第8話 天使は甘いものがお好き?
あたしが決意をかためていると、ママがケーキにろうそくを立て始めた。十四本のろうそくはとてもカラフルで、きれいで。そしてどこか哀愁を漂わせていた。
あたし、天使になっちゃったんだ。
ううん、でも、だれかの恋をかなえることができれば、また人間として暮らして行けるし、なにより、パパを解放できる。
幽閉されているというパパへの思いをはせると、胸の奥がじんとしびれてきた。会ってみたいな。背はどのくらいの高さだろう? どんな風に名前を呼んでくれるのかしら?
想いがあふれそうになったところで、ママがろうそくに火を灯した。
「十四歳おめでとう、ユイナ」
「おめでとうな」
ママとアイビーにいざなわれて、あたしはろうそくの火を吹き消した。目の端にじわりと涙が浮かぶ。
「ありがとうママ、それからアイビーも」
ろうそくを吹き消した時に願ったのは、すべてうまくいきますように!! だった。ちょっと欲ばりすぎかもしれないけれど、それでもちゃんと、神様に届くかもしれない。そう思ったんだ。
「ヤヨイ、早く早くっ!!」
意外にもアイビーは、ケーキを早く配るよう、手を振ってママをせかした。アイビーの、ちょっとクールなイメージだと、にがーいコーヒーをブラックで飲んでいる感じだったから、かなりおどろいた。
「ちっ。いいだろ? 今までおまえにくっついていても、飲みも食いもできなかったんだから」
あたしの視線に気づいたアイビーは、言いわけがましく頰を赤らめた。
「別にいいんだけど。じゃあ、今までなにも食べてなかったの?」
「そりゃ、つまみ食いくらいはさせてもらったぞ?」
これまた天使のイメージが変わるようなことをアイビーは堂々と告げたのだった。
「そっかぁ。じゃあ、これからはたくさん食べてね」
「ああ、そうするよ。いっただっきまーす」
あたしは、アイビーの整った顔が、ほぼ口になったんじゃないかってくらい大きな口を開いてケーキを頬張る姿を見守る。
「うまいっ!!」
「よかった」
ママはとってもよろこんだ。アイビーも、ぴかぴかの笑顔を浮かべている。あたしがイメージする天使とはかけ離れていたけれど、アイビーは本当はやさしくて気さくなのだということがわかってきたような気がする。
みんなにもアイビーを紹介したいな。でも、天使が見えることは秘密だから。アイビーはあたしたちだけのともだち。そう思うとなんだか胸がドキドキしてきた。
アイビーは、あたしたちにしか見えないんだ。こんなに大きな秘密を持つのは初めてだから、ドキドキする反面、少しこわい。だけど、アイビーが笑っているから。それがきっと答えなのだと思うんだ。
つづく
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