第7話 私情
ある男がいた。
その男が散歩をしている道の途中に、石段があることに気がついた。いつも同じ道を通るわけではないので、毎回その石段の前を通るわけではないが、何回かに一回通る道の一つにその石段はあった。道の片方は森、もう片方は田園であり、石段は森の中へと続いいていた。石段の続く先を見てみると、先にあるものは見えそうで見えなかった。
とくに理由があったわけではなが、その日は石段を登ってみることにした。石段は両端に木々が鬱蒼としポツリポツリと灯篭らしきものが苔むした状態で転がっていた。階段自体はきれいとも汚いとも言い難いものであったが、一つ一つの段差が階段にしては低いためか、案外登りやすいものであり、水水と進むことができた。男はその素朴な佇まいに親しみを感じながら階段を上っていった。
どれくらい進んだだろうか、心地よいほどの汗をかき、息が切れるとまではいかないほどに、呼吸が深くなったころ、階段を上りきった。上り切った先には、古びた神社があった。色のない鳥居。その神社は廃れていた。大きさも境内に社が一つあるくらいのものだった。男は、その神社の周りを歩いてみた。古いことは確かだが、朽ちているわけではなかった。神社を構成する木材たちは年季が入って褪せているが、腐っているわけではない。おそらく、建てられたままの形は保ったまま時間が過ぎていったのだろうと思った。だれか管理しているものがいるのだろうか。そう思わせるような、しかし、それにしては、白黒とでも言おうか、この空間が時の流れから取り残されている、そんな感覚になる場所であった。
男はその空間をぐるりと一周し、正面に戻ったあと、鳥居をくぐりなおし、短い参道を歩き、社の前で立ち止まり、手を合わせた。投げ銭をする場所が見当たらなかったため、手を合わせる以外に何もすることはなかった。この神社に限ってのことではないが、男は願いはせず、祈り拝むだけだった。
しばらく、手を合わせたあと、男は振り返り、階段の先まで戻ってきた。森がさざめくだけのこの空間の静けさに、もう少し溶け込みたいと思い、男は石段に腰掛けた。なるべく音を立てず、ただ某っと、この場所の一部になっていくような心地に浸っていた。
「もし・・・・」
どれいくらい過ごしただろうか
「もし・・・もし・・・」
男は知っていた。こういう手合いは相手にしてはいけないと。声のする方を振り返ってもきっと誰もいないであろう類のものに返事をしてはいけないと。
「もし・・・もしもし・・・・」
そのこえは、か細かった。細く消え入りそうな声は、まばらで、控えめで、遠慮を感じさせる声だった」
「・・・・・もし・・・」
小さな声だった。その声はだんだんと小さくなっていった。おそらくこのまま無視していれば消えてしまうだろうとわかる声だった。
「・・・・・・・・・・・・もし」
男はやり過ごすこともできたが、この空間を自分の散歩道の一つにしたい程には、この場所に惹かれていた。
「・・はい」男は答えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、返事が返ってこない。
もういなくなったかな。そう思ったころ。
「もし・・・・もし」
また、微かに声がした。
男は今度はすぐに、しかし穏やかに
「はい」
と返事をした。
「聞こえていますか」
「聞こえていますよ」
少しの沈黙をはさみ
「あの・・・・ありがとうございます」
男は、はて、と思い、何も心当たりがなかったので
「何がでしょうか」ときいた
「ここにきてくださりありがとうございます」
なるほど、この声の主は私がここを訪れたことに感謝をしているのか。と男は思った。しかし、そうするとここへはそうそう訪れるものはいないということになる。
「そうか、ここへ人が訪れたのは何日ぶりのことだろうか」
「・・・・・・300と47年と4ヶ月と13日ぶりでございます」
「・・・・ん・・・・・・?」
聴き間違えか。そう思った。
「300と47年と4ヶ月と13日ぶりでございます」
聴き間違えではなかった。
「300と47年と4ヶ月と13日ぶりに人がここにきたのか」
「はい、300と47年と4ヶ月と13日ぶりに人がここにきてくださりました」
なるほど、だからありがとうございますなのか。しかし、この神社は、確かに、森の奥にあり、下の道からは頂上をみることはできないが、そうとはいっても、そんなにも長い間外部からの侵入を拒まれ続けるような場所には思えなかった。
「なぜ、そんなにも長い間、人が訪れなっかたのだろうか」
「たぶん、階段のせいだと思われます」
声の主は、自信のなさそうにこたえた。実際いま、階段を上ってきた私にとってこの階段を到底300と47年と4ヶ月と13日も人が登ることを拒むような階段ではなかった。
「いや、階段はちょうど良いものであったぞ」
男は答えた。すると、声の主は先ほどまでとは違い少し高い声で
「よかった」と答えた。男はまた、はて、と思った。少し間があいて、声の主が続けた。
「減らしたんです。階段を。」
なるほど、この声の主は人がこの場所を訪れない理由は、階段の段数にあると考え、いまのこの段数になるまで数を減らしてきたのか。その成果がでて今私がこの場所を300と47年と4ヶ月と13日ぶり訪れた。だから、よかった、と喜んだのか。
「もとは、何段あったか?」男は聞いた。
「10,000と3,000くらいだったと思います」
「いちま・・・・」
男はおもわず口からこぼれた。
「10,000と3,000・・・いや、1,000くらいだったかもしれません」
おどおどとした気弱な声が聞こえた。
日付は正確に覚えているのに段数は覚えていないないのか、いや、この声の主であっても、元の階段が何段あったのか正確わからないくらい長かったのだろう。ここまでくると、3000でも1000でも誤差の範囲になるか。
「それは、多いですね」
「ええ、多いかと思います・・・なので、減らしてきました」
男はしばらく考えた。
おそらく、この神社、この空間、この場所は、ここに辿りつくまでのあまりの長さゆえに、訪ねる人がいなくなり、いや最初からいなかったのか、ひとびとにあるとさえ認識される場所ではなかったのだろう。
「なるほど・・・・」
などと考えているうちに人がこない理由にもう一つ心当たりが浮かんだ。
「階段を減らしたと言ったな」
「はい、言いました」
「10000と3000くらいの時は人がこなかったかもしれないが、3000くらいの時も人が訪れることはなかったのか?」
「はい」
「うむ、階段を減らしたこと自体が、人がこなくなった原因になってしまったかもしれないぞ」
「と・・・いいますと?」
「私たち人間にはすでに完成している階段を減らすことなどできない。いや、できたとしても、それは大変大掛かりなものになる。しかし、それが、なにごともないかのように階段の数が減っていけば、人間たちはそのことについて怖がって近寄らなくなったかもしれない」
よくある怪談ばなしである。階段の数が定まらない。簡単に上り切れるような階段なら、多少変化したところで、面白がって上る者もいただろう。が、それがこの長さになると、途中の疲労もあいまって、頂上に決してだどりつくことのないかのように錯覚もあいまって恐怖を煽ったのだろう。
「あ・・・・」と声の主は察したのか、弱々しい声をだした。
男は言った。
「し・・しかし、長い年月をかけ、この数まで減らしたのだからこうやって私がここを訪れることができたのだ。成果はあったのではないか?」
せめてもの慰めと思って言ったことだった。返事はなかった。
この神社に人が訪れなくなった理由はもう階段の数のせいではないということに男は気がついていた。最初はそうだったのかもしれない。しかし、その階段のあまりにも多すぎる段数、そして、数が減ったことにより生まれてしまった怪談話、これらの原因で途方もない長い間人が訪れることがなくなり、人にとってこの空間がここにあることさえも認識されなくなっってしまったのだろう。それはもう、人にとっては「ない」と同じものであった。ものごとは、人が認識することで初めて存在することになるのだから。
「あなたはなぜ、ここにきたのですか」
声の主は男にきいた
「たまたまだ」
そうたまたま、だった。偶然の、なんのきもない、300と47年と4ヶ月と13日ぶりのたまたまであった。そんなあるかないかのないに等しい偶然でしか見つかることのなくなってしまった空間。もしかしたら、次に人が訪れるのは300と47年と4ヶ月と13日後かもしれないほどのはかない空間がこの場所であった。男にとっても、今日ここをでてしまったら、もう認識できなくなってしまいそうなほどの見つかりにくい空間であった。男は声の主のことが少し可哀想になった。
「どうしうましょう。階段を元に戻せばいいのでしょうか」
もともとか細かった声は、さらに消え入りそうなものになっていた。
男は考えた。階段を10000と3000段に戻すということは到底ありえない策であった。
「いや・・・・」と男は答え、さらに続けた。
「下に鳥居を設置してみるのはどうか」
まずはここに神社があるということを人に分かってもらうことが大切だろうと考えたのである。
「あぁ・・・」と女は答え、さらに続けた。
「それは、よいお考えだと思います。しかし、人が目にするものを建てるには人が使うお金が必要なのです。この神社にはそのようなものはありません。もう、私が神社の形を保つことで精一杯なのです。」
「なるほど」
と、男は返事をした。当たり前のことであった。人が訪れることもない上に、賽銭箱もない、この神社に、金がないことは必然であった。
「どれ、しばしお待ちなさい」
といい、男は階段を降りようとした。しかし、このまま降りていったらここへ再び入ることができなくなってしまうかもしれない。そこで男は、たまたま持っていた扇子をそこへ落としていくことにした。もし忘れてしまっても扇子がないことに気がつき、ここを思い出せるだろうと考えたのである。そして、男は階段を降りていった。
忘れてはなるまいと思い、男はその足で街の大工のもとへ向かった。別にその大工は深い仲と言える間柄ではなかったが、以前、家の軒を直してもらったことがあったため顔みしりではあった。
大工の店を訪ねると
「ああ、あの時のお客さんですね」と大工は声をかけてきた。
「ああ、あの時はどうも」
「いえいえ、それで今日はどいうしたんです?」
「ああ、君は町を抜けた山沿いにある神社を知っているかね?」
「うーん、そんなところに神社なんてありましたかい?」
「ああ、あったのだよ。そこに神社が」
「へぇ、それで?」
『うむ、そこに鳥居を建ててくれと神主に頼まれてな。豪華なものでなくて良いので、鳥居を建ててはくれないだろうか」
「ああ、そういうことなら喜んで。以前、軒を修理した時の木材も余ってまので、少し安くしておきますよ」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
「あ、そうそう、ついでに賽銭箱も新調してやりたので頼めるかな」
「はい、わかりました。作っておきます。」
「あそこは、商売の神様らしくて、建てるついでに拝んでやってくださいね」
と一言つけて大工の元を去っていった。
しばらくすると、石段の入り口に素朴な鳥居が建った。大工は新しい賽銭箱を男のもとへ届けたので、それを設置するために男は新しい鳥居をくぐり、石段を上っていった。社の正面のちょうど良いところに賽銭箱を設置し、以前と同じうように神社の周りをぐるりと周り、上の鳥居をくぐり直し、社の正面に立った。そして賽銭箱に小銭をいれて、手を合わせ、拝んだ後、また男は石段に座って某としていた。
「もし・・・」
あの時と同じ声が聞こえた。
「はい」と男は答えた。
「あの・・ありがとうございます」
「まだ、お礼をいうのは早いですよ。これから人が訪れるようになって、賽銭箱に銭が溜まるようになるといいですね」
「はい、そうですね。これから、人がいっぱいきてくれるように階段の数を減らしてさらに人が上ってきやすいようにしようと思っています」
「ん・・・・」男が篭った。
「階段の数を」声の主がそう言いかけたところで、男はいった。
「待ってくれ、またそんなことをしたら、変な噂がたってしまう、いまは何もしなくていいんだ」
「でも、、、、」
「でも、なにも、そんな怪奇なことはしてはいけないよ」
「・・・・はい」
男は思った。大工に商売の神様などと言ってしまったが、この声の主には商才などまったくないのだろうと。大工に申し訳なくなった。
しばらくして、男はまた神社へと向かった。以前と同じような静けさがそこにはあった。これまでの同じように神社の周りをぐるりと回り、上の鳥居をくぐり直して、銭をいれ、手を合わせ、石段に腰掛けた。
すると
「もし・・もし」と声がした
「はい」と男が答えた
「あれかどうだい?」と男が続けた」
すると声の主は少し高い声で
「人がきました」と答えた。
「どのくらい」
「2人です」
「・・・・・・」
「2人です」
「いや、2人か」
「はい、2人です」
「大工と私?」
「まぁ、なんでわかったのですか?」
「・・・・・・・・」
男は頭を抱えた。
さて、次はどうしたものか。
「次はどうしようか?」
男は声に主に尋ねた。
「どう、といいますと?」
「いや、さらに人がくるようにどうしたらよいかと」
「2人も人がきてくれたんです。なんと嬉しいことでしょう」
たしかいに300と47年と4ヶ月と13日という時間をかんがみれば、2人も人がきたことは嬉しいことなのだろう。しかし、一つの神社としてみれば、たった2人、実質1人なのである。どうしたものか。
男は言った。
「賽銭箱の中身を見てきてくれ」
「わかりました」
「みてきました」
「いくら入っていたのだい?」
「三枚入っていました」
「三枚で何ができると思う?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「三枚で小さなお菓子が買えるくらいだろうね」
「・・・・・・・・・」
「わかった?」
「・・・・・はい」
どうやら状況は察してくれたみたいだと男は思った。
「でも、これからどうすればいいのでしょう・・・」
声の主は弱々しく言った。
男は考えた。この神社に人が来るようにするためにはどうすればいいのかと。
「そもそも、この神社はどんな神様が祀られているんだい?」
「・・・それが・・よくわからないんです・・。なにせ、人がこない場所だったので、誰も何もご利益があることなど起きたことがないので・・・」
「確かに・・・」
神社があることを下の道を歩く人に認識させることは鳥居を設置することで解決しただろう。では下から上ってきてもらうためにはどうすればいいのか。男はここまで来る途中に、階段の端にあるものが転がっていたのを思い出した。
「灯籠を着けよう。君はあるものを保つことはできるのだろう。私が頭をを設置し直し、そこに火を灯すので、君はその火が消えないように保ってくれ。そうすれば、火に導かれて、人が上ってきてくれるようになるさ。」
「でも、そうすると、火が消えないことを、人が不思議がりませんか?」
そういうところは気がつくのか、と男は思った。
「なに、そのくらい、私が、神主に代わってしばらく火の番をしているとでも町で話をすれば、それが勝手に広がり、みんな不思議がらなくなるさ」
そういうと、男は早速作業に取り掛かった。
一度家に帰り、たわし、雑巾、バケツを持った。そして町で油、皿、芯を買い込み、再び神社に戻った。そして、石段の下から両端に苔塗れになって転がっている灯籠を起こしては磨き火をつけて行った。どれくらいの時間がたっただろうか。思いの他灯籠は多くあり作業は日が暮れても続いていた。ふと、振り返って見ると、一番下の灯籠は油が切れて消えていてもおかしくはないほど時間が経っていたにもかかわらず、きちんと明かりを放っていた。声の主も自分のできることをこなしているのだろう。そう思うと、また上を向き直し、続きに取り掛かった。あたりはすっかり暗闇になった頃、男は階段を上まで上り切った。疲れ切った男は石段の一番上に座り込み、下を見下ろした。
なんと幻想的な風景だろうか、暗闇に浮かぶ灯籠は、まるで大きなほおずきが内側から光っているような優しく温かいものであった。それが、石段を両端から照らしている。下から上までちょうど良い間隔に置かれた灯籠は、下の鳥居に通りかかったものを上まで吸い寄せるかのような、神秘的な美しさを石段つけわえてくれた。
あとはこの場所の存在をそれとなく町で話をすれば、訪れたものが、噂を広め、しだいに参拝者は増えていくだろうと思える風景であった。
男はしばらくそれを眺めたあと階段を降りていった。
次の日、男が町へでると、男がいうまでもなく、神社の噂は広まっていた。「たいそう美しい神社が町外れの山中にあるらしい。商売繁盛のご利益があるらしい」と。前半はそうだろうが後半は大丈夫だろうか、思いつつも、商人が多く行き交うこの町なら、きっと多くの人が神社を訪れてくれることだろうと思った。
案の定、その日の夜からしばらく、下の鳥居まで神社の様子を見に行ったが、子供から老人まで、様々な人がそこ訪れ賑わうようになっていた。子供でも老人でも登れるような階段を何年もかけて作ったかいが、あったのだろうなと男もしみじみそれを見上げていた。
やがてその神社は縁日や正月が近づけば屋台が出るようにもなり、季節の行事があれば、どこからともなく人が集まってきて、多く賑わうようになっていた。これなら、お金のやりくりが苦手な声の主でもきっと、困ることもないだろうと男は散歩をしながらその賑わいを眺めるのだった。
月日がたったある日のこと。男は早朝に目が覚めた。まだ、朝焼けも薄い程の早朝である。男は何の気なしに散歩に出掛けた。いつも、同じ道を通るわけではないが、男がたまたま歩いた道は例の神社がある道であった。下の鳥居の前まで行くと、早朝ということもあってか、人気は全くなかった。森のさざめきが微かに聞こえるほどの静寂が包む石段を男は登って行った。心地よいほどの汗をかき、息が切れるとまではいかないほどに、呼吸が深くなったころ、階段を上りきった。そして、神社をぐるりとまわり、上の鳥居を入り直し、短い山道を抜け、賽銭箱に銭を投げ、男は手を合わせた。いつもどおり、願いはせず、祈り、拝むだけ。帰りに、石段に腰掛けて休憩していこうかとも思ったが、そのまま帰ることにした。特に理由はなかった。とことこと階段を降りていくと
「お待ちになってください」
と声が後ろから聞こえた。
懐かしくももう聴き慣れた声だったので
「やあ、久しぶりです」と男は答えた。
すると声の主は、以前よりもほんの少しだが語彙を強めてこう言った。
「どうして来てくださらなくなったのですか?」
「どうして上がってきてはくださらなくなったのですか?」
思いもよらない質問だった。どうして、はて、と男はしばらく考えた。そして答えた。
「それは、賑わっていたからかもしれません。別に、わざと避けていたわけではありませんよ。でも、私は散歩をしていると安らぎを求めて静かな方へと進んでいってしまうのです」と男は答えた。
その瞬間だった。灯籠に点っていた光が一瞬にして全て消えた。それと同時に朝日が差し込んできた。それ以降、声の主から返事はなかったので男は石段を下まで降りていった。すると、下にあるはずの鳥居がなくなっていた。おかしいな、と思い振り返って見ると、そこは私が初めて訪れた時の神社の姿に戻っていた。
男は毎回同じ道を散歩するわけではない。しかし、石段の神社の道を散歩する時は、必ず神社に立寄るようになった。その神社には、男の求める静寂があり、男の心を癒してくれるからであった。以前とは違い、たまたまではなく、自分でそこへいきたいと思い神社へ向かうようになった。一月に何回か神社を訪れるうちの1回、男は、たわしと雑巾とバケツ、そして油と皿と芯をもって行った。火をつけた灯籠の油が燃え尽きるまでの短い時間は大勢とまでは行かないが、数人の参拝者が現れ、神社が保たれるほどの信仰と銭が集まるようになった。
そんなことを繰り返しているうちに、その神社の元の神主はいっこうに現れることはなく、成り行きで男はその神社の神主を務めるようになった。やがて、その神社は縁結びの神様として、有名にたったそうな。
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