第64話 想い

 おかしな子だナ。あたしがあんなに嫌っているのがわかっているのニ。あたしのしたことを理解しているくせニ。あんたの大事なアイビーをうばったのニ。


 それでもまだ、あたしが好きだって言えるノ?


 おわりにしようとアイビーは言っタ。


 大好きだと、ユイナは言っタ。


 あたしは、そんな自分がゆるせないのニ。それなのにどうして、たにんにそこまでやさしくできるノ?


 でも、そんなのおそすぎるヨ。もっとずっと前に出会えていたラよかったのニ。もうおそいヨ。


 痛いヨ。


 苦しいヨ。


「大丈夫」


 ユイナ。


「だーい好き」


 ユイナっ。


「ユイナっ!!」

「ミチルちゃん。見つけた!!」


 暗くて冷たい沼の中で、あたしの手を取り抱きしめたのは、ユイナだった。背中の羽根が熱く光る。ユイナの背中も、白く輝く。おかしいな。あたしがむしり取ったはずの羽根なのに、どうしてまた生えているの? あんたはどうしていつもいつも、あたしをおだやかな気持ちにさせてくれるの?


 好きだなんて、言われたことはなかった。かたい拒絶の中でしか生きてこれなかったから。だからこんな時、どんなふうにしたらいいのか全然わからなくて、暖かい浜辺にいることすら気づかなかった。


「ミチルちゃん、大好き」


 そう言ったユイナの背中には、立派な純白の羽根が生えていた。うらやましい、そう思ったけれど、あたしの背中にも、真っ白な羽根が生えていた。


 拒絶された人生なのに。それなのに。あなたからたくさんうばったのに。


 もう、どうしていつもそうかなぁ。


「しかたがないから、アイビーも返してあげる」


 そうしてアイビーがあらわれて、あたしたちを取り巻く結界はなくなっていた。


 つづく

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