第15話 疑問

「ところで、ぶっちゃけアイビーが登校するのは今日が初めてじゃない? それなのに、どうしてみんなが、あなたのことを知っているの? それにミチルちゃんは、ネックレスのことまで知っていたし」

「ふっふっふっ。それはな」


 マンガみたいな笑い方をしたアイビーが、ふいにあたしの頭の中に語りかける。


『だれかに聞かれるといけないから、直接かたりかけるからな』


 あたしはうんとうなずいた。


『昨夜、おまえが願ったことを覚えているか? おれが遠縁の親戚で、親の都合で同居してるって設定のこと』

『もちろん。おぼえてるけど?』

『あれによって、おまえの力が解放されて、守護天使であるおれに力が与えられた。いわゆる、記憶操作ってやつさ。ネックレスのことは、ともだちには知っておいてもらったほうがいいと思ったから、そうした』


 記憶操作ってなんかこわい。みんなの記憶をいじるなんて。でも、あれ? でもなんか変。アイビーはミチルちゃんのことを前から知っていたみたい。


『知ってるさ。なにしろおまえが赤ん坊の頃からずっと守護してきたんだから』


 そっか。そうだった。だからみんなのこと、当たり前みたいにあいさつしてたんだ。


『な? おれって本物の金髪の王子様だろ?』


 それ、なんかちがうって、頭の中で思っただけなのに、アイビーには筒抜けで。


『ま、そういう設定ってことでよろしくたのむ』


 たのまれちゃえば、嫌とは言えない。なにしろ十四年間ずっとあたしのことを守ってくれていたのだから。


『あ、ねぇ? みんなにも守護天使っているの?』

『いるんだろうけど、おれたちとは派閥が違うと見えない。いろんな宗派もあるしな』


 そうか、そういうことなんだ。でも、だけど。そうやってアイビーと並んで登校していると、何人かの生徒の後ろに守護天使らしきものが見えたりする。


 へぇー? あの子にも守護天使がいるんだ。


『あんまりじろじろ見るなよ? ふつうの人間には見えないんだからさ』

『そうだよね。ごめん、ごめん』


 つい、失礼な視線を送ってしまったことを後悔して、だけど、先方の守護天使さんから頭を下げられちゃったりしたら、あたしも頭を下げるわけで。


「それ、挙動不審だからやめろ」


 アイビーに痛いところを突かれてしまった。


「だって、あいさつしてくれたから」

「そういうのは、無視してかまわないから。っていうかそれ、おれに対してのあいさつだったりしたぞ?」


 うっそ。そうだったんだ。はずかしい。


 一人で真っ赤になったあたしに、べつにかまわないんだけどなとアイビーがつづける。


「見えることをひけらかさない方がおまえのためにもなるんだぞ?」

「そっか。うん、わかった。気をつけるよ」


 そう言いながら、頭の片隅では、ミチルちゃんが好きな人がだれなのか、思いを巡らせていた。


 つづく

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