第5話 帰還
ヨアヒムとの戦いが終わった後。
アルドとカイルは廊下の最奥にある扉の前までやってきていた。
「大丈夫か、カイル」
「……うん、もう大丈夫だよ」
アルドの問いに、カイルが頷く。
「……いつまでも泣いてたら、あっちの父ちゃんに笑われちゃうしね」
「そうか」
カイルの答えにアルドは小さくうなずくと、テオから受け取ったカードキーを取り出した。
「……じゃあ、開けるぞ」
アルドは扉の横に据えられていた機械にキーをスライドさせた。
赤く点滅していたランプがピッ、という音とともに青白く発光した後、ガチャリ、とキーのロックが外れる音がした。
「ここか……」
アルドたちは意を決して扉に手を掛けた。重たい鉄の扉は、ゆっくりと音を立てて内側に開き、アルドたちは中へと足を踏み入れた。
「これは……」
中に入ってあたりの様子を確かめる。すると部屋には大量のカプセルが据えられていた。中には人が眠っている。おそらく捕らえられたエルジオンの人だろう。
「父ちゃん……父ちゃんは……?」
カイルが急いでカプセルの中に眠る人たちを探していく。すると、
「あっ……!」
部屋の最奥、カプセルが並べられているその中心に、見覚えのある人物が眠っていた。
「父ちゃん……!」
カイルが駆け寄る。カプセルの横の制御盤を動かし、中のカプセルを開けた。
「父ちゃん、父ちゃん……!」
カイルの呼びかけと同時、眠っていたテオがゆっくりと体を起こした。
「……こ、ここは……?」
「父ちゃん……!」
カイルがテオに抱き着いた。
テオは訳が分からないという調子で、
「カイル……⁉ お、俺はいったい……」
「助けてくれたんだよ。もう一人の父ちゃんが……!」
カイルはテオに手を差し伸べて言う。
「さぁ、帰ろうよ。エルジオンの街へ」
◇
「本当に今回はお世話になりました」
「ありがとう」
それから、数時間後。
エルジオンに帰ってきたアルドは、連れ帰ったカイルと共にアディアに感謝をされていた。
「いや、俺は大したことはしてないよ」
アルドは手を振ってそう言った。
そういえば、とアルド。
「テオさんの容体は?」
「とりあえず医者に診てもらっています。しばらくカプセルの中だったので、運動機能に問題があるようですが、すぐによくなるみたいです」
「そうか、それはよかった」
アルドは安堵した。
不意に、カイルの方に視線を寄せ、
「ん……?」
彼が持っている者に気が付いた。
「カイル、それは……」
カイルが持っているのは、テオの偽物であった合成人間が託したカードキーだった。
「あの父ちゃんもおれの父ちゃんだから。これは思い出として大事に撮っておきたいんだ」
「そうか」
カイルの言葉に、アルドはうなずいた。
「それじゃおれたち、そろそろ帰るよ。アルド兄ちゃん、本当にありがとう」
「ああ」
「またね、兄ちゃん」
「ああ、またな」
元気いっぱいに手を振りながらカイルは母親とともに自分たちの家へと去っていった。
――大事な思い出、か。
その背中を見送りながら、アルドは心の中でそう呟いた。
最後にカイルを庇ったあの合成人間のように、もし自分の家族への記憶が、フィーネとの思い出が偽物だとしたのなら。
俺は、あんなふうにフィーネを守るため、自分の命を賭けれるだろうか。
「………………」
そんなことを考えて、アルドはすぐにかぶりを振った。
「考えるまでもなかった、よな」
アルドはそう呟いて、空を見上げた。
エルジオンを見下ろす空は、どこまでも青く、澄み渡っていたのだった。
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