第5話 張り切る雷蔵

 真城は私たちに考える時間をくれた。

 彼の言ったことはこうだ。

 いきなり、学校を継げといわれても困るだろうから、夏休みあけの二学期から二年半、学生寮に住み、思う存分学校を見てから考えてくれないかということだ。その間、生活費もとい、生活に必要なものは何でもそろえるとのこと。父・誠人も、同じ理由で学校に勤めていたそうだ。

 そして雷蔵を『理事長の推薦』で私の保護者として近くに置くために、体育講師として学校側に雇われるそうだ。

 悪くない話だった。

 私は見知らぬ親戚連中に引き取られることも、一人路頭に迷うこともなくなった。雷蔵は失業地獄から逃れられることになった。

 しかし、条件があった。

 私が、『才谷』になることだった。自分の血縁者をどうしても残しておきたかったんだそうだ。

 別にかまわなかったが、考える時間がほしいといったのは雷蔵だった。

「本当にいいの?」

 雷蔵は悲しそうな顔をしていた。雷蔵としても複雑なのだろう。いくら急なことだし、私が「坂元」でなくなるのもいやなようだ。だが、

「別に、苗字が変わったところで父さんの娘じゃなくなるわけじゃないし」

 私は満面の笑みで雷蔵に言った。

「それに、雷蔵ちゃんが近くにいれば平気よ」

 彼はそれを聞いてぱぁぁと明るい顔になり、勢いよく立ち上がった。

「そうだよね、君を守るのは僕しかいない!泣いてちゃいけない」

 彼は白い歯をきらりと見せて笑いながら、腕まくりをして私に筋肉を見せた。

 関係ないが、彼は長身でいい体なのに、顔が幼く目は大きくてまつげが長く、妙に眉毛が太く、髪がさらさらで短いので一歩間違ったらマッシュルームカットに見える髪形というちぐはぐさが何度見ても笑える。

「この腕っ節一つで君を守ってみせる!君の第二のパパになるよ!!」

 ちなみに父から力で守られたことはほとんどない。そんなときは酔って絡んできたこいつから守ってもらうときぐらいだ。

 こんな単純な奴でも近くにいないよりかはましか…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る