第3話 紳士は突然に

「お嬢様」

 誰もいないと感じていた場所から声がしたので、びっくりして横を見た。そこには一人の老人がいた。老人といっても背筋もピント伸び、かっちり喪服を着た英国ジェントルマン風の男性がそこにいた。

「…どちらさまでしょうか?」

「真城(マシロ)と申します。」

 名前ではなく先に身元を名乗ってほしかった。が、よく見るとあることに気づいた。その老人は自分の持っている父の遺影がそのまま生き続けたような顔をしていたのだ。

「父のお知り合いかなにかでしょうか?」

「やはり君の目は誤魔化せないようですね」

 老人はゆったりと微笑んだ。

「私立壱香学園というのはご存知でしょうか」

 私はうなずいた。私立壱香学園とは父が働いていた学校である。

「わたくしはそこの理事長であり、君のお父さんの父親で、君の祖父にあたる人物の秘書です。最も、彼は妻とは離婚したので母親に引き取られた彼は戸籍上では他人なのですが。」

「は?」

「君のお父さん、誠人は壱香学園、もといすべての壱香グループの上に立つ予定でした。本人は相当悩んでいたようでしたがね。」

「は?」

 狐につままれるような思いとはこのことだ。私は父親からそんなことは一言も聞いたことが無かった。それに元来、父はトップとか上に立つとかそういった仕事が好きではないはずだった。

 しかし、目の前にいる紳士が嘘をついているとはどうしても思えなかった。

「そこで、貴女にその権利が受け継がれたわけです」

 私があからさまに怪訝な顔をしたので真城は苦笑した。

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