2話 本音を言うとめっちゃ結婚したい

 私が中学三年生の時、ママが死んだ。


 ママは病を患っており、ママの死が近づいている事は分かっていたので覚悟はできていた。

 できていた、とは言ってもそれはママが死ぬ前の話。死んでしまったら結局あの覚悟にはなんの意味があったのだろうかという程に取り乱し、大声を出して泣いてしまった。


 ママの死を受け入れるまでには時間がかかったが、ママの死からもう一年が経過しているし、幼馴染の天井藍斗あまいあいとの家族が私を引き取ってくれた事もあり私の心は次第に癒されていった。


 唐突な話ではあるが、私は子供の頃からずっと、藍斗の事が好きだった。大好きだった。

 ママが死んでしまうと私は1人になってしまうので、早く藍斗と付き合って何かしらの関係を繋ぎ止めたいと思っていたし、時が経てばこのまま結婚をして子供を産んで、2人でずっと一緒にいられると思っていた。


 しかし、藍斗からのアプローチはゼロに近かった。

 

 痺れを切らしていた私は自分から藍斗にアタックする事も考えたが、もしかしたら私が藍斗の事を好きなだけで藍斗は私の事が好きではないかもしれないと考えると行動に移す事はできなかった。


 結局私の方から藍斗にアプローチする事もできず、私と藍斗の関係に変化は無いまま時間だけが過ぎていき、ママが死んだ。

 そして身寄りが無かった私は天井家に引き取られた訳だが、ママが死んでから1年以上が経過した、高校2年生になった私と藍斗は所謂犬猿の仲。昔の仲の良さは見る影もない状態だ。


 そんな私たちの喧嘩は目覚ましをかけ忘れていつもより起きるのが遅くなってしまい、急いで準備をしている今日という日にも自宅のリビングで行われていた。


「……はぁ。キモいんだけど。私の時間に合わせてリビングに降りて来ないでくれる?」


 藍斗が2階の自室から階段を使って1階に降りてきてリビング入ってきたので、私はいつも通り藍斗に罵声を浴びせた。


「合わせたのはそっちだろ。どんだけ俺の事が好きなんだか」


 私の罵声に対して藍斗も私に罵声を返す。


 どんだけ俺の事が好きなんだかって? そんなの分かりきってる。藍斗が私の気持ちに気付かないから今もこんな状態なんじゃない。


 正直に言おう。


 めっちゃ好き‼︎ 私、藍斗の事がめちゃくちゃ好き‼︎ あー付き合いたい抱きつきたい手を繋ぎたいキスしたい体を弄ってもらいたい結婚したい‼︎


 子供の頃からずっと藍斗の事が好きで好きで仕方がなかった。今は嫌いなフリをしているが、それはフリであって私の藍斗に対する好意は無くなっていない。


 朝起きてくるといつも同じように付いている寝癖も愛おしいし、同じ洗剤を使っているはずなのに藍斗の両親からはしないふわりと香る藍斗の香りも愛おしい。その少し低めの声も、私より高い身長も、全てが愛おしく感じる。


 恐らく私は同い年の女子高生達と比較すると誰よりも結婚したいと思っているだろう。

 結婚、それは天涯孤独の私に家族が出来るということだ。なんなら早く子供も作りたい。


「はっ。幸せな思考回路をしてるわね。羨ましいわ」


 え? めっちゃ好きなのになんで反抗的な態度を取ってるのかって?


 拒否されたらどうすんのよ‼︎ 今無責任な事考えたそこのアンタ、責任取ってくれる⁉︎


 天涯孤独の私が頼れる人と言えば藍斗の両親くらいだし、今の居場所が無くなったら私は住む場所や食事など生きていく上で必要な物を全て失ってしまう。

 この気持ちを藍斗に伝えたいのは山々だが、伝えて拒否されたらと考えると不安でたまらなかった。藍斗に拒否される事は天井家全体から拒否される事と同意義なのである。


 それなら最初から藍斗の事を嫌いなフリをしておいて、藍斗の両親にだけは良い顔をしておけば見放されて一人になるなんて事はないだろう。

 そう考えて藍斗の事を嫌いなフリをするようになった。


 今考えてみると、嫌いなフリをするよりも藍斗に正直な想いを伝えた方が良かったのではないかと思わなくもないが、当時の私には正常な判断はできなかっただろうし今となってはもう遅い。


「それじゃあ、もう私行くから。私が家を出たからってアンタも同じタイミングで家を出てこないでよね」


 絶対に同じタイミングで家を出てよね。大好きなんだから。


「お前と同じタイミングで家を出るなんてこっちから願い下げだね。早く出てってくれ」


「言われなくても出てくわよ‼︎ バカ‼︎」


 言われなくても出てくけど、出来れば私を追いかけて‼︎ ついでに結婚して‼︎


 なんて事を心の中ではずっと考えているのだが、それを藍斗に伝えられる訳もない。

 きっと私はこれからも、安寧を求めて藍斗の事を嫌いなフリを続けていくのだろう。

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