第4話

「パ…ダ」

「はい?」

「パンダが良いって言ってるの」

「了解」


 パンダの所に着いた途端栗山の目は輝き、真剣にパンダを見ていた。

 その後もどこか違う動物を見るわけでもなく、ただただパンダを見ていた。

「さて帰りましょう」

 栗山の言葉に無言で頷きただ後を付いていった。

 同じ電車に乗り同じ駅で降り、最後別れる時の道で栗山がこちらを振り返った。

「手よこしなさい」

 俺は言われた通り手を前に出すと何かを握らせされた。

「今日はありがとう」

 それだけ言うと栗山は前を向き直り、家に帰って行った。

 一人になった俺は手の中を確認すると、パンダのストラップを渡されていた。

 なんだこれ。


 俺は家に着くとサンドバッグタイムが始まっていた。

『あの女遅過ぎだろ。もしこの訳の分からないストラップ買う為だったらもうちょっと早く来いや。しかもなんだあのワガママっぷりわ。俺を甘く見るんじゃねーよ。しかも何でずっとパンダ何だよ。こっちはゾウとか見たかったわ。あーもーイラつくわ』

『ガチャンガチャン』とサンドバッグの鎖が激しく鳴っている。


 次の日に学校に行くと栗山と下駄箱でばったり会った。

「昨日ストラップありがとう」

 一応お礼だけは言っとかないとな。

「あたしに気安く話しかけるなって言ったでしょ」

 栗山はそのまま先に教室に向かった。

 昨日のあいつは幻か。

 俺も栗山を追うようにして教室に向かった。


『よしお前ら席に着け』

 その言葉で、まばらだった生徒は席に着いた。

『もうすぐ期末テストがあるから頑張るように。以上』

 それだけ言い残し先生はクラスをでた。

 ふと目線を栗山にやると、どことなく緊張している様に見えた。

 俺は栗山と赤点とるのは面倒くさくなるので釘を刺す事にした。

「栗山、次はお互い赤点採らないようにしよう」

 気安くまた話しかけたのが悪かったのか、栗山がゴミでも見るような目で睨んできた。 

「名前?」

「はい?」

「あたしの名前気安く呼ばないで」

 あー名前呼んだの初めてだっけな。

「ごめん」

「あなたあたしと勝負しない?」

 栗山が突然勝負事を持ち込んてきた。

「何の勝負だよ」

「次のテストで点がいい方が相手の言う事を何でも一つ聞くってのはどうかしら?」

「俺はいいけど。でも本当にいいの。俺も男だし。第一栗山が勝ってもいい事ないでしょ」

「あたしは負けないから大丈夫よ」

「あ、はい」

 次のテストで国、英、数の三教科で合計点で勝負ではなく、一教科ずつの点数で勝負する事が決まった。


 俺は家に帰るとサンドバッグを殴るのではなく、ペンに持ち替え勉強を初めた。

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