金尾との出会い

第17話 前の席の寝てる奴

 俺は教室の窓際の席で心地よい日差しを浴びながら机に頬杖をつき眠りについていた。

 しかし、バランスを崩した俺は手から顔を落とし思わず目を覚ます。


「っぶね」


 目を覚ました俺は寝ぼけた頭で今の状況を整理する。


 一旦今が何時かを確認するため時計を見ると、残り5分程でお昼の授業が始まる時間だった。


「クソッ……。あいつら起こしやがらなかったな」


 お昼休み後の授業は移動教室。もう全ての生徒が教室を出ており、教室には俺以外誰もいない。

 今から準備をして教室を出たのではもう授業に間に合わない。トイレもしたいしもう焦らずゆっくり行くか……。


 そう思いながら席を立ったところで俺は前の席で机に突っ伏して寝ている金尾の姿を見つけた。


 金尾とは一言も会話をした事がなく、毎日常に眠っている。

 朝登校してくるとまず机に座って寝る。そして授業が始まっても寝続け、昼休みだけ起きてご飯を食べるとまた寝る。そんな調子で登校から下校までずっと眠っているのだが、それでも成績は優秀なのだから先生たちが文句を言えないのも仕方がない。


 ……起こしてやる理由もないが、起こさない理由もない。


 ここは一緒に授業に遅刻する仲間を作るために起こしてやるか。


「おーい、金尾さーん」


 まずは試しに名前を呼んでみたが返事はない。


「か、な、お、さん。起きてくださーい。朝ですよー」


 朝ではない。昼である。


 肩を軽く叩いても金尾が目を覚す気配はないので、俺は仕方がなく金尾の肩を掴んで揺らした。


「金尾さん、授業遅れちゃうから。いやもう遅れてるけど」


「ふわぁぁ……。おはよう」


「もう授業遅れてるから。ほら、行こう」


「もう遅れてるんだ……。おやすみ……」


「いやダメだから、起きて」


 金尾さんを起こして連れて行こうとしても金尾さんは再び眠りに入ってしまう。このままだと大遅刻になるな……。


 ……いや、でもいっか別に。もう授業に遅刻する事は確定しているのだし、それなら多少の遅刻だろうが大遅刻だろうがもう関係ない。


 そう思った俺は金尾の横に座った。


 こいつ、いっつも寝てるけどどんな奴なんだろ。ずっと眠ってるのに成績はいいし、顔も整っており普通に生活していれば男子からの人気も高そうだ。

 しかし、金尾は基本机に突っ伏して眠っているので、金尾の顔をじっくりと見た事がある奴が少ない。


 もっと普通に学校生活を送れば良いのに。


 そんな事を考えながら金尾の横顔を見つめていた。

 金尾の顔は俺もじっくりとは見た事がないが、横顔でもかなり可愛い顔をしている事が確認できる。


 俺が金尾の顔をジロジロと見ていると、金尾が目を開けてこちらに顔を向けてきた。


「あんまりジロジロ見られると流石の私も恥ずかしくて顔を赤くしてしまいそうなのですが……」


「あ、ご、ごめん⁉︎ 起きてたんだ⁉︎」


「すいません……。私がおやすみって言ってまた寝たらあなたも私を放っていくだろうなと思ったのですが……」


「ま、まぁ普通はそうするだろうな」


「あなたみたいに私を放って行かなかった人は初めてです」


 そりゃ初めてだろうな。普通は授業に遅れれば急いで移動するだろうし。

 でもそれ、俺が凄い優しいとかではなくて多分今までの人たちが普通で俺が変わってるんだと思う。


「別に金尾が可哀想とか思った訳じゃないぞ。俺がサボりたかったから横に座っただけだ」


「それでも私は嬉しいんですよ。んーっと、今度一緒に遊びに行きません?」


「そうだな。そうするか……ってちょっと待て、今なんて?」


「一緒に遊びに行きませんかって言ったんですけど」


 言ったんですけど、じゃねぇよ。どうしてそうなった。金尾の頭のでどんな選択が行われれば俺と遊びに行くって結果になるんだ。


 一旦落ち着いて整理しよう。

 金尾の事を起こして再び眠りにつこうとした金尾を放っておくこともできず一緒に残る事にした。ここまでは整理できている。

 それで、なんで俺が金尾から遊びに行く誘いを受けてんだ⁉︎ 理解に苦しむ‼︎


「ま、待ってくれ。今日まで俺と金尾なんてほとんど接点はなかったじゃねぇか。かろうじて回ってきたプリントを俺に渡してもらうくらいしか接点なんてなかったのになんで急に俺と遊びに行こうって言い始めるんだよ」


「んーなんとなくです」


「なんとなくってそんなテキトーな……」


「なんとなく程的を得た言葉私はこの世に存在しないと思ってますが……」


 理屈もめちゃくちゃだな……。でもまあ友達が少ない俺からしても、こうして相手の方から俺の事を興味持って遊びに誘ってくれるのはとてもありがたい事である。正直誘いを断る理由がない。


「それはよく分からんが……。まぁとりあえずライン交換すっか」


「はい」


 そして俺はこのまま教室で金尾と授業をサボり、先生からの評価を失い、金尾のラインを得たのだった。

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