第1話 私が婚約した話
私の名前はフローラ・ハイネス。侯爵家の長女として両親、そして2歳年上の兄、レナートと4人で幸せに暮らしている。そして私には15歳の時に伯爵家の長男で同い年のノエル・チェスター様と婚約を結んだ。
ノエル様と初めて会ったのは忘れもしない。我が家で初のガーデニングパーティーが行われた私のデビュタントの日でもあった。そのパーティーに出席していたノエル様こそが私の遅い初恋相手になるとは夢にも思いもしなかった。
あの当時の私は引っ込み思案なうえ、人づきあいがとても苦手でのパーティーにすっかり気後れしてしまい、邸宅の薔薇園に逃げていた。そこへ偶然ノエル様が現れて、隠れていた私を見つけてくれたのだ。
会場では主役である私の姿が見えないと言う事で大騒ぎになり、出席者総出で私の捜索をする事になったらしい。そして私の顔も知らないノエル様が偶然バラ園に隠れていた私を発見し、パーティー会場へ連れ戻してくれたのだ。
それだけじゃない、ノエル様はダンスのパートナーになってくれて、つたない踊りしか出来ない私をノエル様の巧みなリードのお陰で見事なダンスを人々の前で披露する事が出来たのだった。
もう、この段階で私はすっかりノエル様のとりこになり・・それに気づいた私を溺愛する父が後日チェスター家に私とノエル様の婚約話を持ちこみ、私と彼は婚約を結ぶ事が出来たのだ。
憧れのノエル様と婚約する事が出来た私は天にも昇るような気持だったのだけども、その反面罪悪感で一杯だった。
だって、何故なら彼が私と婚約する事が出来たのは・・・私の方が爵位が上だったから。ただ、それだけの理由。
だから私は少しでもノエル様に恥をかかせない為に魅力的な存在になれるように努力した。
引っ込み思案の性格を社交的にするために、無理をして色々なパーティーに参加し、徐々に度胸を付けていった。
そして外見も少しでも美しくなれる様に美を磨く努力をした。
例えばこの黒髪・・・・色だけは変えようがなかったけれども、ある意味この黒を逆手に取ってみようと考えた。
黒髪はきちんと髪のお手入れをすれば美しい光沢が生まれ、いわゆる天使の輪と呼ばれるサラサラつやつやの髪に生まれ変わらせる事が出来ると美容師のアドバイス受けた。
そこで私は髪のお手入を頑張って続け、ついに念願の美しい黒髪を手に入れる事が出来た。
更に私は地味な顔を少しでもカバーする為に、女性らしいスタイルを維持する事に努力した。適度な運動、美肌に効果のあると言われる食事に心がけ、睡眠をたっぷり取る・・・。そして他の貴族令嬢達から、称賛されるようになれたのだが・・・地味な顔だけはどうしようもなく、その事がずっとコンプレックスになっていた。
ある昼下がりの午後―
青空の下で私は仲の良い貴族令嬢達とお茶会を開いていた。
「本当にフローラ様の髪はお美しいわ。」
私と同い年のマルティナ様が紅茶を飲みながら言う。
「ええ、本当に・・・そしてその美しいお肌に完璧なボディ。同じ女性として憧れてしまいますわ。」
金の髪のベアトリーチェ様がマカロンを口に入れながら私を見た。
「何を仰っておられるのですか?私にとっては貴女の金の髪の方が余程美しいと思いますわ。」
私はベアトリーチェ様に微笑みながら言った。そんな時・・・。
「あら?こちらへ近付いてこられるのは・・ノエル様と・・・遠縁のクリスタ様ではありませんか?」
レベッカ様の言葉に私は振り向くと、確かにこちらに向かって歩いて来るのは私の愛しい婚約者のノエル様と、彼の幼馴染のクリスタ様だった。
「まあ、本当だわ。ノエル様とクリスタ様ね。」
私は笑顔で言うが、他の友人達は怪訝そうな顔になり、互いの顔を見渡している。
・・・・どうかしたのかだろうか?でも、そんな事よも今重要なのはノエル様がこちらへ向かって来ていると言う事。
「今日は、ノエル様、クリスタ様っ!」
私は立ち上がって手を振るとノエル様が笑顔で手を振り返してくれる。
「こんにちは、フローラ、そして御友人の皆様。」
ノエル様は笑顔で友人達に挨拶をする。
「「「こんにちは。」」」
3人の令嬢達は綺麗に声を揃えながら挨拶を返した。
「あ、あの・・フローラ様・・。」
するとノエル様の背後にいたクリスタ様がモジモジしながら私に話しかけてきた。
「あ、あの・・・私も皆様のお茶会い混ぜて頂けないかしら・・・。」
「ええ、勿論ですわ。人数は多いほど楽しいですから。いいですわよね?皆様。」
振り返り、私は3人の友人達に声を掛けたのだが・・・。
「い、いえ。私達は・・そろそろお暇させて頂きますわ。」
マルティナ様は言いながら立ち上がると、他の2人も立ち上がった。
「え・・・?何故ですの?」
私が尋ねると、令嬢達は次々と自分達の今日の予定を話し出した。
するとマルティナはピアノのレッスン、ベアトリーチェはダンスのレッスン、そしてレベッカは刺繍の先生が屋敷に尋ねて来るそうだ。
「そうでしたか・・皆様お忙しかったのですね・・。」
私が残念そうに言うと、3人は申し訳なさそうに俯き、今度は必ず埋め合わせをさせて貰うと約束をしてくれた。
そして3人供、帰ってしまった後・・・。
「3人だけになってしまいましたわね・・・。」
私がポツリと言うと、クリスタ様は寂しそうに頷いた。
「まあ、いいさ。僕達3人でお茶会をすればいいじゃないか。」
ノエル様はクリスタ様を元気づけるように笑顔で言った。それはとても素敵な笑顔だった。
「ええ、そうね。」
クリスタ様も元気を取り戻すと、ノエル様と視線を合わせて微笑みあう。ああ・・・やっぱりノエル様はとても親切なお方だ・・・。私は視線を合わせて微笑み合うノエル様とクリスタ様を見つめるのだった―。
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