第3話 マーブルチョコ

ある男がいた。

男は自宅で箱を見つけた。見た事のない箱だった。蓋付きの四角い箱であった。その箱は戸棚の奥から見つけた。木でできた箱であった。木の状態は悪い訳では無いが、古びており、何となくそこからはかなり昔のものであることが伺えた。男にはその箱が何であるかまったく心当たりが無かった。故に中身が入っているのか、何が入っているのかわからなかった。


男はその箱を戸棚から引っ張り出した。両手で持つにはちょうどよい大きさの箱は、持ち上げてみると何かしら入っているのようだった。男は箱を机の上に置き、早速蓋を開けてみた。すると、そこには豆が入っていた。大小様々な大きさの豆。それぞれ色も違う。豆に関して大豆と枝豆くらいしか知らない男にとって、その豆たちがなんの豆であるかはまったく検討もつかなかった。


男はその豆たちを種類ごとに仕分けした。そうすると、赤っぽい丸い小さな豆、紫っぽい耳たぶのような形をした豆、青っぽい小指の先のような豆、黄っぽい丸い中くらいの豆、ざっとのように分けるのことができた。しかし、分けてみたところで男には、豆の種類がわからない。何の豆なのかわからないが、豆にたいしてしてやれることは、食うか蒔くかのどちらかだろう。食うに関して得体の知れない豆を食うことが躊躇われたので、男はその豆たちを仕分けした種類ごとに庭に蒔くことにした。


適度に水をやったりやらなかったりした。数日がたったある日、芽が出ていることに気がついた。それぞれの豆により多少の誤差はあったものの。それぞれきちんと発芽した。男はまた適度に水をやったりやらなかったりした。しばらくその芽が成長する姿を観察していると、男はある事に気がついた。それぞれ、別の形、色、大きさをした豆から同じ種類の芽が出てきているようだった。歯の付け方、筋のはいりから、全体的な色味。成長すればするほど素人でも容易にわかるほどにそれぞれが同じ姿形をしていた。ここまで同じものから、あんなにも異なった形、色、大きさの実がなるのだろうかと疑問に思った。男がそれを確かめるには豆がなるまで育てればいいのだが、それは恐らく時間がかかる方法であった。男はこのモヤモヤを今、解決する方法は無いだろうかと考えた。


男は仕分けした豆の残りを引っ張り出してきた。蒔くの選択肢が消えた今、残すは食うの選択肢のみである。得体の知れなさからこの前は躊躇われたが、いまはこのモヤモヤを解決したいという探究心が勝っていた。


男は赤っぽい丸い小さな豆を食べてみた。 やはり、古びた木箱に入っているだけあって、みずみずしさはなかった。しかし、味は美味であった。ほどよい甘さに、ほのかに果実を思わせる香り、その奥にはカリカリとした食感があった。

男は紫っぽい耳たぶのような形をした豆を食べてみた。やはり、古びた木箱に入っているだけあって、みずみずしさはなかった。しかし、これも、味は美味であった。赤よりも濃い甘みを感じ、淡く花の香りのようなものを嗅ぐわせ、その奥にはカリカリとした食感があった。

男は青っぽい小指の先のような豆を食べてみた。やはり、古びた木箱に入っているだけあって、みずみずしさはなかった。しかし、味は美味であった。こちらは塩味を感じる。薄い青草さのようなもののを感じさせ、その奥にはカリカリとした食感があった。

男は黄っぽい丸い中くらいの豆を食べてみた。やはり、古びた木箱に入っているだけあって、みずみずしさはなかった。しかし、味は美味であった。こちらも塩味を感じる。さらに、塩味だけでなく甘みもあり香ばしい香りも感じさせ、その奥にはカリカリとした食感があった。


男はここで、ふと、思い出した。

男の祖父は菓子職人であったことを。

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