第3話 姉と幼女
妹の志乃は幼稚園の年長さんである。好奇心旺盛で記憶力も良く かしこい。特に、見たものをそのまま覚える事に
今、居間のパソコンで妹と数の単位を調べている。何がきっかけだったかは忘れた。
一、十、百、千、万、億、兆、京、………。多い。横からのぞき込んでいる志乃はテンションが上がっている。しゃべり方は、先日一緒に読んだマンガの影響でちょっと乱暴になってしまった。さらに、テレビで見た何らかのドラマのせいで私を「
「たくさんあるな! 最後の方は変な名前だな!」
「
「覚える! 壁に貼って!」
「私が書くのね…」
漢字なので私が書くしかない。めんどくさい。
「習字がいい!」
「えっ? 墨で書くの?」
…面白いかも? 暇だしな。ちょっといい墨汁で書こうかな…。
後で壁に貼ることを考えて、大きな模造紙に安い墨汁で書くことにした。
億から無量大数の十六個。8行2列で書くことにして、鉛筆で薄くスペースを分けた。右下のスペースに、一番長い無量大数をはじめに書く。
無量大数 むりょうたいすう 0が六十八こ
後は、左がそろうように不可思議、那由他、と書いていった。志乃は隣で練習用の半紙に兆と那由他を書きまくっている。どうやらその二つが気に入ったらしい。
出来上がった模造紙を壁に貼る。
「なぜ、丸が4つずつ増える?」
「えっ?」
深く考えていなかったが、万から億もゼロが4つ増えているわね。そうか。
「1万、10万、100万、1000万、次が1億。でゼロが4つ増えているのよ。1那由他、10那由他、100那由他、1000那由他、その次が1不可思議。」
「おおっ! じゃあ、
「うーん…、
「エロいのか!?」
「万はちょっとエロいの。まんまんなんて繰り返したらエロ過ぎよ。」
「万はエロいのかー。一万円はエロいのか?」
「お札は大丈夫よ。数えるときが要注意よ。1万個なんて、超エロいわよ。」
「プリン1万個は超エロいか?」
「超エロいわね。」
「スーパーマンはエロいか?」
「スーパマンは男だからマンでもエロくないわ。」
「女だとエロいのか?」
「女だとスーパーウーマンね。ちょっとエロいわ。」
「ウーッ、マン?」
「スーパー、ウーッ………マン!」
「スーパー」でばんざい、「ウーッ」でしゃがんで、最後に「マン」で右手の拳を上に突き上げながらジャンプ。
夕食の支度が済んだから私の部屋まで呼びに来たのだが、母と志乃は何をしている?
「スーパーウーマン1号、2号。晩御飯だよ。」
「はーい。」
「はーい。」
二人仲良く良い返事である。
「なゆたー!」
風呂から上がると、右手に持った1メートルほどの紙テープをなびかせて、志乃が居間を走り回っていた。私は長風呂なので、一緒に入った志乃はだいぶ前に上がっている。
紙テープに1那由他を書いたようである。1の後ろに0が60個。なるほど。
テーブルの上に置いたままの紙テープのロールから1メートルほどの長さの物を2本切り取る。私も那由他のテープを2本作った。面倒なので指数を使って10の60乗。
「2那由他の舞~」
「おおっ!
志乃の動体視力!
「
舞うのを止めて紙テープの端を見せる。
「これが那由他だ! これで、ゼロが60個の代わりになるのだ!」
「おおおっ! これはお得だ。 なんか、かっこいい!」
「詳しく説明すると、10を60個掛け算する。掛け算って知ってたっけ?」
「掛け算………、あれだ! 九九! 7の段だけマスターした!」
「えっ?」
「しちいちがしち。しちにじゅうし。しちさんにじゅういち。………しちくろくしじゅうに。」
「よりによって、一番難しい段を? 」
「5の段は難しい…」
「え? 1の段を除けば一番簡単じゃない?」
「7の段は、
「なるほど。暗記したのね。」
「5の段は、理屈を教わった。5づつ足せと。」
「うんうん。」
「でも、5の段は、言葉にする前に、ときどき立て続けに2回足してしまって、九が来た時には本物より少し増えてしまう。」
妹が何を言ってるかワカラナイ。
「全部、呪文で覚えれば?」
「
うちの母はちょっとどうかしている。
「
「なるほど。…まかせて!」
紙テープを1メートルほどで切り取る。電話の脇にあるペン立てから筆ペンを取り、「弐那由他」と書く。
「この字は漢字の二のかっこいいバージョンよ。」
「…かっこいい。もう1本! もう1本作ってください。」
拝まれた。
志乃と二人で2那由他の舞を舞っていたら、風呂から上がった母に怒られた。
「加乃! パンツ一丁で何やってるの! 志乃を見習ってパジャマを着なさい!」
断じて、パンツ一丁ではない! スポーツブラをしているではないか!
夢を見た。志乃がどんぶりを持っている。
「2那由他丼になります。」
白米に、ふりかけの様に10がたくさんかかっている。
「ありがとう。」
「卵もかけますか?」
「お願いします。」
「卵、1万個になります。エロいです。」
そう言って、志乃はどんぶりに辛子明太子を乗せた。卵ではある。
「
「どうして7の段ですか?」
「縁起がいいからです。
「ごちそうさま。10がさくさくしていて美味しかったです。」
起きたら風邪をひいていた。生理も来ていた。
朝食は母と私が協力して作る。がんばってキッチンへ降りると、母はすでに起きていた。今日は志乃も起きている。
「風邪ひいた~。生理来た~。」
母は冷たい。
「パンツ一丁で変な踊りを踊っているから風邪なんか引くのよ。今日は部屋で寝てなさい。」
「これは、生理からくる風邪なの!」
脱衣所にあるナプキンを取りに行く。…ない。
「母さん、ナプキンが…ない。」
母はすました顔でひどいことを言う。
「さっき、私が最後の1枚を使った。買うの、忘れてたわ。帰りに買ってくるから、何とかしていて。」
「酷すぎる。…古いパンツ重ねて何とかなるかな。…間にティッシュ挟もう。」
母と志乃と一緒に朝食を食べる。私はヨーグルトだけ。市販の薬を飲んで寝る。
「お金おいておくから、大丈夫そうなら後で買いに行きなさい。ダメだったら、あのケーキ屋でプリン買っていいよ、志乃。」
「プリン!」
志乃は一瞬喜んだが、私を見て、
「昼過ぎまで待つ。
「志乃、そばにいると風邪がうつるから、できるだけ放っておくのよ。」
ひどい。
昼過ぎに目が覚めたら志乃がいない。プリンを買いに行ったのだろう。少し心配だが、ケーキ屋まではまっすぐ進むだけでたどり着く。しっかりした子だし大丈夫だろう。
帰ってきた志乃は、ナプキンと、プリンを買って帰ってきた。千円では足りない。彼女が持っている金額よりも高い金額になる商品を持ち帰ったのは、これで2度目である。家のご先祖にわらしべ長者でもいるのだろうか?
____________________
出だしのあたり志乃・加乃が訳の分からない会話してますが気にしないでください。
自分で後で読んでも一瞬分からなかった。
2021/04/04 上記の記述直したのでましになったと思います。
生理からくる風邪は無理があるかな?
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