第9話 嘘認識

ある男がいた。

男は自分には商才があるという嘘を町中に振りまいた。

最初に男の家にやってきたのは金貸しだった。金貸しは、商才があっても金がなければ商売はできないと言った。男も確かにそうだと思い、金貸しからできるだけの金を借りた。

男は自分には金があると町中に振りまいた。今度は嘘ではない。

すると、金の匂いを聞きつけて商人がやってきた。しかし、商人は男に商品は売らなかった。商人は言った。こんなボロ屋に住んでいて金を持ってるとは思えない。もっていても、綺麗な金には見えないと。男は、確かに、と思い大工を呼んで豪邸を建てさせた。男の金はほとんどなくなってしまった。

豪邸を建てると、女がやってきた。女はいった。自分を使用人として雇ってくれと。金はなかったが、家が広すぎて手が回らないことは確かだったので女を雇うことにした。女は家の掃除を始めた。それを見ていて男も掃除をした。すると、女はいった。旦那様、何をしてらっしゃるのですか。掃除はわたくしめが行いますと。しかし男はいった。この広い家を1人で掃除をしていたら、いつまでたっても終わりやしないと。男は掃除を続けた。


女は町中に振りまいた。あの豪邸に住む亭主はとても優しい人間であると。あんなにも豪邸に住んでいるのにまったく威張り散らすこともなく、使用人の私に対しても、とても思いやりをもって接してくれると。


すると、男の家には、男の家で働きたいと言う人間がたくさんやってきた。男の家は町で1番活気のある豪邸になった。


すると、男の家、街の地主から遣いがやってきた。地主からの呼び出しであった。男は地主の元へいった。地主は男にきいた。

お前は何者だ?どうしてあんな豪邸住んでいる?どうやって人を集めた?

地主は捲し立てるようにきいた。

男はいった。私には商才があります。金貸しから金を借り、それを元手に家を建てました。すると、様々な人が家に集まってきたのです。

地主は、むう、と顔をしかめた。

男はいった。地主様、私に出資してくださいませんか?お金を貸してくだされば、地主様に必ず利子を付けてお返しいたします。

金を貸すということは地主にとっては男の出資者として町に君臨し続けることができるので、地主は男に出資するとこにした。

男は地主から借りた金で相場よりも少し多くの給料を使用人達に与えた。使用人たちは多いに喜び、男の家で働けることは町で評判になった。


ある日大雨が降った。


次の日、男の元に町の多くの住人がやってきた。住人達は言った。隣町へ行くための橋が壊れてしまった。どうか直してくれないかと。すると男はいった。わかりました。直してあげましょう。しかし、条件があります。みなさん少しずつかんぱカンパをしてください。町中の人達がカンパに参加してくれれば、一人一人の負担はほんの少しでいいですよと。すると、男の家を訪れた人々によって、町中に話が行き渡り、男の元には多くのカンパが集まった。男はその金で、前の橋よりも少し大きな橋を建ててやった。住人は大喜びをした。


男はいった。今後このようなことが起きることに備えて日頃から町のお金としてみんなで貯金をしませんかと。町の人達は毎月男にほんの少しのお金を渡して、何かあった時はそのお金で助けてもらうと言う取り決めを作った。


月日は流れ男はそのお金で金貸しに金を返し、使用人達には給料を払い、地主には配当を与えた。地主は大喜びして、また多くの出資をしてくれた。


すると、地主は他の金持ち達には、男に金を預ければ配当が得られることを言ってまわった。男の元には多くの出資者が集まった。

男はその金で商人たちの為に町を整備してやった。町は活気づいた。町の整備分として商人達から集める金を少しだけ増やした。商人にとっては、上がった売上のほんの少しだけであり、今後また、町の整備に繋がるのならとお金を男の元に納めた。


男は集まったお金でまた家を大きくし、多くの人を雇った。すると、その町だけでなく隣町のまで男のことは評判になった。男は隣町のまでの交通を整備した。町には多くの人が訪れるようになった。人口も増えた。人口だけでなく、町の面積も増えた。それに比例して男の元に集まるお金も増えていった。


男に商才はない。男は何かを仕入れたこともなければ何も売ったこともない。

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