第16話 こんにゃく

ある男がいた

ある男は言った。

こんにゃくが芋からできているなんて嘘だ

きっと魚類だろうあのなまぐささは


あの匂い

あの生臭さ

生魚を掴んだあとの自分の手を嗅いだ

その時と同じ匂いではないか

芋である由縁がどこにあろうか


あの見た目

磯にある石をめくった時にある

でゅるでゅるしてヌメっとしまあの得体のしれないなにかと

芋である所以がどこにあろうか


あの触り心地

きっと生の鰻を掴む時と同じ感覚なのだろう

私は生の鰻を掴んだことは1度もないが

こんにゃくを掴んでおけば

きっと生の鰻を掴んだことことになるだろう

芋である所以がどこにあろうか


あの見た目

黒くボツボツとして点々の集合体

私は見たことがある

私がまだ小さかったころ

課外授業で連れていかれた川辺に同じようなものが

なにかの粘膜に包まれて川底に沈んでいたことを

そんな見た目で

芋である所以がどこにあろうか


しかし、

この寒さに凍える日々で

あの弾力あの風味あの味見の染みようを前にして

食べることを我慢することができるだろうか


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