第53話 ギルガメッシュよ!! 我――聖剣士リヴァイアを殺してみろ!!


 夜になり――


 リヴァイアは、一人になるとオニオンの寝室の窓辺に立って毎日天へと昇っていく夜葬祭の――オレンジ色に輝くランタンの数々を見上げている。

「……」

 この前は……、屋上のベランダから見上げていた。

 隣にレイスとルンが駆けつけてから、聖剣士と称されていることを忘れて泣き崩れてしまった……。


 別に、恥ずかしい気持ちなんてなかった。

 見られても、いいと思った。


 それは、……リヴァイアサンの毒気により死ぬに死ねない身体となってしまい、1000年と……27歳を、永遠に生き続けてきた自分からすれば、数多くの悲痛な思いでのほんの一つにすぎないからだ。

 戦場で……、凶悪な大型の魔族と……、何度も何度も死ぬ思いも経験してきたのだから、その思い出と比べれば大したことなんてない。


「……ダ」


 リヴァイアの口が微かに開くと、小さく掠れた声を出す。


「……」

 そして、すぐに紡いでしまう。


 と思うと、また微かに口を開いて、

「……ダンテマ……村」

 視線はずっと、闇夜の天へ昇っていくランタンの光の数々を追いながらである。

「ダンテマ村……。我が名付け親となった村か」


「ギルガメッシュ……よ」


 リヴァイアの脳裏に、北海のリヴァイアサンと浜辺で対峙した記憶が映る。

 忌々しい――できれば顔も見たくない邪神。


 大海獣リヴァイアサンは言った。

 ダンテマ村にいると……ギルガメッシュが。

 聖剣ホーリーアルティメイトの魂を手に入れた、大盗賊ギルガメッシュ。

 元魔法使いのギルガメッシュ――

「……ギルガメッシュ。お前は我を……恨んでいるのか?」

 嘆息を一つ吐くと、

「……我の呪いを」

 リヴァイアが顔を左右に大きく振って、フラッシュバックされた浜辺の記憶を掻き消す。

「1000年を生きてきた呪いを、お前には理解できなかったな……」


 それでいい――。


 と、リヴァイアは心にその言葉を刻む。


 それでいい――。


 自分に言い聞かせるように、何度も刻んだ。

 天へと昇っていくランタンの数々も、だいぶ高く高く上がっていて、月明かりに鈍く反射している雲間へと一つ、また一つと消えていく。

 リヴァイアは顔を更に上げて、その消えていくランタンを目で追う。

「あの日の朝――、我はお前をおいてロッジから出て行ったことを、」

 次に脳裏に浮かんだ思い出は、すやすやとベッドで熟睡してるギルガメッシュだった。

「お前は我を、恨んだのだろうな……」

 寝室で独り言を言い続けているリヴァイア、心の中で言葉を発することも忘れ、思い思った記憶を見続けながら、そこに映る相手――ギルガメッシュに向けて口を開けて小さく声を出している。


「お前は、元々は流浪の魔法使いだったではないか……。いつしか我と出会い、狩場でレベルアップを修練する日々が続いて――、お前は強くなったではないか」


 ギルガメッシュ――

 お前は我のことなんかさっさと忘れて、


 そして、もっと凄い魔法使いに……


「……なって、それがどうして大盗賊になってしまったんだ?」

 胸の下で両手を重ねると、その両手をリヴァイアは見つめた。


「我と一緒に生きても、我は歳をとらぬ。でも、お前は……歳をとり、老いて……老いて。もう……、見たくないんだ……仲間が先に死んでいく姿を」


 我は、もう……。


 1000年の呪い。

 その苦痛はリヴァイアにしか理解できない。誰も1000年も生きた者なんていないのだから……。

 剣で刺されても、その傷はすぐに再生されてしまう。矢で射抜かれても同じだ。

 魔銃も……、魔法も……どのような武器で襲われようと死ぬことはない。できない。


 やがて『聖剣士』と名乗られるようになり、皆が羨望して、崇められ慕われ――


「こんな我と出会ったギルガメッシュよ。お前の自尊心はさぞ高まったのだろうな」

 両手を見つめながら、もう一つ嘆息を吐く。


 お前は、我と出会わなければよかったのだろう。


 我は、薄々と知ってたぞ。

 お前が我を――


「――慕っているこ……」

 とをな……。

 語尾を言い終える前に、リヴァイアの声帯は力を落とす。



 1000年を生きる聖剣士――、でも、そんなの魔女の類で怪物だ。



「……ダンテマ村に、お前がいるんだな」

 リヴァイアは顔を上げて、また窓の外を見上げた。

 天へと昇っていた多くのランタンも、その最後の一つが雲間へと消えていく――

「ダンテマ村か……」

 

 ある時、まだロッジ付近の狩場でレベルアップにお互い励んでいた時に、お前は聞いてきたことがあったな。

 どうしてダンテマ村と名付けたのかを。


 我は即答して、お前に――


「夫の名をとったんだ……と」

 このダンテマは1000年前のサロニアム城で、騎士団長として次期王子の身辺警護をしていた時に、その次期王子の教育係として寄り添っていたダンテマである。

 リヴァイアとダンテマ――丘の上のサクラの大樹の下ではじめて出逢った。

「我は1000年を生きる未亡人で、娘も生んだんだぞ。お前は我を慕っていたのかもしれないが、いや、そうなのだろう。けれど」

 早口に、心の中で話すのではなくて、独り言を続けているリヴァイア。

「我はギルガメッシュ、お前に対しては修練の仲間としてしか思っていなかったんだ。いずれ、レベルアップしたら、お前はまた流浪に旅に出ていくものだろうと思っていた。けれど……」


 お前は、いつまで経ってもロッジに住み続けて――


「だから、我からロッジを出て行ったんだ……」


 お前は、それが気に入らなかったのだろうな。

 自尊心が人一倍に高かったギルガメッシュだったから、

 それに恵まれた魔法能力も重なって、


 ……自分は聖剣士に捨てられたと、そう腹が立ったのだろう。


「お前に、さっさと我を捨ててもらいたかったんだ」


 これが、聖剣士リヴァイアの本音だった――

 自分はオメガオーディンと対峙し続ける運命を背負わされたのだから、その運命に他の人を巻き込みたくはなかった。

 どーせ死ねない身体なのだから、死ぬことも当然無い。

 聖剣士という“光”と、オメガオーディンという“闇”と、光あるところに闇が生まれ、闇がなければ光も存在できない。

 そういうついの関係なのだから、そこに自分以外の誰も巻き込みたくはない。

 我に仲間なんていないほうがいい。


 どーせ。死なないのだから……、仲間なんて必要ないのだから。


「……ダンテマ村にお前がいる。ホーリーアルティメイトの魂を持ったお前が」

 夜葬祭の光――ランタンのそれはすっかりと雲間へと消えてしまった。

 代わりに、その雲間に優しく光る月をリヴァイアは見ている。

「……」

 リヴァイアは無言になった。

 窓の外から照らされる月明かりに、自分の顔があたっている。

「……」

 唇を閉じて黙って見ている。

 ずっと独り言を喋り続けていて、今度は沈黙して――

 気持ちが穏やかにはなれない。声を発する気持ちも薄れ、リヴァイアの心中はそれだけ苦しんでいた。

 どうしてか?


 ダンテマ村にギルガメッシュがいる……か。

 お前の我を慕ってくれた思いは、いつしか、嫉妬心になってしまったんだな。


 それが――


「我は切ないんだ――」

 なんだか居ても立っても居られずに悔しい気持ちだ。

 リヴァイアが思わず口を開いて本音を吐露する――



       *




 ダンテマ村――


 聖剣士リヴァイアとして、なってしまって。

 どうしても確かめたかったのがその村のことだった。

 幸い死ぬに死ねない身体になったのだ。

 グルガガム大陸の山脈の万年雪を浴びたところで、絶対に死なないのだから当然雪山を徒歩でも越えることができる。


 まあ、私はMPを消費して空を飛んで探したのだけれど――


 ――最初は名前すら無かった、山奥の、そのまた山奥にある集落だった。

 グルガガム大陸を北海沿いに歩いて、我が暮らした山岳のロッジを更に北東に越えたところにある集落。

 どうしてこんな辺境に住んでいるのか、最初は不思議だった。


 ある時、小さな教会の修道士の男性と話をする機会をもらい、昼食をご馳走してもらったことがあって、私は端的にその質問したことがあった。

 そうしたら、「私も物心がついた時から暮らしていたんです」と、どうやら彼にもよくわからない様子だった。


 修道士見習いの頃――


 グルガガム大陸のカズースの北東地域の話題が、図書館でエリア司書長に話したことがあった。

 エリア司書長も「……グルガガム大陸の北東の山奥に……、集落ですか?」

 と首を傾けて記憶を探してみたけれど、よくわからないと、知らないとキッパリと仰られて。


「温泉の街であり、木組みの街カズースのずっとずーっと雪山の奥にある伝説の村っていう話です。知りませんか?」

 我……、

 修道士見習いの頃の私は、エリア司書長にお茶に口を付けながらそう喋った。

 でも、すぐに……

「リヴァイア、あなたって、やけにグルガガムのことを知っているのですね?」

 と、逆に、

「いいですか? グルガガムはサロニアムとは敵対関係にあるんですよ。交戦中であって……、ここサロニアムで、とくに聖サクランボの子供達の前で敵国の話をするんじゃありませんよ。いいですね」

 と、念を押されながらエリア司書長に苦言を言われてしまった始末で――

 私はすぐに、

「い……いいえ! 私はただ、敵国グルガガム大陸の雪山を越えたところに伝説の村があるって、興味を持っただけでして」

 自分がグルガガム大陸のカズース生まれであることは、密航してきた身分として、これだけは言えない。

 言ってしまったら、たぶん城に連行されてしまう――

 

 私は両手をあからさまに振り続けて、自分は密航者ではないことを……自分自身に言い聞かせた。


 そういう思い出も――1000年前で懐かしい。

 私がその集落とはじめて会話に上ってきたのが、図書館の時だった。

 

 ――それから、私は過去を辿っていくつかの記憶を思い出した。


 密航する前のカズースの幼少期に、雪山の向こうに村があるという話を友達としたことがあって。

 1000年前に開通した魔法列車――当時は画期的な乗り物だった。

 カズース発の特急に乗って、私の聖剣士としてお世話になった『最果ての村』、更にはその先にある海峡の街のフェニックスを繋ぐグルガガム大陸を海沿いに繋ぐ魔法列車だ。

 カズースからトンネルを抜けたくらいの場所に……その伝説の村があるという。

 駅は無人駅で、特急は無慈悲にも通過して行く。週に数本の貨物列車が燃料の“塩”を補充するために停車するくらいだという。


 下車する者は誰もいない。

 乗車する者もいない。


 私は、その伝説の村のことをパパンとママンに夕食時に尋ねたことがあった。

 そうすると2人は、慌てて、

「こら、リヴァイア! そんな村なんてないと思いなさい」

 とパパンが表情を硬くして私に言った。

「リヴァイア……。この街でその話を……するのはやめましょうね」

 隣に座るママンは、私の髪を撫でながら微笑んでそう言った。


 私には意味が分からなかった――当然で、私は幼かったのだから。



 集落の丘に建つ小さな教会――


 その修道士の男性と話していた時に、

「……聖剣士リヴァイアさま。ここだけの話ですよ」

 と、


「……」

 私はコクリと無言で頷いた。

 修道士の男性の表情は、さっきまでの陽気なのとは変わってちょっとだけ眉間に皺を作り硬くなっていた。

「この集落はですね……。『死者の村』なんですよ……」

「死者の村?」

「ええ……。牢獄塔をご存知ですよね」

「……クリスタミディアの」

「はい……」

 修道士の男性は、そう言うと私に視線を合わせずにいそいそと食べ終わった食器をかたずけ始める。

 私の分まで……。


 表情は薄暗いままで、本当は口外したくないのだろうと気が付いた。

 しかし、その口外する相手は『聖剣士』と名乗る私――リヴァイア・レ・クリスタリアで。

 流石の修道士の男性も、一般人なら教えることはしないのだけれど、他ならぬ聖剣士からの質問なのだから、しぶしぶ……でもなく、聖剣士に教えることで何かこの集落の現状が変わるのでは、と思ったのだと。

 それを、後に人伝ひとづてで聞いた。


「聖剣士さま―― この集落はですね、その牢獄塔の中に入った囚人達の、終身刑や病死した囚人や、無論……その、」

「……その? ……ああ、死刑囚の……だな」

 私も、その彼の重い口調から想像して、なんとなくこの先の話が読めてきたのだった。

「……はい」

 修道士の男性は大きく頷いた。でも、視線はいまだに私と合わせようとはしない。

「……この集落は、死者の村。つまり、牢獄塔の中に入った……そういう奴達の亡骸なきがらを葬るための土地なんですよ」

「……ああ、そういうことか」

 だから、口外を躊躇ったのだと、私は気が付いて、

「ということは、あなたは」

「ええ……。私はその亡骸を葬るための司祭を任されているのですよ。城塞都市グルガガムから――」


 木組みの街カズースの外れにも共同墓地はある――


 しかし、クリスタミディア牢獄塔の囚人が死んでも、殺されても―― 誰も共同墓地にそういう奴等を埋葬したくない(捨てたくない……)。

 死んでも“村はずれ”にされしまう牢獄塔の囚人達の末路なのだからと言ってしまえば容易たやすいのだろうけれど、まるで人を害虫や汚物のように蔑むことは、

 では、何のために信仰の対象であるリヴァイアサンの北海の海の島に牢獄塔を作った?


 改心させるためではないのか……


 グルガガムやカズースの街人にとってだけれど。私にとってその神は……嫌いだから。


 つまり、この集落は、集落全体が『墓場』なのである――


 そこに墓守を生業なりわいにして暮らしている、暮らすしかかてが生計がなかった者達の集まりの村――死者の村。


 教会から見渡す死者の村、

 一見すると、万屋があり、武器屋も道具屋も、飲食できるテラスも見える。とても死者の村とは思えない普通の山奥の田舎の村である。

 子供達も路地に集まり遊んでいる姿も見えているし。

 井戸端で談笑している女性達もいる。

 紳士に大通りを歩いている老人もいる。


 何も変な様子には見えない――


 と言いたいけれど、視線を村の奥に向けると、そこには村全体よりも遥かに大きい『墓地』――クリスタミディア牢獄塔の囚人達の墓があった。

 死者の村――

 そこで墓守をする村人――子供まで。その子供にこの村の正体をどこまで話しているのか?

 私は一瞬想像しようとしたけれど……止めにした。


 なんだか、怖くなった……というよりも心が苦しくなってしまった。


 生きるためにしょうがなく……だろう、囚人達の亡骸を“捨てる”ことを仕事として選んだ、それしか選択がなかった“被差別”な人々を、私はその彼等にとって対照的な位に立つ聖剣士として――リヴァイアサンから毒気を受けて聖剣士と呼ばれるようになり、その傍から見た輝かしい敬称の下にある『毒気に生きる自分』の部分を、彼等に見つけてしまったからだ。


「魔法列車で無人駅に停車する貨物も……そうしたら、……ああ牢獄塔からの」

「……ええ、死体ですよ」

 華々しくデビューしたグルガガム大陸を海沿いに走る特急達――その陰で無人駅に停車する荷物の死体だ。

 カズースの大人達は実はこの事実を知っていて、だから幼かった私にパパンとママンは口を閉ざしたんだ。

 聖剣士として生きるようになって、幼い頃の――あの時の両親の姿を思い出して、ようやく納得が、合点が付いた私だった――



「……この集落には、名前が無いと」

 私はたまらず、なんとか話題を変えようと思って、

「はい。聖剣士さま……」

 食器を片付ける手を休めてから、修道士の男性はようやく私に視線を合わせてくれた。

 今まで心の中に閉ざしてきたこの集落の現実を、他ならぬ聖剣士に教えることができて、彼なりの気が晴れたのだろうと思った。

「じゃ……じゃあ! 聖剣士リヴァイアが名付け親になってもいいか?」

「名付け親……って、聖剣士さまがこの集落の」

「そうだ! 名前を付けてやろう」

 咄嗟の気持ちだった。せめてこの集落に生きる者達に少しでも自慢できることを――聖剣士が名付け親になってくれた村と。

 そういう気持ちだった。でも、その気持ちは彼等への哀れみの心からではない。

 そう断言できる―― 今でも。


「……そ、そうですか。聖剣士さま……では、ぜひ! そうしてもらえたら」

「ああ、聖剣士が名前を付けた村というのは、鼻が高いか」

「は……はい!」

 修道士の男性、この時ようやく目の力を緩めて微笑んだ。


「……う~ん。そうだ……な? ……ダ、ダンテマ! ダンテマ村はいかがだろう」

 咄嗟の思い付きだったから、私は――


「ダンテマ……村。ダンテマ村ですか。……どういう意味で?」

「いや……。私の旦那の名前だ。ダンテマだ」


「聖剣士さまの夫の名前をこの集落にもらい受けても……いい……の」

「いい! いいぞ。ダンテマ村。今日からダンテマ村と名乗るがよい。聖剣士が保証するぞ!!」

「は……はい。ありがとうございます。聖剣士リヴァイアさま」


 修道士の男性の両目には涙粒が溜まっていた。

 今でも目に焼き付いている……。


 ダンテマ村―― どうしてあいつの名前をあの集落につけたのだろう?


 私はそれから、長い間、その自らに背負った謎を解こうと――




       *




「……そんなの分かり切ってる。あいつが我よりも先に死んだからだ」

 月明かりに顔を向けているリヴァイア。

 口を開いて独り言を言う。

「ダンテマ……。これは無意識だな。死者の村と我をおいて、先に旅立ったダンテマと――」

 自分はあの時、集落にダンテマ村と名付けた時に、瞬間的に夫のダンテマの名前が浮かんだ。そして、夫の名前を死者の村につけた。


「おい……ダンテマよ。確かあんたの墓はサロニアムの共同墓地だったな」

 夫の亡骸はサロニアムにある。

 対して……、我はグルガガムの出身だったから。

「我の、ダンテマに対する未練が、そうさせたんだぞ。村の名前に……」



 リヴァイアは月を見る。

 なんというか……


 傍にいて欲しいという妻の心が無意識に……、まるで“位牌”のように、死者の村をダンテマ村と名乗らせることで自分自身の夫への思いを晴らそうとした。

 これがリヴァイアの謎の回答だった。



「……」

 そのままに、リヴァイアは月を見続ける。

 朧に雲の霞が掛かっていたから、それ程眩しくはない――


「ギルガメッシュ……」

 リヴァイア、これも無意識に腰に提げているエクスカリバーの柄を握った。

「ギルガメッシュ……。未亡人の我に“浮気”をしろと言いたいのか?」

 木組みの街カズースを見事に優しく照らしてくれている月に、リヴァイアはキッと目を細めて睨み付ける。

「ギルガメッシュ……。お前がダンテマ村を選んだ理由は、つまりは……そういうことなのだな」


 つまりは、そういうこと……。というのは、要するに1000年前に死んだ夫よりも自分を選べ……である。


「お前のやっていることは、ガキンチョレベルだぞ……情けない」

 月から視線を外して俯くリヴァイアが、顔を左右に振って辟易する。

「……ギルガメッシュ。リヴァイアサンから盗んだのではなくて、譲ってもらっただけだろう? それをお前は盗んだと大盗賊だと思っているのだろう。そして、その……ホーリーアルティメイトの魂を取り戻した自分を慕ってほしいと……そう思う気持ちから」


 それは、我のためだったのか?

 違うだろう。自分の自尊心からきた『傲慢』だったのではないか?


「ギルガメッシュ……。お前も一度な聖剣士になってみればいい。そうすれば分かるだろうぞ」

 リヴァイアがエクスカリバーの柄をきつく握りしめると、途端――鞘からエクスカリバーの剣を抜く。

 その間……、月明かりに元聖剣が反射。


 キラッと寝室を、まるでサーチライトのように光の筋が一直線に、また一直線に飛んでから、


「否だ、分からせてやろうぞ」

 リヴァイアがエクスカリバーの切っ先を窓の向こう――月へと刺した。


 ……そのままの姿で、

「流浪の魔法使い上がりが、聖剣士と出会って大魔法使いに、賢者さまになれると思っていたのか? そうだったら、お前は勘違いしていることになる。聖剣士――敬称は綺麗に聞こえるだろう。けれどな……、要するに、このエクスカリバーで“敵”を殺し殺し……殺し続けてきた1000年も……、1000年も殺戮してきた騎士のリヴァイア・レ・クリスタリアだぞ」

 リヴァイアは月に向かって、こう言い放つのであった――



「お前を殺してホーリーアルティメイトの魂を取り戻すことができるのであれば、我は喜んでお前を殺してやろうぞ!」


 ……と、



「ギルガメッシュよ!! 我――聖剣士リヴァイアを殺してみろ!!」

 月に向けたエクスカリバーの切っ先――

 同時に、リヴァイアも月を睨み付けて言い放った。


 でも、それは皮肉を込めた暴言だった。

 何故なら聖剣士リヴァイアはどうしようと死ねないのだから。それこそが、聖剣士をかんむ所以ゆえん――聖剣士たらしめる、聖剣士としての存在価値。


 その価値を、一塊の魔法使い上がりの大盗賊の人物に倒せることもなくて……。


「我を殺せないのであれば、我はお前を殺すことになる――。そして、お前を死者の村――ダンテマ村の墓地に埋めてやろうぞな。……我、自らの手で!! もしも、生まれ変わるのであれば、その時は未亡人の女を嫌いなさい――。ギルガメッシュよ……お前はそうして優しい恋愛の果てを見たほうがいいと思う」


 ……と、リヴァイアは月明かりに真正面に顔を向けて、エクスカリバーも向けて、優しく光っている月にだけ、



 聖剣士の正体を暴露したのだった――





 続く


 この物語はフィクションです。

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