第2話 クリスタ様との出会い

 私がクリスタ様と初めて会ったのはノエル様と婚約して3年目の春の事だった。


この日は休日で、私とノエル様の週に一度の顔合わせの日だった。

私とノエル様は馬車で3時間はかかる場所に住んでいる為に、休日しか会う事が出来なかったのだ。


「ノエル様・・・まだかしら・・・。」


待ち合わせ場所のテラスで私は紅茶を飲みながら恋愛小説を読んでいた。黒い髪の毛の艶とスタイルだけは自信があったが、地味な顔の作りだけはどうしようもない。そこで内面を美しくさせようと、日々恋愛小説を読んで女性らしさや、恋愛について日々勉強していたのだった。


「ふふ・・この恋愛小説は今までになくドキドキするわ・・・。やっぱり愛する二人の仲を裂こうとする展開の有るお話は面白いわ・・・。」


その時・・・コツコツと足音が背後から聞こえ、声を掛けられた。


「お待たせ、フローラ。」


ああ・・・あの優しい声は・・・大好きなノエル様の声だ。


「ノエル様・・・。」


振り向いた私の目にノエル様の背後にいた女性が飛び込んできた。

え・・?あの方はどなたかしら・・?

ノエル様と同じ髪の色に、同じ瞳・・・ひょっとすると妹さん・・?でもそのような話は今まで一度も聞いたことが無い。

するとノエル様は私の女性を見る視線に気が付いたのか、笑顔で言った。


「ああ、いきなり彼女を連れてきたから驚いたよね?彼女の名前はクリスタ・フェルナンド。僕の遠縁の親戚の女性なんだ。年齢も僕たちと一緒で18歳だよ。さあ、クリスタ。婚約者のフローラに挨拶して。」


婚約者・・・。ノエル様の言葉にキュンとしながら私は数歩、ノエル様達に近づいた。するとクリスタ様が前に出て来るとうつむき加減に言う。


「あ、あの・・・クリスタ・フェルナンドと申します・・・。ノエル様とは母方の遠い親戚にあたります。どうぞ・・よろしくお願い致します。」


そして丁寧に頭を下げてきた。


「こちらこそよろしくお願い致します。フローラ・ハイネスと申します。」


ドレスの裾をつまみ、深々と頭を下げて顔を上げると何故かクリスタ様が顔を赤らめて私を見つめている。


「あの・・・何か・・?」


首を傾げてクリスタ様を見ると、ますます真っ赤になりながら言った。


「い、いえっ!あ・・あの、あまりにもフローラ様がお美しかったので・・・。」


え・・・?この私が美しい・・・?


「まあ、お上手ですね。私はこの通り、見た目も地味な女です。むしろクリスタ様。貴女の方が余程お美しくていらっしゃいますわ。」


そう・・・本当にクリスタ様はとても美しい方だ。


「そんな、私なんか・・・うっ!ゴホッ!ゴホッ!」


突然クリスタ様が激しく咳き込んだ。


「まあ!どうされたのですかっ?!クリスタ様っ!」


「大丈夫っ?!クリスタッ!」


ノエル様はクリスタ様を突然抱き上げると私に言った。


「ごめんよ、フローラ。実はクリスタは喘息の持病があるんだ。それで自然に溢れた環境の良い場所で暫く生活した方が良いと主治医に言われて、僕の住む屋敷で暮らす事になったんだよ。」


「え?そうだったのですか?」


「うん・・・ここへ来たのも3日前だし・・・。疲れがたまっているのかもしれない。ごめんね、フローラ。折角の顔わせの日だって言うのに・・今日はもう帰らせてもらうよ。どうしてもクリスタに会って貰いたかったんだけど・・。」


ノエルは心配そうにクリスタを見つめる。


「い、いえ・・・ノエルは何も悪くないわ・・・私が無理を言って連れてきてもらったのだから・・・。」


クリスタ様は青ざめた顔で答える。


「私の事はお構いなく、どうぞクリスタ様をお願い致します。」


私の言葉にノエル様は頷いた。


「うん。それじゃ・・お言葉に甘えて・・・行こう。クリスタ。」


そしてノエル様はクリスタ様を抱き上げたまま背を向けると歩き去って行った。


「また・・次回お会いしましょう。ノエル様・・・。」


私はポツリと呟いた―。

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