第4話 父との別れ

 こつこつ、と人気のない廊下に二つの音が反響していた。

 静まり返った廃墟の回廊に寒々しく響くそれは、アルドたち二人の足音だ。

 リフトを昇った先の通路を抜けたアルドとカイルは、この廊下に出るとヨアヒムの指定した目的の場所に向かって歩を進めていた。


「この先だな……」


 アルドの記憶が正しければ、この先が工業都市廃墟の最奥となるはずだ。

 アルドは物陰に身を隠すと前方の様子を確認した。


「どう? アルドにいちゃん」

「……シッ、誰かいる」


 背後に控えていたカイルに、アルドが口に手を当て制止した。


「――あれは……」


 アルドたちの視線の先には、二つの人影――ヨアヒムとテオが対峙していた。

 それに気づいたカイルが近寄ろうとするが、アルドは彼の腕を取るとそれを制止した。


「兄ちゃん、何を……」

「待て、カイル。何か様子が変だ。少し様子を見よう」


 言うと、慎重に物陰から二人の様子をアルドは確認した。耳をそばだて、二人の会話に聞き耳を立てた。


                     ◇


 工場都市廃墟の最奥。

 そこに、テオとヨアヒムが対峙していた。


「やれやれ。君も随分としつこいな。いい加減、私に執着するのはやめてもらいたいものなんだが」

「そう思うのなら、早急に返してもらおうか。お前がさらった街の人たちを」


 テオの言葉に、ヨアヒムはクックッ、と可笑しそうに笑った。


「自分だけ被害者面とは面白い。君もあの事件に関わった加害者だろうに」


 ヨアヒムの言葉に、テオが顔をそむけた。


「おや、なにも言い返せないか。では――」


「果たして――自分の息子にも同じような態度が取れるかな」

「……なに」


 テオがハッとした表情で背後を見た。

 そこには――


「……父ちゃん」


 自分の息子、カイルが立っていた。


「今の話、どういうこと……?」


「……カイル、どうしてここに……」

「答えてよ、父ちゃん! 父ちゃんがあの事件に関わってるってどういうこと……⁉」

「……それは」


 カイルの詰問にテオが黙り込んだ。


「おやおや、仮にも君の息子がこんなに問いただしているんだ。少しは答えてやるべきだとは思わないかね」

「仕方ない。せっかくここまで来たんだ。カイル君、約束通り、私が代わりに教えてあげよう」

「! やめろ……!」

「この男、テオは……」


 テオの制止にも構わず、ヨアヒムは言った。


「――君の、本当のお父さんではない」

「え……?」

「それは、どういう……」


 呆然とするカイルに対し、ヨアヒムは言った。


「こういうことだ」


 茫然としていた隙を突いてヨアヒムがカイルに向けて銃弾を放った。


「カイル……!」


 それをテオが慌ててかばった。

 カイルの代わりにテオのその脳天に銃弾が撃ち込まれた。


「ぐはっ……!」


 倒れるテオに、アルドたちが慌てて駆け寄る、


「父ちゃん……! そんな……!」

「テオさん、大丈夫か……! しっかりしてくれ……!」


 だが、銃弾を撃ち込まれたテオの頭部はとんでもないことになっていた。


「…………!」


 テオの傷口からは血は出ず、かわりに機械の部位が覗き出ていた。


「なっ……テオさん、この姿は……」

「……ッ、これは……」

「フフフ、これが君たちの先ほどであったテオの正体だ」


 ヨアヒムは愉快そうに笑った。


「彼は元はただの量産型の合成人間。君たちの探しているテオという人間ではなく、私によってそのテオの記憶データを移植された、ただの人形なのだよ」

「記憶の移植だって……⁉」

「で、でたらめなこと言うな……! じゃあ、本物の父ちゃんはどこに……。それに、記憶の移植って……」

「………人の持つ「心」の研究のため、だ」

「心……? その研究が、テオさんの記憶と何の関係があるんだ……⁉」


 ヨアヒムの言葉にアルドが問う。


「合成人間は元を辿れば、人間に作られた存在だ。ありとあらゆる機能において、人間を上回る我々が、なぜ未だ人間を滅ぼすことが出来ていないのか。それは、我々がある一点において不完全であるからに他ならない」

「なに……?」

「「心」だよ。我々は作られた存在だ。ゆえに、心という概念が理解できない。要は未完成品なのだよ。では逆に、なぜ人間は心を持つに至っているのか?」


 ヨアヒムは続ける。


「記憶だ。私は人間が心を持つに至る理由に「記憶」が関係していると考えた。我々合成人間には記憶がない。メモリ内の記録データがすべてであり、それを書き換えられたら過去の自分は消えて新しい自分に生まれ変わる。現状我々は、メモリという記録回路にデータの詰まった器でしかないのだ」


 と、ヨアヒム。


「それに比べて、人間は違う。連続性のある記憶こそが、その人間の経験に基づいて、固有の心という概念を形作っている」

「記憶が、心を……?」


「そうだ」とヨアヒムは頷いた。


「人の記憶こそが、心を形作っている……そう考えた私は、人間の記憶を合成人間に意図的に再現する方法はないかと模索することにした。その考えに基づいて私が生み出したのが、人を構成している記憶をデータ化して合成人間のメモリに移植する実験だ」

「人間の記憶をデータに……? まさか……!」

「そう。そのために私は合成兵士を使ってエルジオンの外に出た人間たちを襲い、拉致した。彼らの持つ記憶をデータとして抽出し、合成人間に移植し、心という概念を再現した合成人間を生み出すために」

「そんなことのために、人間を襲ったのか……!」

「そんなこと? 心を理解するためには必要なことだ。この研究が成就した時、我々は不完全な存在から脱却し、真の意味で完全な存在となりうるのだから」


 そこでヨアヒムは眉をひそめた。


「だが、実験は上手くはいかなかった。どういうわけか、移植されたメモリーがエラーを起こし、起動すらできない始末。研究が難航を極めた時、とある人間がこの工業都市廃墟に捕虜として運ばれた。私はダメもとでこの男の記憶データを研究に用いることにした」

「父ちゃんの記憶……⁉」

「するとどうだ。今まで起動すらできなかった合成人間が、いとも簡単に起動した。起動した個体はテオの記憶にしたがってテオ本人であるかのように振舞い、しまいには仲間である我々を葬ろうとさえした」

「…………」

「私はこの男に、自分自身はテオ本人ではなく、合成人間だという事実を伝えた。すると今度はこの男は人間の自我と合成人間であるという事実の間で葛藤し、苦悩の末に我々の元から脱走した。以来この男はハンター・テオとしての運命を全うすることを選び、私の命を突け狙うようになった、というわけだ」


 ヨアヒムの言葉に、テオは目を伏せた。


「私はこの結果に興味を抱いた。なぜこの男の記憶のみが他と違って移植に成功したのか。私はコピーしたテオの記憶データをのぞき見ることにした。そして理由を理解した。それは親子の絆が原因だとね」

「君のことだ、カイル君」

「おれ……?」

「君との絆が強い記憶の波長を生み出し、それが実験の成功につながった。そこで私は考えた。今度は君を捕えて、記憶の研究がしたいとね」

「! だからカイルをここに連れてきたのか!」

「ふふ、そのとおり。君を捕えようにもエルジオンの中に居られては簡単に手も出せない。そう考えていた矢先、偶然君は行方を失った父親を追ってこの廃墟までやってくるではないか。これはまさに天の配剤、そう考えた私は、君を父親の情報を餌にここまで誘ったというわけだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ……」

「じゃあ、本物の父ちゃんは……? 父ちゃんはどこ……?」

「分かりきったことを。記憶を取られたオリジナルなど、もう生きているわけがないだろう。研究に利用した際に処分したよ」

「嘘だ……」

「嘘ではないさ。もっとも、あんなふうに抵抗などしなければ、殺すこともなかったがね。実験に利用する際にうるさくてね。「囚われた人を返せ」と」


 と、ヨアヒムは言った。


「面倒だから殺してしまったよ。ああ、死に際にこんなことも言っていたな。「約束守れなくてすまない」と。あれは、君との約束かね」

「嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だ!」


 カイルは叫ぶと、廊下を走り去っていく。


「カイル、待て!」

「ふふ、引き裂かれた家族の絆。絶望。親子の絆のデータはすでにテオから取れていたが、それが引き裂かれた際の心の波形サンプルはまだとれていなかったからね。いいサンプルが取れた」

「……おまえ! そんなことのために!」

「彼はもう用済みだ。この廃墟から出る前に始末しなくてはね」

「……させるか!」


 激昂したアルドがヨアヒムに剣を叩きこんだ。

 しかし剣は身体をすり抜け、手応えなくすり抜けていった。


「またホログラムか!」

「……そのとおり。では御機嫌よう」


 ヨアヒムの身体がふ、と消える。


「く、逃げたか……! カイルが危ない、はやく追いかけないと……!」


 駆けつけようとするアルド。

 が、その前に無言のテオのほうへよ振り返り、言った。


「……あんたはどうするんだ」

「俺は彼の父親ではない。記憶を植え付けられたただの偽物だ。彼を助けに行く資格なんてない」

「資格? 資格ってなんだ。親が子供を助けるのに、資格なんて必要なのか?」

「だが、私は彼の父じゃない。偽物の――」

「ふざけるな!」


 アルドは激昂した。


「たとえ偽物でも、あんたはキルの父親だろ! 父親なら、子供を守るのがあんたの役目のはずだ! テオさんの記憶を持ってるのに、そんなことも分からないのか!」

「…………」


 アルドの言葉にいたたまれないようにテオの偽物は目を伏せた。

 そんなテオを一瞥してから、アルドはカイルの後を追って走り出した。


                       ◇


「父ちゃん……本当に大丈夫なの?」

「うん? 何の話だ」


 エルジオンを歩いている最中。

 カイルはテオに訊ねた。


「明日行くはずの輸送部隊の任務のことだよ。エルジオンの外に行くんでしょ」

「カイル、俺がそんなにヤワじゃないのは知ってるだろ。それに、比較的危険の少ない区域での任務だから大丈夫だ。すぐに戻るさ」

「でも、父ちゃんがいなくなったら、おれに修行を付けてくれる人がいなくなっちゃうよ」


 カイルの言葉に今度はテオが訊ねる番だった。


「修行?」


 カイルが頷く。


「うん。おれ、強くなりたいんだ。それで父ちゃんみたいに強いハンターになるんだ」

「ハンターなんて仕事、簡単に目指すものじゃないぞ。ただでさえ、危険が多くていつ自分に何が起こるかかわからないんだ。目指すなら、他の仕事にしとけ」


 テオのそっけない返しに、カイルは唇を尖らせる。納得できないというふうに聞き返した。


「危険って……じゃあ、なんで父ちゃんはハンターになったのさ」

「そうだな……お前やお母さんのような大事な人を、それから、他の誰かにとっても大事な人を危険なものから守るため、だな」

「大事な人を守るため……?」

「ああ。そうすれば、結果としておまえや母さんを守ることにもつながるだろ。だから、俺はハンターになったんだ」

「かっこいい!」


 カイルは目を輝かせると、父親に詰め寄った。


「おれ、やっぱり父ちゃんみたいなかっこいいハンターになりたい。それでいつか、父ちゃんと一緒に悪い奴らからこの街の皆を守るんだ! だから、おれに特訓をつけて!」

「はぁ……まったく、こういう頑固なのは誰に似たんだかな」


 テオはため息を吐いた。


「……わかった。負けたよ。この任務から帰ってきたら、お前の特訓に付き合ってやる。ただし、時間に余裕があるとき限定でな」

「本当⁉」


 カイルは約束のしるしに手を出した。


「約束だよ! 帰ってきたら、絶対付き合ってよ!」

「ああ、約束する」

 

 言うと、テオはカイルの手を取り、約束した。


                    ◇


 どことも知れない場所を、カイルは走り続けていた。


「嘘だ……」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」

「父ちゃんはおれに約束したんだ。絶対帰ってくるって……! なのに……!」

「くっ……」


 起き上がろうとするが力がわいてこない。

 ここに来るまではあれだけ動いていた身体が泥に絡めとられたかのように動かない。

 どんなに立ち上がろうとしても、心がそれをかたくなに拒んだ。

 そのときだった。


「カイル!」


 そんなカイルの元に、聞き覚えのある声が届いた。



「よかった。まだ無事だったんだな」


 一生懸命に廊下を走った先に、カイルがいた。

 アルドは倒れ込んでいる彼に近寄ると、

 

「まったく……一人で勝手に飛び出したらだめだろ! ここは危険だ。ヨアヒムが来る前に、一緒に帰ろう」


 手を差し伸べるが、


「帰るって、どこに……?」

「カイル……?」


 そんなカイルに、アルドは驚いたような顔をする。


「どこに、って……エルジオンに決まってるだろ。何言ってるんだよ」

「そんなことしたって、意味ないよ。父ちゃんはもういない。おれにはもう、生きる意味なんて……」

「そんなことは……」

「そのとおり」


 そのときだった。

 廊下の向こう側から、合成人間の男――ヨアヒムが現れた。


「この少年は文字通り、生きる希望を失ったのだ。そんな彼に、これ以上生きろだなんて残酷なことを言う」

「ヨアヒム……!」

「もう十分だろう。君はよくやった。私の研究のためによい成果を生んでくれた。ここで消えたまえ」

「させるか……! カイルに手は出させない……!」


 立ちふさがるようにアルドが二人の間に立ち、剣を構えた。


「やれやれ。無意味なことを。彼はもう生きる意味を見失っている。楽にしてやるのが情けというものじゃないか」

「それはお前が決めることじゃない。生きる意味なんて、また何度でも見つければいい。大事なのはどう立ち上がるかだ」


 そう言って。

 アルドは背後にちらりと視線をやった。


「……そうだろ、テオさん」

「ああ、その通りだ」

「……なに?」


 その瞬間、背後から凄まじい速度で影が通り過ぎ、ヨアヒムに剣閃が走った。

 攻撃を右手で受けながら、ヨアヒムはその現れた影・テオに忌々しそうな視線を向けた。


「ぐっ……貴様、なぜ……」

「アルド君に言われて目が覚めてね。たとえ偽りの記憶でも、こうして培ってきた息子との思い出は本物だ。なら、俺はその心に従う。それだけの話だ」

「父ちゃん……」


 ヨアヒムが手を広げる。その手に巨大な鎌が握られる。


「いいだろう。邪魔をするというのなら、まとめて消してやろう」

「テオさん。こいつは俺が引き受ける!」

「ああ、頼む。カイルのことは私に任せてくれ」



そう言った瞬間、ヨアヒムがエネルギーの斬撃を飛ばしてきた。

アルドはそれをギリギリで躱しながら距離を詰めていく。


「はっ!」


そのまま、ヨアヒムに向かって剣で一薙ぎ。

しかし、その攻撃はヨアヒムの鎌によって防がれた。


「無駄だ。君の戦いは、すでに廃道で合成兵士と戦ったデータを分析済みだ。私には届かんよ」

「それは……やってみなくちゃわからないだろ!」


 続けざまにアルドが連続で攻撃を浴びせる。


「これならどうだ!」

「……無駄だと言ったはずだがね」


 ヨアヒムが鎌を振り、その一撃をアルドは受け、吹っ飛んだ。


「ぐわあああああっ……!」


 壁に激突する前に、背後のテオがアルドの身体を受け止めた。


「アルド君! 大丈夫か!」

「あ、ありがとう、テオさん、助かったよ」


 そんな二人に、ヨアヒムが鎌を握ったまま、進んでくる。


「諦めたまえ。これがただの人間と合成人間の差だ」

「……っ」


 そのときだった。


「勝って、アルド兄ちゃん!」

「カイル……」

「おれ、もう逃げない! 現実と向き合うから! だから負けないで兄ちゃん! こいつのせいで苦しんだ街の人たちのためにも! おれの父ちゃんのためにも!」

「……ああ、わかった」


 アルドはうなずくと、腰に佩いたもう一本の剣に手を掛けた。


「なにをするつもりだ」


 それには答えず、アルドはもう一方の剣・オーガペインを引き抜いた。

 件から青白い閃光がほとばしる。


「なんだ、これは……」

「行くぞ……!」


 瞬きの内に距離を詰め、アルドはヨアヒムに肉薄した。


「なに……!」


 驚くヨアヒムに、アルドはオーガペインを振り下ろす。


「終わりだ」


 そしてその剣がヨアヒムの身体を真っ二つに切り裂いた。


「バカな。私が……この私が……!」

「やったね、アルド兄ちゃん!」

「そうはいくか……私は、まだ……!」


 散り際に、ヨアヒムが手から細い弾丸を発射した。


「……お前も道連れだ!」

「! カイル、危ない!」


 カイルに向けられたそれを、身を挺してかばったテオの胸部を貫いた。


「父ちゃん!」

「大丈夫か、カイル……」

「父ちゃん! しっかりして、父ちゃん!」


 倒れたテオに、カイルが駆け寄る。


「違う。俺は……君の本当のお父さんじゃ、ナい……」

「ううん、違うよ! 偽物だって関係ない! 今の父ちゃんも……おれの大事な父ちゃんだよ!」

「はは……ありがとな、カイル」


 そう言うとテオは駆け寄ってきたアルドに一枚のカードキーを手渡した。


「……これを」


 アルドはそれを受け取った。


「……これは?」

「捕らえられた捕虜の人たちが収容されている部屋に入るためのキーだ。この通路の先にある部屋に、ほかの人たちは捕らえられている……これがあれば、テオとともに連れ去られた皆を助けられるはずだ」

「……テオさん、あなたは……」

「俺は最初、自分のことを本当にカイルの父親、テオだと思い込んでいた。だが、ヨアヒムに真実を伝えられた時、私は心の底から絶望したよ。私が、私自身が、心の底から憎む合成人間だったのだと。もっとも……その心さえも、借り物の記憶だったわけだが……」


 そう言ってから、テオはカイルを見つめた。


「カイル、テオ……君のお父さんは、生きている」

「えっ……?」

「ヨアヒムに処分されそうになったところを、私が救出してある。おそらくは、囚われた人と一緒に眠っているはずだ」

「本当……!」


 カイルは一瞬、喜んだ顔をしたが、すぐに目の前のテオを見て、複雑そうな表情を見せた。


「でも、でも父ちゃんは……」

「カイル、おれはおまえの本当の父ちゃんじゃない」

「でも! でも……この父ちゃんも、おれの父ちゃんなんだ! だから……」


 そんなカイルの頭に、ぽん、とテオが頭を置いた。


「カイル、俺はもういなくなる。けれど、お前は一人じゃない。おまえは自慢の息子だ」

「……!」


 そして。


「強くなれよ、カイル」


 それが、テオの最期の言葉になった。


「父ちゃん……?」


 カイルの呼びかけに、テオはもう答えることはなかった。


「父ちゃんっ! 父ちゃんっ! うわあああああっ!」

「………………」

 

 テオの身体を抱きしめながら、カイルはただただ涙した。

 泣きじゃくるカイルを見て、アルドはただそれを見守ることしかできなかった。

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