第7話 ママの秘密

 ママはなれた手つきでアイビーのお茶碗にご飯をよそると、それでなんだったっけ? と、夢見る女の子の顔になった。それから、ああそう、と手を打って、また笑った。


「あたしって、昔からそういうたぐいのものが見えちゃう体質みたいなの」

「そんな体質あるの?」


 あたしがアイビーを見れば、アイビーは、うーん? とうなって空中で回転した。


「わずかながら、そういう話を聞いたことがある。十四歳まで見える体質と、十四歳から見える体質、ずっと見える体質。ヤヨイは十四歳から見える体質だな」


 そう言うとアイビーは、ママ特製のお漬物を口に運んでうまい! とほめてくれた。


「そうすっと、ヤヨイは十四歳から守護天使であるマサハルが見えていたってことになるな。めんどうなことに巻き込まれなかったか?」

「そういうこともあったわね。でも、いつもマサハルさんがあたしをたすけてくれたの。うっふふふっ」


 ママ、とってもうれしそう。


「じゃあ、あたしが生まれちゃったせいで、パパと会えなくなっちゃって、さみしかったよね? ごめんなさい」

「ユイナがあやまることはなにもないわ。あなたはいつでも、あたしたちの最高の宝物だもの。それに、あなたが生まれてすぐにアイビーも来てくれたことだし」

「なるほど? おれのことは見えてない設定でいたんだな?」


 アイビーがまとめると、ママはそうなのよ、とあいずちを打った。


「あたしのせいで、パパが幽閉されちゃったから、ユイナの守護天使さんには気をつけなくちゃって思っていたの」


 ママの言葉に、アイビーはなるほどね、と言いながら、視線をホールケーキに移した。


「おれが知らないところでいろいろ見られてたってわけか」

「はい!! 質問っ!! アイビーって、あたしが生まれた時から今の姿なの? それとも、あたしといっしょに成長したの?」


 あたしの突拍子もない質問に、アイビーが顔をしかめる。


「天使は物心ついてから、自分の姿を決めることができるんだ。おれは、おまえの守護天使と決まった時、この姿のままでいようと誓った。その方がおまえを守ることができるからな」

「え? じゃあいつも、アイビーがいっしょだったの? その、お風呂の時とかも?」

「バーカっ!!」


 アイビーはしなやかな長い指であたしのおでこをでこぴんした。


「そういう時はいっしょじゃねぇよ。ったく、ろくなこと考えねぇなぁ」

「そっか。よかった。それで? これからは成長しないの?」


 なんだか、あたしがアイビーより先におばあちゃんになっちゃうんじゃないかと、少しさみしく思って聞いたけれど、アイビーは、おまえがのぞむのならな、と答えてくれた。


「なんにしろ、おまえの今の目標は、人間の恋を取り持って、自分の人生を決めることに集中しろ。そうじゃなきゃ、マサハルは自由になることもできない」


 そうだった。パパを解放して、これからも人間でいるために、あたし、がんばらなくっちゃっ!!


 つづく


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