第67話 秘めた想い

「黒田くんに、おことわりしてきた」


 アイビーには見抜かれているとわかっていながら、こっそり涙をぬぐったあたしは、草葉の陰に声をかけた。黒羽根の天使のミチルちゃんの件が片付いたからといって、アイビーがあたしの守護天使であることに変わりはない。いつだってあたしのことをそばで守ってくれている。


「よかったのか? ずっと好きだったんだろ?」

「あたしの気持ちなんか、わかっているくせに。でもあたし、自分勝手だよね。一途なミチルちゃんとはちがうもんね」


 そう、ミチルちゃんはああ言っていたけれど、今でも井川くんのことが好きなことに変わりはない。でも、あたしはちがう。あたしは、アイビーのことを好きになってしまったの。


「ごめんね、アイビー。守護天使だから、あたしにやさしくしてくれているのに、かんちがいしちゃって。迷惑かけちゃった」

「迷惑じゃねぇなから」

「え?」


 アイビーはどうしたらいいのかわからないといった風に、ぐしゃぐしゃと金色の髪をかき混ぜた。


「天使のままでいろよ? そうしたら、禁忌じゃなくなる」


 アイビー? あたし、もっとかんちがいしちゃうよ?


 だけど、アイビーの言葉を聞く前に結界の中にいた。


「なにっ!?」

「天界に呼ばれてるんだ。大丈夫だ」


 アイビーはあたしの手をぎゅって握ってくれた。手を握ってくれているだけなのに、こんなにも心強いなんて、知らなかった。アイビー、ひょっとして、あたしのこと好きなのかな? それとも、かんちがいなのかな? わからなくて、視界がだんだん歪んできた。


 そうして、気がついた時には光の庭にいた。


 アイビーが毅然とした態度でひざまずいている。目の前に、めっちゃ豪華なイスに座った、これまためちゃくちゃきれいな人がいた。天使だ、すぐにそう思った。


「そなたが、天羽 ユイナか」

「は、はいっ。天羽 ユイナです」


 ここが天界? じゃあこのどこかに、パパがいるのかな? でも、ミチルちゃんの恋をかなえることはできなかったから、任務は失敗しちゃった。


 めちゃくちゃきれいな長い黒髪の天使さまは、あたしを見てやさしくほほえんだ。


「規則とはいえ、長らくそなたの父親を幽閉してすまなかった」

「いえ、あの。とんでもございませんっ」

「マサハルの作る料理はどれも美味で、途中で手放すのが惜しくなったのだ」

「……はぁ?」


 え? パパは、ママと結婚したから幽閉されたんじゃなかったっけ?


「だがまぁ、そなたはアイビーの妹を探し出してくれたし、その恋を手伝ってもくれた。結果はともかく、そのことでミチルが救われたのはたしかなことだ。よって、マサハルを解放しよう」

「本当ですか!? やったぁーっ!!」


 あたしは飛び上がってよろこんだけれど、アイビーはひざまずいたままだった。どうして? いっしょによろこべないの?


 パパが解放されるというのに、あたしの胸はもやもやしたままだった。


 つづく


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る