悪役令嬢は高らかに笑う

結城芙由奈

序章

「オーホッホッホッ!御機嫌よう!ノエル様、クリスタ様!本日はとても良いお日柄ですわねっ!」


休日の昼下がり―。

ここは美しいバラが咲き乱れる我が屋敷の庭園。

ガゼボの中で座ってお茶を飲みながら仲睦まじげに話しをしているのは、私の大好きな婚約者ノエル様と彼の幼馴染である美しいクリスタ様。

そんな2人の前に、青空の下で目も痛くなるような真っ赤なドレスを身に着けて現れた私は左手に扇子を持ち、右手を腰に当て、耳障りなキンキン声で高笑いをした。


「や、やあ・・・フローラ・・・。」


栗毛色の美しい髪のノエル様が引きつった笑顔で私を見て挨拶する。


「こ、今日は・・・フローラ様・・。」


クリスタ様・・・。

この方はノエルの幼馴染で遠縁の血筋の方である。ノエル様と同様の栗毛色の巻き毛の髪は、私の様に真っ黒でストレートな髪と違ってとても美しく・・・羨ましい。


「お2人と御一緒に、お茶でも頂こうかと思っていたのですけど・・・どうやら一足遅かったようですわね?」


私は2人の前に並べられた紅茶と焼き菓子の皿を眺めながら言った。


「ち、違うんだよ!フローラ、誤解だよ!」


コバルトブルーの瞳を瞬かせながら、ノエル様は首を大袈裟に振って否定する。


「そ、そうです。偶然ここで出会って、何故か偶然メイドの方が現れてティーセットを用意してくれたんですっ!信じて下さいっ!」


クリスタ様も両手を組んで必死になって私に訴えて来る。


「まーあ、お2人供!そのようなお話、この私が信じると思いましてっ?!偶然出会って、偶然ここでお話をしていたら、これまた偶然にメイドがお茶のセットを持って現れるなんて・・。でも、もう結構ですわ!どうぞお2人で仲良くお茶でも飲みながらお話して下さいませっ!邪魔者の私はこれで退散させて頂きますわ。オーホッホッホッ!」


そしてクルリと背を向け、手に持っていた日傘をさすと私は扇子で自分を仰ぎながら立ち去って行く。


「あ!待ってフローラッ!誤解なんだってばっ!」


「そうですっ!フローラ様っ!お待ちになってっ!」


必死で呼びかける2人を無視して私はバラ園の中を歩いて出て行く。歩きながら私は呟いた。


「偶然・・・?それは当然よ。だって全部私が2人の為に手を回した事なのだもの。」


私は互いの名前を使って、ノエル様とクリスタ様をあのガゼボに呼び出した。

そして2人が揃ったところへ、お茶のセットを届けるようにメイドにお願いしたのだから。そこへ私が現れて、悪役令嬢の役を2人の前で演じて立ち去る・・・。全ては計画通り事が運んだだけの事。


きっとこれでまた、ノエル様の私への好感度が下がってクリスタ様に気持ちが傾いていくはず。


「うん、これでいいのよ。後悔なんかしていないわ。」


私は空を仰ぎ見ると呟いた。


だって・・・私は2人に取っては恋仲を邪魔する存在にしか過ぎない。


いわゆる悪役令嬢なのだから―。





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