8thキネシス:ウェットワークスなれどもプロフェッショナルにしか出来ない仕事

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 陰キャの高校1年生、影文理人かげふみりひとの部屋には、何も無い。

 理人は叔父の家でお世話になっている身だ。

 必要最低限のモノしか与えられず、スマートフォンだけが唯一高価な持ち物である。

 これも、中古の機種に安い通信キャリアのシムカードだ。


 両親は離婚、母親は実家に戻っているが、自分の子供に興味が無いヒトだった。

 実家の連絡先も、何も聞いていない。


 父は離婚時に「理人を引き取るのは自分だ」と強固に主張したが、今となってはそれが妻に対する当て付けでしかなかったのだとよく分かる。

 理人を連れて弟の家に来た父は、直後に失踪。

 兄の子を押し付けられた形の叔父は、当然ながら良い顔はしなかった。

 そもそも兄弟仲が良くなかったというのは、後から知らされた事実である。


 そして、子供を置いて消えた父に何か重大な事情があったとは、理人は全く思わない。

 自分に都合のいい理屈しか言わない、愚痴と文句しか零さない、美味しい物は子供からだって奪い取る。面倒臭がりで、問題の解決手段はいつだって短絡的。

 子供心に、ろくでもない大人だと思っていた。


 理人は、同世代の少年より少し小柄だ。


 スマホのアラームに起こされた陰キャ少年は、寝ぼけ眼で液晶の画面を確認しようとして、そこに違和感を見出していた。

 見覚えの無いウィンドウが表示されている。

 それが着信相手の氏名と番号を示すのは分かっていたが、友人のいない理人にはほとんど縁の無いモノだ。

 以前に表示されたのは、トイレの最中に学校から連絡があった時のモノか。


 もしや休校の連絡か何かか。

 かすむ目をこすり視界をハッキリさせる理人は、改めて着信相手の名前を見て、朝っぱらから心臓を爆動させることになる。

 なにせ、昨夜理人に電話をしてきたのは、先日電話番号を交換したばかりの学校のアイドル的美少女、姉坂透愛あねさかとあであったのだから。

 これは今すぐ返信した方がいいのか、それとも早朝はやめた方がいいのか。

 女子どころか携帯着信の経験すら少ない理人には、究極の難問となる。


 イジメ加害者から身内の権力を笠に着た冤罪をかけられたことなど、思い出す余裕すらなかった。


               ◇


 夏休み前の最後の日となる。

 本日は授業もなく、全校集会とクラス担任からの連絡事項があるのみだ。


 学校に来るまで、陰キャ少年は非常に落ち着かない思いだった。

 結局、姉坂透愛に連絡できなかったのだ。

 携帯マナーをよく知らず、女子相手にどう話していいかはもっと分からない理人には、あまりにも高いハードルだったので。

 もう、教室で会った時にでも謝ろう。

 そうして、問題を先送りにするほかなかったのである。


 ところが、終業式が終わった教室内に、学校のアイドルは不在であった。


「あー、姉坂のおウチから学校に問い合わせがあったんだがー、姉坂が昨日から家に帰ってないそうだー。

 誰か何か聞いてないかー。どこに行くとかー、誰に会うとかー、様子がおかしかったとかー」


 特に心配している風でもなく、事務的に生徒たちへ向かって言う担任教師、痩せ型の50代、麻田一生。

 しかし内容の方は穏やかではなく、話を聞いてクラスメイトたちがざわめき出す。

 姉坂透愛は友人が多く、また心配する人間も多かった。


「昨日から? 帰ってないの?」

「家出? 誰かの家に泊まってるんじゃなくて??」

「男のところかも…………」

「マジか、彼氏なんていたの?」

「姉坂さん可愛いしさー、誘拐とか?」

「ヤバない? てか事件でしょこれ」


 次々と飛び出す憶測や推測。とはいえ、その中に確たる情報は何も無い。

 途中、学年主任も教室に来てクラスに同じ質問をしたが、声を上げる者はいなかった。


「影文君が何か知っているんじゃない? 昨日も何か話してたみたいだし」


 そんな場面でそんな独り言を聞こえるように言うのは、仮面優等生の花札星也はなふだせいやだった。

 だが、その表情は普段の爽やかな好青年のモノではなく、あざけるような素に近いモノとなっている。


「おいホントか影文ー!? お前また・・何かやったんじゃないだろうなー!!?」


「何か心当たりがあるなら今すぐお言いなさい! 後ろめたいことが無いなら話せるでしょう影文さん!!」


 案の定、その話に食い付いて激しい追及を見せる担任と学年主任。

 理人には、何も知りません、以外に出せるセリフが無い。

 それに対しても、真面目に考えてない、や、協力する姿勢が見られない、と難癖を付けられた。

 クラスの生徒からも、「影文が殺した」とか「いつか何かやると思っていた」などという決め付けるようなセリフが聞こえてくる。


 もっとも、理人が姉坂透愛に何かをやったという証拠など何も無く、またこの時点では明らかに飛躍した思い付きの言いがかりでしかなかったので、それ以上の追求も無く終わった。


 何か分かったら学校に連絡するように。

 そのような形で締められ、夏休み前の最後のホームルームは終了した。

 クラスの生徒のほとんどは、夏休み明けまで姉坂透愛の安否を確認できないという事になるのだろう。


「ねぇ花札君…………あの、昨日トアを呼び出してくれって言ってた、アレ・・なんだけど――――」


「ん?」


 そうして生徒たちが教室から出る間際、姉坂透愛の友人である濡れ髪の長身女子が、何かに怯えるように花札星也に話しかけていた。

 それに対して、優等生はニンマリとした笑みを相手に向ける。


「ぁ……う、ううん、なんでもないから。それじゃ、また夏休み終わったら…………」


「大丈夫だよ鴉葉からすばさん、姉坂さんはすぐに見付かるって」


 形こそ笑みを作っていたが、口を引き結び目を大きく見開くそれは、明らかに威嚇のたぐいのモノであった。

 その意味は、鴉葉からすば久遠くおんも察することができる。


 花札星也の意向に逆らえばどうなるか、も。


 気休めのセリフも、空虚でしかなかった。


               ◇


 いよいよ明日から、高校一年目の夏休みとなる。


 ここひと月で、影文理人の人生は、大きく変ったと言えた。

 エリオット・ドレイヴンという超能力の師との出会い。

 ティッシュペーパー一枚を摘み上げる程度から、10トントラックでも軽々持ち上げられるほどに力を増した超能力マインドスキル

 暴力によるイジメに対する反撃と勝利。それから、エスカレートした権力による冤罪。

 姉坂透愛という友人との出会い。


 この夏休みは、更に多くの新たな経験が待ち構えていた。

 超能力マインドスキルの更なる修練、この世界の陰に潜む領域アンダーワールドの探索、請負人アンダーテイカーとしての仕事。

 理人には、この夏が自分の人生を決定付けることになるだろうという確信があった。


 でもその前に、理人にはやりたい事がひとつ。


先生マスター、マインドスキルでヒトを探したい時は、どうすればいいのでしょうか?」


「うん……?」


 イケメンダンディな英国紳士の先生マスターであるが、日本の食べ物は何でも好きだとか。

 今日の昼食は、青森の貝柱ラーメンを食べに碧屋という店に来ていた。

 味のある筋交いの柱が剥き出しな店内で、出汁味の濃いラーメンの中にはスープで戻した乾燥貝柱がたっぷり。

 この先生は、確実に日本人である自分より日本の食に精通していると思う理人である。


 そんなラーメンを完食した後のタイミングを見計らい、陰キャの教え子は先生に質問していた。


 安っぽいプラスチックのコップから水を飲む英国紳士は、そのまま少し考えるように沈黙する。

 この間に理人は、姉坂透愛のことや事態の詳細を、もう少し細かく説明しておいた。

 ついでに、姉坂透愛にバイトに誘われ応じてしまったことも言っておいた。


「……リヒター、この国のみならず、全世界で行方不明者、失踪者というモノは日々多く出ている。

 そういった事件はその国の警察機構が捜査するのが当然のことだが、中にはアンダーテイカーオフィスを通し、請負人アンダーテイカーに捜索の依頼が出されることもある。

 それらはつまり、失踪者がアンダーワールドに迷い込んだ可能性を考慮されたワケだが、いずれにせよ請負人アンダーテイカーにはヒト探しの能力を求められる場面が少なからずあるということだね」


 なんとなく、ダンディー先生が本当に言いたいことを伏せたような気がした生徒リヒター

 しかし、話の内容は今の自分には関係のあることなので、集中して続きを待つ。


「正直に言って、リヒター、キミは非常に優秀だ。優秀な超能力者だ。

 請負人アンダーテイカーの中には超能力者もいるが、以前にも言った通り、その大半はひとつの超能力マインドスキルに特化している。キミほど多彩な能力スキルを扱える者は珍しい。

 その時点で、キミは他の請負人アンダーテイカーより遥かに優位な状態で行方不明者の捜索ができるだろう」


 優秀と言われても、元々楽天的でも自信家でもない陰キャ少年には、いまいち信じ難いものがあった。

 だいたい、スキルの多彩さも出力も精度も、この先生マスターには全く及んでいないのでお世辞にも聞こえてしまう。


「キミは念動力サイコキネシス念話テレパシーから多くのスキルを派生させてきた。

 明日からアンダーワールドに入る予定だったが、その前に自身の能力をどのように応用できるか知っておくのも良いだろう」


 疑いの教え子をヨソに、ダンディ先生の方はコートを抱えて席を立った。理人もこれに続く。

 こうして夏休みのアンダーワールド実習の予定は、時間と内容を一部変更し超能力マインドスキルを用いた人探し実習となった。


 だがそれも、陰キャ少年は無論のこと、様々な経験をしてきた英国紳士の先生にとっても、思わぬ展開を迎える事となるのだ。


               ◇


「人探しも物探しも同じモノだ。手がかりを追い、その間を想像力で埋める。

 全てを繋ぎ合わせ、出来事の背景を完成させる。美術の修復作業のようなものだね」


 何事にもエレガントな英国紳士は、物事の例えも優雅でいらっしゃる。


 ところは、湘南藤沢にある大型ショッピング施設のレストラン内。

 夏休み初日から始まる予定だった超能力マインドスキル実習は、行方不明となった理人のクラスメイト、姉坂透愛の捜索実習に変更となった。

 レストランにいるのは、ただ夕食を摂る為だけではない。

 手がかりを追う、最初のピースを得る為である。


「彼女かな?」


「はい……そうですね」


 時刻は、午後6時15分。

 食後のコーヒーで時間を潰すつもりであったが、目的の人物は思ったより早くアルバイト先の店に顔を出して来た。

 バイトしていると聞いた場所も間違っていなかったようで、陰キャ少年もホッと一安心。

 本番はこれからであるが。


 ダンディ先生とフードを上げている陰キャ少年がいる、和食レストランの向かい側。

 ステーキ専門店に出勤してきたのは、クラスメイトの濡れ髪女子、鴉葉からすば久遠くおんであった。

 なお、イジメられボッチの理人とは、ほとんど繋がりが無い。

 では何故こんなところで待ち伏せるようなことをしていていたのかと言えば、それは鴉葉久遠のスマートフォンを拝借する為である。


 姉坂透愛は、未だ行方不明のままだ。携帯電話にかけても繋がらない。

 理人は警察官でもないし、そもそもそれほど姉坂透愛と親しいワケでもない。家族や友人に聞き込みなどすれば不審者認定まっしぐらであるし、監視カメラの閲覧権限もない、物的証拠なども集められない。

 では、どうするか。


 理人には、ただひとつ手掛かりがあった。

 それは、教室を出る直前に聞いた、鴉葉久遠と花札星也の会話内容だ。

 花札が鴉葉に、姉坂を呼び出させた、と聞こえた短い会話の一文。

 それが事実であれば、鴉葉は姉坂に具体的な場所を指定していた、ということになる。

 ならば鴉葉久遠に直接聞けば手っ取り早いのだが、前述の通り理人との交流は皆無なので、聞いたところで教えてくれるとは思えなかった。


 また、姉坂透愛に何か起こればその責任が生じてくるので、鴉葉久遠も口を閉ざすと思われる。


 そのようなワケで、初手から犯罪行為に手を染めなければならない超能力者であった。


「では、わたしはここで見張っていよう。まずは監視カメラの電源端子を引き抜き、更衣室に誰もいないのを確認してから侵入したまえ」


「え!? あ、その……はい」


 コーヒーのお代わりを店員さんに要求しながら、何でもない事のように言う英国紳士。

 教え子の方は、思いっきり動揺をあらわにする。

 一緒に来てくれないんですか!? というセリフが喉まで出かかったが、そんな筋合いはないだろうと飲み込んでいた。


「落ち付きなさい、リヒター。今のキミならそれほど難しいミッションではないだろう。

 まずは偵察だ。問題の品の位置は、確認できているかな?」


「はい……多分」


 落ち付いた先生の声色に、理人リヒターつとめて平静になろうとする。

 心臓は言う事を聞いてくれないが。


 無意識にフードを深く被る理人は、超能力マインドスキルの『遠隔視リモートサイト』を発動。

 『透視クリアサイト』を併用してステーキレストランの中を透かし内部を探り、従業員通路の先に更衣室を目視した。

 ここまでは、既に下見してある。


 更にここから、壁際に並ぶロッカーの中に『鴉葉』のネームプレートを確認し、その中を透視。

 小物を置く棚の上に、目的のブツがあるのを確認した。


「うー……頭グラグラするで」


「慣れてくれば、まず構造物のどこを見るべきか、似通ってくる内装や配置は自然と覚えるし、また隠されたモノや場所には違和感を覚えるようになるだろう。今は見るべきものが分からず、脳が疲れているだけだ」


 場所を確認すると、理人はすぐに遠隔視リモートサイトをオフに。真っ暗な視界の中で頭を休ませる。

 遠隔視、それに透視と言っても、そう便利なモノではない。探し物を自動サーチするような機能は無いのだ。

 望遠鏡で遠くを見ながら、街中の個人を見つけるようなモノだった。

 探すべき場所、探すべき位置をあらかじめ分かっていなければ、何も見えてないも同然となるだろう。


「それじゃ……行ってきます」


「リヒター、その場で調べようとはせず、まずはスマートフォンを持ってすぐに脱出してきたまえ。

 なんなら戻すのはわたしがやってもいい」


 先生が気遣ってくれるが、何となく理人はこのダンディー紳士に、更衣室への不法侵入やらスマホの窃盗やら、無様なことはさせたくないと思う。

 絶対失敗しないようにしよう。

 そう思いながら和食レストランのトイレに向かうと、個室に入り『瞬間移動テレポーテーション』を発動した。


「ふッ……!」


 一瞬周囲の景色が歪み、次の瞬間には別の場所に移っている。

 もう何度も瞬間移動テレポートしているが、瞬間的に見るモノが変わるというのは、多少慣れても脳に負担をかけるのは変らないらしい。

 この感覚が分かるのは、瞬間移動能力者テレポーターだけだろうが。


 しかしマスター・ドレイヴンいわく、本来この『瞬間移動テレポーテーション』という超能力マインドスキルもそれほど有用なモノではない、ということだった。

 瞬間移動テレポーテーションは、曖昧にどこに移動しようと思って出来るモノではない。明確に、どの座標に自分を送り込むかを把握していなくてはならないのだ。

 つまり、移動先を確認しておかねばならない。


 理人や先生マスター遠隔視リモートサイトでそれを可能とするが、一般的な超能力者は、そんなに都合良く遠隔視リモートサイト瞬間移動テレポーテーションのふたつを持ち合わせてはいなかった。

 目視距離内にしか瞬間移動できないか、あるいは念話使いテレパス遠隔視使いオブザーバーと連携して、長距離の瞬間移動を実現するという話だ。

 エリオット・ドレイヴンが影文理人を優秀と評するのも、全くお世辞でもないということだろう。


『リヒター、監視カメラを切り忘れている。先にわたしが切っておいたよ』


「あうち…………」


 緊張のあまり、致命的なうっかりミスをした優秀な生徒だが。


 先生マスターからの念話テレパシーによる指摘に、思わず崩れ落ちそうになる理人リヒター

 しかし時間もないので、急いで目的を達成することだけ考える。誰かが来たらことだ。


 更衣室は休憩室に併設されているが、そのどちらも飾り気が無く殺風景だった。ロッカーの他には、地味なテーブルとイスしかない。

 バイト先の更衣室とはこういうものかと、理人はちょっと興味津津。それに、明らかにいけない事をしている、と心臓も爆動していた。


 遠隔視リモートサイトと自分の目で見る視界に少し差異があるので、理人はやや戸惑いながら目当てのロッカーを探しひとつひとつネームプレートを確認していく。

 焦りから見落としていないかと迷いも生じるが、ややあってどうにか『鴉葉』のプレートを確認。

 ロッカーは扉に付いている4ケタのダイヤルロックで施錠されていたが、これに関しても超能力マインドスキルで問題無く対処できた。

 これ明らかに窃盗なんだよなぁ、という抵抗感が強かったが、黒いフード付きコートの不審者は、本命のスマートフォンを入手。

 ワインレッドのそれを持つと、理人はすぐさま移動先を遠隔視リモートで確認し、瞬間移動テレポーテーションで脱出していた。


「まずは第一段階クリアだな。おめでとう」


「あ、ありがとうございます?」


 和食レストランのトイレの個室に瞬間移動すると、理人は何事もない風をよそおいテーブルに戻る。

 終わってみれば、僅か4分の出来事だった。

 ちなみに、監視カメラの電源コードは、既に先生が端子を刺し直している。異常と気付かれる可能性も低いだろう。


「では次だね。手掛かりがあるといいが」


「…………はい」


 ほとんど知らないクラスメイトとはいえ、その持ち物を盗み出したという事実が陰キャ少年には重い。

 しかし、先生マスターの言葉に促されているような気がして、理人も計画を先に進める事とする。

 姉坂透愛に何かあってからでは遅いのだから。


「ゴメン鴉葉さん…………」


 テーブルの上にワインレッドのスマホを置くと、一言断って理人がそれに触れる。

 そして、思念視サイコメトリーを発動。

 スマートフォンに残る鴉葉久遠の思念、それを読み取りパスワードを解除するのだ。

 ロッカーのダイヤル錠を解除したのも、同じ手口である。

 雑多で断片的な思念の中から、特定の情報だけを見つけ出すのも楽ではないが。


「ッ~~~~うわッ、結構えげつない…………」


「リヒター」


「ハッ!? ごめんなさい集中します」


 途中、強烈なマイナス感情を拾い思わず声を漏らす陰キャ男子だったが、これを先生マスターが簡素にたしなめていた。

 それは、余計なことを知った為か、あるいは思念視サイコメトリーを途切らせた為かは分からない。


 それから5分ほど同世代の女子の思念と格闘して、どうにかパスワードを入手。

 普通は指紋認証を用いるはずなので、最近パスワードを使った思念が無いのか理人もえらくてこずった。

 先生マスターの言う通り、いったん持ち帰って正解だったと思う。

 スマホのホーム画面が表示されると、理人は普及率日本一のソーシャルネットワークアプリを開き、姉坂透愛との通信ログを探した。

 音声通話だったりログを消されていたら面倒なことになる、と思っていた理人だが、間も無くそれらしい書き込みを発見する。


「中華街……西門で待ち合わせ……。多分これだ」


 先日の日付の会話内容。時刻も合う。

 それは、鴉葉久遠が姉坂透愛を食事に誘う内容だった。

 だが、鴉葉久遠がその約束を果たさなかったのは、明らかだ。


「次はここに行って、サイコメトリーで手掛かりを探す、ってことですかね、先生?」


 思いのほか計画が上手く行っており、有力な情報も得られたことで浮足立つ陰キャの生徒。


 ところが、頼もしく理人を見守る渋メンの英国紳士は、何故か神妙な顔色となっていた。




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