第12話 カスタマイズ
夏休みも残りわずかである。平日の昼、家には僕、姉、志乃、加乃の四人である。
僕は姉、志乃とDVDを見ていたが、内容がホラーだったので加乃は僕の部屋でマンガを読んでいる。
B級のホラー映画を見終わり、志乃と姉は3時のおやつにするプリンを買いに行った。僕は読んでいた本の続きを読もうと自分の部屋へ。
加乃は僕のベットで眠っていた。2度目である。あまり使わないので大量に残っている「もう少し頑張りましょう」のシールを額に張り付ける。加乃は起きない。
僕もベッドに寝転がって本を読みたかったのだが、あきらめて壁を背もたれにして本を読む。
「もう食べられないの~?」
加乃が寝言を言う。誰かに、延々と何かを食べさせる拷問でもしているのだろうか? 僕じゃなければいいのだが…。
姉たちが帰ってきたら昼食である。現実にならないことを祈ろう。
「涼! お昼食べよう。」
志乃が元気よく部屋に入ってきた。加乃が起きる。
「もうお昼? 結構眠ったわね。」
昼食はパンである。志乃と僕でサラダを作り、昼食を食べる。昼食後は四人でイルカの番組を見た。その後、パソコンで水族館のイルカについて調べたりしているうちにおやつの時間になる。
プリンを食べながら加乃に僕のベッドで寝ることへの苦情と寝言を言っていたことを伝えた。
加乃は結婚して旦那に夕食をふるまう夢を見ていたらしい。イチャイチャしていただけで、旦那を拷問していたわけではないようだ。
「相手が誰かは分からなかったのね?」
姉が残念そうに言う。
「顔が思い出せなくて…。」
「涼はどうだ? ご飯が美味しいぞ?」
志乃が加乃に僕を
「そうね。涼はおススメよ。私が長い時間をかけてカスタマイズしてきたから、家事は完璧だし。髪を梳かしたり、髪を結ったり、いろいろできるわよ。最近だって、メイクや下着のフィッティングとか増えているし。あとは、マッサージとかエステとか覚えさせたら完璧ね。」
知っていたけど、姉さんがひどい。大学に進学したら姉さん好みの資格を取らされそうな気がする。どうせ取得するなら就職に役立つものが良いのだが、姉が進める資格に興味を持ってしまいそうで我ながら心配である。きっとマッサージやエステの資格を取るのだろうなと思ってしまう。
「結婚となると、確かに涼はいいかも?」
加乃がまんざらでもない様子。僕は気が進まないのだが…。僕は、亭主関白とまでは言わないが、自分が主導権を握りたい。加乃が相手ではこの3人に振り回されるのが目に見えている。いや、母たちを含めれば5人だ。ごめんだ。
「エステって、あのカプセルに入るやつか? あと、カスタマイズってなんだ?」
志乃のエステのイメージがちょっとおかしい。日焼けでもするのか? 僕はエステとマッサージは結構近いイメージなのだが…。どちらも種類がたくさんあって複雑そうである。オイル塗ったり、アロマ焚いたり?
「カスタマイズは自分好みに作り変えることかな?」
「おおっ! 私も涼をカスタマイズしたい!!」
「いいわね。どうする? どうカスタマイズする?」
姉が乗り気である。やめてほしい。何かおかしなカスタマイズが為されそうだ。
志乃があごに手をあてて考え込む。
「
ん?
「いいねぇ。でも、角かぁ? 角は家に無いな………」
姉が考え込む。志乃は期待を込めた目で姉を見上げている。
「あっ、良いのがあるかも。ちょっと待ってて。」
姉は何か思いついたらしく、自分の部屋から何か持ってきた。紙袋を持っている。とてもいやな予感がする。
姉が紙袋から何かを取り出した。
取り出されたのは猫耳である。
「角じゃないけどこれはどうかしら? とんがっているし、良いと思うの。」
「いいっ! 早速つけよう。」
志乃は角でなく耳でも良いらしい。僕に猫耳が付けられた。
「案外似合うわね。」
加乃が感想を言った。余計なお世話である。姉は何か不満のようで「うーん」とうなりながら何か思案している。
「やっぱり猫耳といえば猫耳娘よね。涼、化粧しよう。」
姉はそう言うとまた部屋へ戻り、化粧道具を持ってきた。逃げても無駄なことは分かっているので、僕はおとなしく座って待つ。志乃は紙袋から猫耳を取り出して、自分の頭に装着した。もう一つあったので加乃にも渡した。嫌がるかと思ったが、加乃も猫耳をつけた。
おとなしく姉にメイクされる。ウィッグまでかぶらされて本格的に女装である。姉は僕の後に志乃にもメイクを
3人で写真を撮る。まるでハロウィンである。まだ、2か月以上先だが。
「しっぽは無いのか?」
志乃が姉に聞いた。
「しっぽは無いの。…そうだ! 買いに行きましょう。しっぽが売っているところに心当たりがあるわ。」
姉と志乃の2人で買いに行くのだと思って油断していた。
「涼、着替えましょう。4人で行くわよ。」
「分かった。顔を洗ってくるから待ってて。」
「何を言っているの。もっと女の子らしい服装に着替えるのよ。」
「えっ? ………やだよ。」
全力で拒否をしたが、志乃が目を輝かせて僕を見ている。
「いいじゃない、私も見てみたい。」
加乃まで…。女装して外を歩くなんて御免
結局、姉の私服を着せられた。スカートにワンピース、志乃が大喜びしている。加乃は目を丸くして驚いている。僕は姉にメイクされて、鏡を見ていない。
姉の部屋で姿見を見る。
美少女がいる。自分で言うのもなんだが、美少女がいるのだ。猫耳だけど。
姉の車に乗り込み4人で猫のしっぽを買いに行く。4人中3人は猫耳である。
店内。周りの視線が痛い。志乃がいることがせめてもの救いだろうか。
耳の色に合わせてしっぽを選びレジへ持ってゆく。
すれ違った女子高生の2人組が、「猫がしっぽ買ってる。…かわいい。」などと笑いながら去ってゆく。
レジへしっぽを3本乗せる。若い女性の店員さんが僕を見て驚いたあと、志乃を見て笑顔になる。
「着けて帰られますか?」
「いいのか?」
店員さんのまさかの言葉に、志乃が色めき立つ。
「もちろんです。」
店員さんが笑顔で答える。志乃は僕を見上げる。
「着けて帰ります。」
僕の声に店員さんが凍り付いた。僕をまじまじと凝視する。
「くくっ。」
後ろから加乃の声が聞こえた。笑いをこらえている。後ろを振り向くと、加乃がそっぽを向いて震えている。姉は全く動じずに笑顔である。
「お願いします。」
固まったままの店員さんに声を掛ける。
「はっ、わかりました。」
店員さんは、なぜか頬を染めて僕を見ている。ちょっと怖い。
店員さんが値札をハサミで切る。
精算して、レジから少し離れてしっぽをつける。志乃のしっぽは僕が、僕と加乃のしっぽは姉がつけた。
「じゃあ、今から晩御飯を食べ終わるまでは語尾はニャね。」
「分かったニャ。」
志乃。
「任せろニャ。」
加乃まで。僕を見て笑っている。自分の方が恥ずかしいことも知らないで。
「やめてほしいニャ。あと加乃、額に何かついてるニャ。」
僕。力のない声で加乃に反撃した。出来れば姉に復讐したかった。
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店員さんは涼が声で涼が男だと気づいて驚いています。
なぜ頬を染めたのかは不明である。
第11話、誤字に気づいたので直しました。読み直す必要はありません。
御一方だけですが。
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