3 大火の真実
キャルマという村に現れた存在。
誰もが憎むべきあの容貌。
男が、リヴァスが銀色のフードを取る。
「名が知られていたか…」
翡翠が村人の前衛につく。
「お前は今すぐ罪を贖うべきだ!」
翡翠がちゃんとした文言でリヴァスに罵声を浴びせる。
「私に何の罪を償えと?」
その時だ、その場にいた全員の眼に殺意が宿るのをエルダは肌で感じた。
「お前…あの日のことも忘れて…お前は―。」
皆が構えていた武器に力を込める。
「―お前は『伝説の大火』の日、何をしていた!」
ヴァイオレアの総指導者であり、大火の加害者の一人。
「私は言うべきことに従った―。」
「黙れぇ!」
リヴァスの心臓に槍が突き刺さる。
槍は貫通し、大量の血液が飛び散った。
「不愉快だ…お前の存在が!」
「存在自体を否定するとは…人権の…迫害だな…」
それだけ言い残して、その場に倒れた。
「これだけでは死なないと思うがな。」
バルドルが言った直後。
背後に殺気が走った。
「その通り、私はそれだけでは死なない。」
リヴァスの能力、『再生』だ。
さっき崩れ落ちた場所には血液と翡翠の槍―カラヴドの槍しかない。
「それに、私はあの大火で炎をまいたわけではない。」
リヴァスは戦死者を嘲笑うかの如く言い除けた。
「―なら、なんであんな無意味な戦いを起こしたのか、話してください。」
村人の視線がエルダに集中した。
「そうだな。俺も説明を求める。何故、全世界を比で包み込んだのか教えてもらおうか。」
バルドルも真剣な眼差しでリヴァスを見つめた。
「簡単さ。」
リヴァスの口元の笑みが何を語るのか怖かった。
「―『記憶』の…抹消だよ!」
皆が困惑した様子でざわついた。
「記憶…鍵括弧がつけば、精霊のことになるな。」
バルドルが付け足しをする。
「あぁ、『記憶』の精霊、モリアメルの抹消!」
「精霊とお前に何の関わりがあると言う?」
バルドルがリヴァスの首にレーヴァテインを当てて聞く。
「精霊の抹消との関わり…私は、俺は、見たんだよ…自分の過去をな。」
―10年前(大火の1年前) ハルカカナタ―
緑の大草原に佇む、それは綺麗な少女だ。
淡い緑のレースに身を包んだ少女。
「モリアメル、私に過去を見せてくれないか…」
土下座し、それだけを頼み込んだ。
「先に、未来を見た方がいいんじゃない?」
意識が遠のいていく。
燃える世界。
争う少女が二人。
国中を巻き込み、炎に包まれる。
鳥が森から一斉に飛び立った。
「死者は40万人。」
その声でリヴァスは我に返った。
「これは…どういうことだ。」
「う~ん…難しいなぁ。『在ってはならない姿』かな?」
在ってはならない。
こう在るべきではないのだ。
「では、過去を!」
今すぐに過去が見たいのだ。
「記憶が消されたから、でしょ。なら駄目。」
「なぜ!」
どうしてこう理不尽なんだ。
「インフェルノの消滅で記憶を失ったものは多くいる。あなただけを救うことは私には出来ない。」
その一言が、リヴァスの胸を突き刺した。
「はあ。そうか。なら‥‥‥‥‥‥いい。」
その目に赤い殺意が宿っていることは誰にも分かるまい。
ならば、『在るべき姿』を目指すために、啓示に従った。
『闇の大司祭』アングルボザの啓示に従い―。
―結果があの『伝説の大火』だった。
吹っ切れたのだ。
あの一言に。
大火の数日前。
「このまま行ってもどうせ未来は『在ってはならない姿』になる。」
こうまでして抗ったのに報復はないのだ。
ならば変えればいい。
今から、『記憶の』の精霊を殺し、記憶を改竄すればいいのだ。
それこそが大火だった。
案の定、南の山でモリアメルは焼死した。
そしてリヴァスは精霊石に語った。
「これは、
世界はそうやって変えられた。
これまでの歴史も、何もかも。
後世に語り継がれるは、『これは、在るべき姿でしょうがないことだ。戦犯はヴァイオレアなのだから。』
この歴史になったのだ。
まるでこの歴史が正しかったかのように。
「それが、英雄の家系のエルダには効かなかった…もちろん、国王であるソールディニア・エインヘリアルにもだ…」
英雄の血は精霊の影響を受けない。
「でも…お前もこれで終わりだな。精霊の掟を破った。」
バルドルは静かに言った。
「そうだ。改竄の事を話した者の身は消滅する…そう。
リヴァスの体に赤い亀裂が入り、木端微塵に砕け散った。
「―。」
本当にこの終わり方でいいのか。と言う思念が翡翠の心に残った。
「だとしたら、本当の『在るべき姿』って何だったんだろう。」
ゼルネが不思議そうに呟く。
「確かに、『リヴァスが何もしなかった未来』も違う『変えた未来』も違った。」
バルドルは不思議そうに空を見る。
(
と、いうことはこのままお蔵入りなのだろうか。
「させない。」
エルダが呟いた。
「本当の『在るべき姿』を見つけ出す。」
それは皆同じことを思っただろう。
「でもどうやって?もう大火の時点で『在ってはならない姿』なのに今から変えれるのか?」
ジュアが疑問をそのまま言葉にする。
「あそこに行くしかねぇですかね…」
「確かにな。」
翡翠とバルドルが見合って頷いた。
「あそこ?というと?」
「この大陸の北にある聖域、ウプサラだ。」
この大陸以外に大陸があることに驚きだった。
「まぁ、隠されているからな。」
「出発は明日の深夜。」
エルダ達はそれぞれの覚悟を胸に、明日を迎える。
―翌日―
「―。」
まだ空は暗い。
暗いノルディア海を一隻の船が横断する。
「ここだ。」
高い壁に守れる、絶壁の孤島。
「聖地…ウプサラ…」
過去に凶悪な魔獣を封印していた場所とも言われている。
島の内部は廃墟と化していた。
「この大きな樹は?」
「この樹は、世界樹だ。かつては大きかったそうですけどねぇ。」
エルダの質問に、なぜか懐かし気に翡翠が答えた。
「ラグナロク。その決戦の戦場だ。」
バルドルの言葉に皆が凍り付く。
「かつての災厄、ラグナロク…」
エルダも鳥肌をたてながらそのことを口にする。
「まぁ、ずっと昔の話だがな。」
「で、ここに何があるんですか…」
エルダが聞いても誰も答えない。
「待ってれば分かるってんだろ?」
ゼルネがバルドルに問いかけた。
「来たぞ。」
殺気も敵対心もない。
「あなたは‥‥―!」
どこかで見たことのある女性。
「クラミア・ソール…」
バルドルが傍により―。
いきなり首を斬り落としたのだ。
『え⁉』
全員が呆気に取られている。
『試練を受けし者、まずは巨悪なる敵を打倒せ』
全員の心の中で鳴り響く声。
「やるねぇ、アヴィセス・コロルバス!」
翡翠がまた、懐かしむかのように跳ね上がる。
空から紫の魂が集まる。
形成されるのは巨大な狼。
「こいつを全員の手で倒すんだ。」
バルドルの言葉の一部が何故か強調されていた。
「この魔獣はここにいる全員の手で打ち払うんだです。」
何故か、誰も武器を構えていない。
「え?負けちゃいますよ⁉なんで…」
「言ったろ?全員の『手』って。あんた言葉理解できる?」
なぜか癪に障った。
ゼルネの言葉で気づけたが、これは罠だ。
攻撃すれば死ぬ。
ただー。
全員の手が狼に触れたとき、狼は消えてなくなった。
「さて、記憶は開け放たれた。」
バルドルが世界樹を見上げる。
「見せてくれ!リヴァスが見た、『何もしなかった未来』を!」
バルドルが樹に向かって叫ぶ。
『よかろう』
心に響く声の後、皆がこん睡状態に陥る。
「記憶の中へ。」
バルドルもそう言いながら眠りにつく。
―麗しきはずの姉妹は、ある日から決裂した。
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