第2話 泣けない私
それから一週間後、夏休みが終わろうとしていたときだった。
土方雷蔵はまた泣いていた。
私はただ、呆然としていた。顔の筋肉が石のように動かず、体は姿勢を正しく正座のままで一時間は固まっていた。
父の葬式には生徒やら教師やらでさっきまでごった返していたが、ひと段落して親戚が片付けを始めたところで雷蔵はやってきた。黒ではあったが上下ジャージで場内に入り大声で泣き出し親戚一同を混乱させだしたので、私は彼の手を引き、奥の間に連れて行った。
「泣かないで、雷蔵ちゃん」
雷蔵は相変わらずの泣きっ面でこちらをがっと向く。
「これが泣かずにいられますか!大体なんで平気な顔してんの?!」
そう叫ぶと端の座布団の山の中に入り込み、そこでさらに泣き出した。
言い返しはしなかったが、たぶん平気ではなかった。
何度言われても実感がわかなかったのかもしれない。しょっちゅう出張に出かけて家を空けることが多く、一人にされるのがなれていたから、今回もそのパターンだと頭が勝手に思ってしまうのかもしれない。
ちゃんと理解しようとして何度も自分の中で反芻する。
『父が、男手一つで自分を育てた父が、死んだのだ。』
「雷蔵ちゃん、情けないから顔ぐらい洗ってきなよ」
彼は数秒私と目を合わせると、がくんとうなずいてバタバタと盛大に音を立てながら去っていった。
だだっ広い部屋がさらに広く、いやに静かに感じた。
「お嬢様」
誰もいないと感じていた場所から声がしたので、びっくりして横を見た。そこには一人の老人がいた。老人といっても背筋もピント伸び、かっちり喪服を着た英国ジェントルマン風の男性がそこにいた。
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