第40話 強くなりたい
昨日とおなじで、アイビーは先に家を出ていた。でも、ピンチになったらたすけてくれるって言うから、十字架は手放せない。なんたって、あたしの羽根と輪っかもかくしてくれているスグレモノだもん。なにがあっても、ぜーったいあの三人に渡すもんですか。
昨日、黒田くんや谷川先生が教えてくれたように、あたしの十字架をあの三人がかくすかもしれないっていう危機感をわすれてはならない。あたしのふでばこを壊しちゃうくらいだもの。それくらいやりかねないっ!!
「じゃあ、いってらっしゃい。ユイナ。放課後にまたね」
「うん、いってきます!!」
家を出たタイミングで、ちょうど黒田くんとはちあわせしちゃった。今日はばっちり目もあっている。
「おはよう、黒田くん」
「……おはよう、天羽」
うわ、なんだかとっても気はずかしい。だって、こんな風に黒田くんとあいさつしたの、はじめてなんだもん。
「いっしょに行く、か?」
黒田くんは放課後のあたしの気持ちをくんでくれたかのようにやさしく言ってくれた。
「うん」
うれしくて。ただ、それだけのことことがうれしかった。そして、横に並んで歩き始める。
「平気?」
胸がどきどき高鳴っていたところに突然声をかけられて、へ? なんておかしな声が出ちゃった。
「な、なにが?」
「放課後。面談あるだろう? なんならぼくも証人としてつきあってもいいけど、どうする?」
やさしい。黒田くんって、ふだんはとってもクールなのに、やっぱり本当はやさしい人なんだよね。
「証人?」
「うん。あの三人、口裏をあわせないともかぎらないから」
たしかに。ひきょうな三人組が、アイビーに顔を見せるななんて言われて逆ギレしかねないよね。でも。
「ありがとう。でも、ここは自分で乗り越えてみせるよ。そうじゃなきゃ、大人になれないもん」
アイビーにも、黒田くんにもたすけてもらってばかりのあたしだから。今度はきちんと強くならなくちゃいけないんだ。
あたしの答えにおどろいた表情を見せた黒田くんは、そっか、と言ってさみしそうに微笑んだ。
「天羽は自分で強くなろうとしているんだな。すごいや」
「そ、そんなっ。全然だよ。でもね、あたしは悪いことをしていないから、だから、負けたくないの」
「それでも、やっぱりすごいことだよ」
「天羽、おはようっ!!」
黒田くんといい雰囲気になりかけていたところで後ろから声をかけられた。井川くんだ。
「バッカ。ナオフミ、あんたおジャマだよ」
そこでミチルちゃんの存在にも気がついた。あれ? ひょっとして、ずっと見られていた? っていうか、今朝は二人で仲良く登校してきたのかな? ひょっとして、あたしの出番なし?
「あはっ。おはよう、ユイナ。じゃ、ナオフミはぼくが連れて行くから、二人はごゆっくりー」
「待てよ、清野。引っ張るなって、ぼくは犬じゃないぞっ!!」
そんな二人の後ろ姿に微笑ましい笑顔を見せる黒田くんだけど。あたし、今さらながらとんでもないことに気がついちゃった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます