第9話 涼と加乃
姉と白石家がすっかり仲良くなってしまった。白石家とは、志乃、加乃、そして二人の母である
吉乃さんは仕事が忙く、帰りが遅くなることが多い。そのため家には志乃と加乃の二人でいることが多く、夕食は加乃が作っている。
僕の家も両親が出張で家を空けることが多く、夕食は姉か僕が作っている。
志乃と加乃が家にきて、一緒に夕食を食べることが多くなった。休みの前の日はほぼ泊っていく。仕事が終わった吉乃さんも家にきて泊っていく。もはや、僕の家に住んでいると言っても過言ではない。
一番の要因は志乃が僕になついてしまったことにあるのだろう。妙に気に入られてしまった。
日曜日、今日は僕の両親と姉は日帰りの温泉旅行で夜まで帰らない。姉の右腕はとうに直っているので姉の運転である。吉乃さんは休日出勤。家には僕と志乃、加乃の三人だけである。
僕と加乃は期末テストが近いのでテスト勉強である。
志乃は少し前までテレビを見ていたが、今は僕の部屋で勉強している。小学一年生なので宿題も少なく、土曜のうちに終わっている。今は算数の予習?をしている。
ちらっと見たが、どう見ても一年生の内容ではないと思う。2桁の掛け算をひっ算で計算しているけれど、これは何年生の内容だろう?
家に遊びに来るようになった頃は九九の7の段しか覚えていなかったが、僕が面白がって九九をすべて覚えさせたらすぐに覚えてしまった。
さらに、2桁の足し算を教えたらひっ算がお気に召したらしく、引き算、掛け算と破竹の勢いで進んでしまった。次は割り算だろうか? あまり進み過ぎるのもどうかと思うが…。
テーブルの向かい側では加乃が眉間にしわを寄せている。化学の問題にてこずっているようである。
志乃が
おかげで、いつの間にか呼び方が「加乃さん」から「加乃」へと変わっていた。僕も二人から「涼」と呼び捨てにされている。
ちなみに、志乃は加乃のことを「加乃
「うううぅ…、ねえ涼、モル計算得意? この応用問題分かる?」
加乃が聞いてきた。30分ほど解答とにらめっこしていたが解読できなかったようである。
「ちょっと待って、加乃。この問題解き終わってから。」
僕は説いている最中だった数学の問題を解いてから説明をした。説明の最中に僕と加乃がモルモル言っていたせいで、説明後、志乃が僕たちに質問した。
「モルってなんだ? なんかかわいいぞ。」
「炭素…鉛筆の芯に使われているやつだね。炭素12グラムに含まれている炭素12の原子の個数かな?」
「ほほう。」
僕が説明したら、志乃は自分の筆箱から鉛筆を取り出して眺めだした。
「炭素12ってなんだ? 13もあるのか?」
「13もあるよ。炭素12っていうのは………」
僕は紙に炭素12を描いて説明した。「炭素」や「原子」についてもおおざっぱな説明をする。モルについても説明したが理解できたのかは不明である。一応満足そうな顔をしている。こうやって志乃の偏った知識が増えて行く。何を忘れ、何を覚えるかが分からないので少し不安である。
志乃に気を取られていると、今日は加乃からのおかしな攻撃がさく裂した。
「………ところで、
「加乃、分子を数えるのにモラルは関係ないと思うけど。モラリズムは道徳主義だね。三文字目Rだし。」
加乃、対数の
僕の指摘の仕方がお気に召さなかったようで、加乃は口をへの字にして僕をにらんでいる。口に出す前によく考えろと言いたい。
「僕も何の略かは知らないから調べてみたら?」
僕は勉強机の上にあるノートパソコンを指さした。
加乃はノートパソコンを持ってきて調べ始めた。モルは
「あらっ! モルの定義、2019年に変わったみたいよ? つい最近だね。」
僕も加乃の隣へ移動してパソコンの画面をのぞき込んだ。志乃も寄ってきた。
「モルが変わったのか? どうなった?」
「うーん。要するに12グラムに入っている炭素12の原子の個数じゃなくて、6.02214076×10の23乗 って個数に変えたのかな。」
「10の23乗。零が23個だな。20個で
「よく覚えているね。1モルはだいたい6022
「一、十、百、千、万、億、兆、京、垓。…多いな。………何でモルを変えた?」
「えっ? 難しいことを聞くね。………グラムが関係なくなったことに意味があるみたいだね。1グラムはこういう重さという決まりがあってそれとモルが関係なくなるってことかな。他の決まりと関係なくなるのは重要なのかもしれないね。」
「グラムと関係なくなる…。重さから解放されたのか?」
「何それ、ダイエットから解放されたみたいな魅惑的な言葉ね。」
僕と志乃のやり取りを黙って聞いていた加乃が参加してきた。会話の内容がおかしな方向へ進みだす予感。
「加乃姉は最近プリンの食べ過ぎだと思う。毎日のように食べている。」
「志乃も食べてるじゃない。甘いものは一日一個だけだから大丈夫よ。」
「それくらいなら大丈夫じゃないかな? 我慢する方が体にも良くないんじゃないかな?」
「そんなものか?」
「そんなものだよ。」
「なら、私は毎日とりたまのプリンが食べたい。ケーキでもいいぞ。」
「さすがにそれは贅沢じゃないかな? 普段はスーパーで売っているプリンやシュークリームでいいんじゃないかな?」
「スーパーのもうまいな。プッ〇ンプリンは偉大だ。」
「僕もそう思うよ。」
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高校の化学、数学が話題に上がるけど用語だから問題ないよね?
私はプッチンプリンは買わない。もっと安いやつを買うのだ。
杏仁豆腐も捨てがたい。
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