第11話 恋愛にならない
夏休みに入った。
今日も志乃と加乃が家に来ている。二人の母とうちの母は姉と三人で旅行中。父は仕事でいない。久しぶりに志乃、加乃と三人だけで家にいる。
居間で志乃の夏休みの課題を見ていたが、終わったら今日は友人と遊ぶと言って出かけてしまった。何故わざわざ家にきて勉強をしたのだろう。よくわからない。
加乃は僕の部屋でマンガを読んでいる。僕は自分の夏休みの課題を進めることにして自分の部屋へ戻った。
加乃が僕のベッドで眠っている。信頼はうれしいが、もう少し警戒心を持ってほしい所である。
額に「たいへんよくできました」のシールを貼ってみたが起きない。放っておいて勉強することにした。
「…まだ食べられるよう~。…うふふ。」
加乃の寝言である。寝言の定番から外れている。まだ食べられるのかよ! 心の中で突っ込みを入れる。夢の中でもう少し食べたら定番の寝言が聞けるのだろうか?
加乃が寝返りをうった。少しTシャツの裾がめくれ、わき腹が見えてドキッとする。しばらくの間、加乃のわき腹を凝視したが、あまり興奮しない。姉の裸を見慣れているせいではないかと不安になる。加乃に恋愛感情を持っていないから当然なのかもしれないが…。見えた瞬間ドキッとしたからよしとしよう。
加乃の寝顔を眺めながら、なぜ加乃に恋愛感情を持てないのか考える。性格も良いし結構可愛いと思う。やはり、志乃のせいだろうか? 理屈は分からないが志乃と仲がいいことが、加乃に恋愛感情を持てない原因のような気がする。
加乃が目を覚ました。寝顔を眺めていたので見つめ合うことになってしまった。
「人の寝顔を見ないでよ。それもガン見じゃない。」
「そこ、僕のベッドなんだけど。………考え事をしていたんだ。」
「私の寝顔を見ながら何を考えていたのよ?」
「加乃に恋愛感情を持てないのはなぜかなぁと。可愛いと思うんだけど。性格もいいと思うし。」
「ありがとう。照れるわ。」
加乃は頬を染めて、うつむき、もじもじしている。僕が珍しくも加乃を褒めたものだから照れているようだ。意外だ。どや顔をするかと思ったのだが…。
「結論は出たの?」
「うまく言えないけど、志乃と仲良くなったことが原因かなと思ったのだけど…。」
「ああ、わかる。私も翔子姉がいるから涼に恋愛感情を持てない気がする。美少年だし、一応、性格もいいとは思うけど。」
「一応って…。僕、性格悪い?」
「一応、良いって言ってるでしょ。涼、口が悪いじゃない、私に。」
「まあ、遠慮してないね。口が悪いのは姉さんのせいだよ。…なんだか姉さんのせいで、女の人に興奮しなくなってしまったのではないかと心配したんだ。ちょっとだけど…。」
「今まで、彼女いたこと無いの? もてそうだけど?」
「ないよ。あまりもてた記憶もないけど。」
「告白とかされてそうだけど………、ねえ、告白したことは無いの? 今まで誰かを好きになったこと無いわけ?」
「中3の時に告白された子に振られたことがある。」
「え? 振った、じゃなくて振られたの? 意味が分からないのだけど?」
「部活の後輩に好きですと告白されたんだけど、ならお付き合いしますかって聞いたら………」
「聞いたら?」
僕が少し言いよどんだら、加乃が先を促した。
「先輩、私の事好きですかって聞かれて、話をしたことがあまりないからよくわからないって答えたんだけど…」
「だけど?」
「私の事を好きじゃないのに付き合う訳にはいかないって振られた。」
「なるほど。告白されてその場で振られるってなかなかね。やるじゃない。」
「馬鹿にしてるね? 結構、ショックだったんだよ? 加乃はどうなの?」
「私? 何度か告白されたことはあるけど、全部断ったよ。」
「全部断ったの? なぜ?」
「なぜって…、好きじゃないからに決まっているでしょ!」
「そんなもの?」
「そんなものよ。 好きでもないのに付き合おうとするなんて、どうかしてるわ。」
夕食時、姉たちは帰ってきている。父は遅くなるようだ。食事は僕と加乃で作った。サラダは志乃が野菜をちぎって作った。
加乃が僕が寝顔を眺めていたことをばらした。ついでに失恋話も。
「ああ、それね。」
なぜか姉は僕が振られたことを知っていた。
「姉さん…。なぜ知っているの?」
「お母さん情報よ。」
姉がサムズアップして答えた。そして、おかずのコロッケを頬張る。詳しいことを話す気はないようだ。
代わりに母が話し出した。
「悠ちゃんね。お母さんと仲がいいのよ。いい子だったのに付き合えなくて残念だったわね。」
「涼、振られたのか? 何故振られた? 嫌われていたのか?」
志乃は聞きずらいことを聞く。もう少しオブラートに包んでほしい。
「悠ちゃんは涼のこと好きだったのよ。でも、涼は好きじゃなかったの。」
「じゃあ、なんで涼が振られた? 逆じゃないのか?」
「普通はそうよね。告白されたときに、涼が付き合うか聞いたら断られたのよ。」
「なぜ断った?」
「涼が悠ちゃんのことを好きじゃない行って知ったからよ。悠ちゃんは自分以外にも涼のことを好きな子がいるって知っていたから付き合うことができなかったんだって。」
志乃と母によって真相が暴かれてゆく。当然僕は初耳である。
「自信がなかったんだって。振られると思って告白したのに付き合おうと言われてびっくりしたって言っていたわ。あと、一番最初に告白したからという理由で付き合うことになるのはなんか違うと思うって言ってた。」
言ってた? 会ったんですか、姉さん?
「母さんから聞いて気になったから、伝手をたどって会ったのよね。」
「ご飯、もう一杯食べよう。」
お代わりでこの場から離脱することにした。茶碗を持って立ち上がると、志乃が追いかけてきた。
「私もお代わりだ!」
志乃が僕を追い越す。左手に茶碗を持ち、なぜか冷蔵庫を開ける。左手の茶碗を見て首をかしげた。
「間違えた!」
志乃は炊飯ジャーの前に移動し、フタを開けた。ジャーの横に茶碗を置いて僕に向かって手を差し出す。
「よそってやる!」
志乃に茶碗を渡した。山盛りによそわれる。日本昔話か!
「ありがとう。」
志乃に礼を言って席に戻る。志乃が僕についてくる。茶碗が空のままだ。
「志乃、お代わりは?」
不思議に思い、僕が尋ねると、
「涼にたくさんよそったらお腹いっぱいになったからやめた。」
ちょっと何を言っているのか分からないのだけど…。
「なに、その夢のようなダイエット法。お代わりをよそっただけでお腹いっぱいになるなんて。」
加乃が色めき立つ。加乃も何を言っているのか分からないのだけど。そんなダイエット法は存在しない。
「涼はなぜつきあおうとした?」
志乃が話を蒸し返してきた。このままダイエットの話になってほしかった…。
「…告白されてうれしかったんだよ。初めてだったし。付き合ってみればうまくいくんじゃないかって思ったんだ。」
「そうか。残念だったな。」
「昔の話だよ。」
「気を落とすな。」
志乃に慰められてしまった。
「ところで志乃。さっき、なんで冷蔵庫を開けたのかな?」
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茶碗持って冷蔵庫開ける事ってあるよね?
大学生の頃、しょっちゅうやってたなぁ。
冷蔵庫以外のバリエーションも豊富です。
いろんなドアを開けるのだ。トイレとか…
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