第37話 もうひとりのあたし
それからあたしはなんにも考えずにねむりに落ちた。深く深く、どこまででももぐっていけそうな感覚に身をまかせていると、あたしに出会った。
だけど、あたしの目つきはすっごく悪くて、意地悪く笑ったままだ。これが、あたしの不安が元で分裂したもうひとりのあたしなの?
「あんた、本気で黒田くんとつきあえると思っているの!?」
「なっ!? なにを言うのよ、いきなりっ」
いじわるく笑うあたしに的を突かれて、こまっていたところへ、アイビーがあらわれた。
「まったく。おまえって奴は夢の中にまでたすけてやらなきゃならないのかよ」
「アイビー!!」
あたしの夢の中までわざわざたすけに来てくれたアイビーに思わずしがみつくと、簡単に振り払われてしまった。
「今はこいつをなんとかしなくちゃいけないだろ?」
「でも、どうすればいいのかわからないよ」
「簡単だよ」
アイビーはあたしの胸で強い光を放ち始めた十字架を指さした。
「十字架を手に取り、分裂したそいつのことも受け入れてやるんだ」
「でも、この子あたしかもしれないけど、すごくいじわるそうだよ!?」
しょうがねぇなぁと、アイビーはちょっとクセのある金髪をふるふるとふった。
「それもおまえの一部なんだよ。いいか? どんなおまえでも、おれはユイナをたすけるし、みとめてやる。だから、こいつのことも受け入れろ。本人が受け入れてやらなきゃ、こいつがかわいそうだろ?」
ああ、そうだ。あたしにもこんな黒い感情ぐらいあるんだ。だから、受け入れなきゃ。
「うふふっ。あんたにそんな度胸はないでしょう? あたしは知っているわ」
「おいで。大丈夫だから。いっしょに生きよう」
あたしは十字架を握りしめてもうひとりのあたしに問いかけた。いじわるく笑っていた瞳から、涙がポロポロとあふれてきた。
「うそつき。本当のユイナはいじわるなくせに」
どんなことを言われたってあまわない。あたしは、あたしをだきしめた。
「大丈夫。今まであなたのことを無視してきてごめんね」
だって、こんな自分がいたなんて気付かなかったから。だけど、そんなあたしも近い将来出てくるかもしれない。でもその時は落ち着いて、今みたいに自分をだきしめて、気持ちを落ち着かせてあげることにしよう。
そしてあたしは、あたしの中に溶けていった。どんなあたしでもみとめてくれるってアイビーは言ってくれたけれど、どうかな?
「上出来だ」
ぶっきらぼうにそう言って、ふいに笑顔を浮かべながら頭をなでてくれたからかな。どうしてかな。胸がときめいちゃったんだよ。
し、しょうがないよね。アイビー基本はイケメンだし、こんなふうに反則技使っていい男ぶることも平気でするし。だから、これは浮気じゃない。あたしは黒田くんが好き。ずっと好きだったんだもん、これからだって変わらないはず。
あたしは上目遣いでアイビーをにらみながら、えへへっと笑った。
つづく
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