第50話 暗闇の木箱の中で、私は『聖剣』と呼ばれたホーリーアルティメイトを両手で抱え込んで――


 ギルガメッシュ……


 最後の聖剣ホーリーアルティメイトの魂を、リヴァイアサンから盗んだ男。


 しかし、どうやって盗んだ?



 お前は竜騎士の帝国ゴールドミッドルで、魔法使いとして名を轟かせた賢者ではないか。

 教えてくれたではないか?

 我もまだ行ったことのない未開の大陸の話を――興味深く聞いていた、自分がそこにいたんだぞ。


 それがいつしか、流浪の魔法使いとなり魔法都市アムルルに立ち向かい、歯向かってしまい、

 クリスタミディア牢獄塔で終身に暮らすことになってしまった男――大盗賊ギルガメ。


 ギルガメッシュよ……



 いったい、何がお前に起こったというんだ。

 我は知りたいと思って――




       *




「どうだ! この狩場は?」

 雪原の山林深く――リヴァイアが息を白く吐きながら、

「ええ。聖剣士さまの仰る通りに、いい具合にズンズンとレベルアップしますよ」

 同じく息を白く吐く男が、リヴァイアの前に両手を魔物にかざしながら応える。


「いい加減に、その聖剣士さまって言い方はよしてくれないか。リヴァイアと言ってほしいぞ」

 頬を少し赤らめたのは、寒さによって肌が霜焼けのように腫れているからではなくて、その……照れである。

「そ……、そんじゃ。……リヴァイア」

 同じく男も少し頬を赤らめて、恥ずかしがりながら彼女の名前を呼んだ。


「ああ、それでいいぞ――ギルガメッシュよ」

「……は、はい」

 リヴァイアとギルガメッシュ――


「どうだ、そろそろロッジに帰らんか? ここは最良の狩場だから、いつでもレベルを上げようと思ったら、また狩ればいいのだから……。ちょっと休もう」

「休憩ですか……」

 魔物にかざしていた両手の力を抜いて、腕を下すギルガメッシュ。

 なお……その魔物はすでに息絶えている。

「そうだ、休憩だ。我のロッジで――」

「……は、はい」

 ギルガメッシュはバトルのために、自らを守る魔法のバリアを解く。逆立っていた髪の毛も勢いを落として、もとのヘアスタイルに戻った。

「さあ、ギルガメッシュ。我のロッジに戻ろう」

「はい!」

 大きく口を開けて返事をするギルガメッシュ。

 小走りにリヴァイアのもとへと来てから、


 2人は揃い、ロッジへと向かう。





 ――あの時は、お前と出会い、いちばん楽しかった日々だった。


 孤独な我と出会ってくれてありがとうと……


 今でも、思っているのだから。





 聖剣士のロッジ――

 木組みの街カズースから、山道を登って深い深い山奥の森林の、その森林が少し開けた丘にあるリヴァイアの居住地。

 勿論、木組みでできているロッジではあるが、その木々はかなり傷んでいる。

 北海の厳しい雪と風に長年さらされた結果なのだろう。

 けれど、中に入ると思ったほど寒くはない。

 北海特有の防寒設備である二重窓と二重壁が、極寒の冷気を遮断してくれているからだ。


 暖炉――


 その前に椅子を並べているリヴァイアとギルガメッシュ。

 メラメラと薪が燃えている……


「我も……一度は行ってみたいものだ。竜騎士の帝国ゴールドミッドルに」

「リヴァイアは……その、1000年を生きてきた伝説の女剣士なのに。まだ未開の地があるのですね」

「ああ、あるなぁ……。長く生きてきたけれど、ゴールドミッドルの大陸は行ったことがない」

「そうなんですか……」

 リヴァイアは両手で持っていたカップの熱い飲み物を一口含んで、すると、ギルガメッシュも真似てか? 手に持っていたカップを一口飲んだ。


「リヴァイアが想像するほど、ゴールドミッドルはいいところじゃないですよ」

「……というと」

 顔を横に向けて問い掛けるリヴァイアに、ギルガメッシュは見ることなく少し視線を下げて、

「戦い……、戦いに明け暮れている帝国ですから。サロニアム・キャピタルへの進行のために、その前線基地とするべく民間の港町を強引に武力で占領してしまった輩ですから」

「……噂には聞いていたが、それでゴールドミッドルは大陸中の人々から嫌悪されていると」

 うん……、ゆっくりと頷くギルガメッシュ。


「だ~れも、帝国に好き好んで味方してくれる者なんて、いないんですよ。でも、帝国の武力は圧倒的で……だから、誰も死にたくないし……だから、しぶしぶ帝国に従っているっていうのが実情です。おまけに……」

「おまけに……?」

「内海は海蜘蛛が支配しているし……あの魔物は帝国の飛空艇船団をもってしても勝てない。それに内海の塩も質が悪くて、占領した港町の塩も大海峡の大津波で漁もできやしない……」

「サロニアムの旧都であるゾゴルフレア・シティーが、海の資源が乏しくなって、それで都を内陸に遷都した理由と同じだな」

 リヴァイアが暖炉に薪をついたす。

 薪がパキッと縦に割れて音を出すと、ゆっくりとメラメラ燃えていく。


「まあ、話を変えようか……」

 リヴァイアが口の端をゆるめてから微笑んだ。

「……リヴァ。はい。そうですね」

 俯いていた顔を上げるギルガメッシュ。

「ところで、我が名付けた『ギルガメッシュ』という名前は、しっくりきてきたか?」

「ギルガメッシュ……俺の名前の話ですか」

「あ……ああ、そうだぞ。ギルガメッシュ――流浪の戦士に相応しい名前だと我は思いそう付けたんだか」

「流浪の戦士って」

「そうだな……賢者じゃなくって戦士というのも、変か?」


「へ、変……で……。いや、気に入っています」

「ウソをつくな」

「本当ですって。俺の名前なんて……子供の頃から変なあだ名で呼ばれて」

「どんなあだ名だ」

「言いたくないです」

「そっだな……今でも我に教えてくれないし……な」

 右目を閉じてギルガメッシュの顔をチラ見するリヴァイア――


「言い、言いたくありませんから」

 その視線から逸らして、ギルガメッシュは暖炉の炎を見つめた。


「……まあ、言いたくないんだったらそれでいいと思うぞ」

「……あ、ありがとうございます。リヴァイア」

「ああ……、流浪の戦士――ギ・ル・ガメッシュよ」


「ちょ……どうしてギルガメッシュの前に戦士を……って」

 思わず椅子から身を上げたギルガメッシュ――


「ふふ、ははは……」


「もう、リヴァイアって……。……ふ、ふふふ」


 2人は揃い、声を出して笑う。




       *




「今度はリヴァイアの話を聞かせてくださいよ」

 身体を彼女に向けるギルガメッシュ、身を乗り出す。

「……我の話か?」

「はい!」

「……我の、話か」

 人差し指で頬を触るリヴァイアが暖炉の炎を見つめてから、

「大して、面白くもなんともないぞ。どちらかといえば悲劇……かな」

「そんなことないですって! だって、1000年を生きた伝説の聖剣士ですよ! 人に話したくなるような冒険談の一つ二つ必ずあるはずですから」

「冒険談……か。まあギルガメッシュよ……落ち着け」

 興奮しつつあった彼の両肩を押して、椅子に腰掛けようとする。


「冒険談か――」

 そう呟くと、リヴァイアが再び暖炉の炎を見る。


「じゃあ……密航の話をしてやろうか?」

「密航? なんか凄そうです」

 両手を胸前でギュッと握ってグーにして、ギルガメッシュは再び興奮再沸騰。

「いや……すごくなんかない。我が兵役から逃れるために……、サロニアム行きの飛空艇に密航した話だ」

「聞かせてください――リヴァイア!」


 ……ああ。




 あれが――

 両親との今生の別れだった。


「リヴァイアよ……ほら、この木箱に入って」

「いやです。ママン……」

「ほら、お願いだから……ね」


 ママンは私――17歳のリヴァイア・レ・クリスタリアをサロニアム行きの荷物置き場で、私を無理矢理に木箱の中に押し込めようとしていた。

 私には、その意味が分からなかった。


「ほら、ちゃんと飛空艇の船長にもお金を払ってあるから……サロニアムについても、ちゃんと税関の検査官が船長が話をつけてくれるって約束してくれたから」

「ママン……」

 無理矢理、木箱に押し込めようとするママンが理解できなかった。

 私は涙目になってしまい……。

「ママンのことは大丈夫だから――お願いだから」

「ウソです! ママンだって」

 ママンだって……両目に涙の球粒を溜めていることが見えたんだ。

「ほら……リヴァイアよ」

 その隣で、

「パパン……いやです。私はカズースから離れたくありません」

 私の両肩を力強く持って、木箱に押し込めようとするパパンだった。


「ほら、リヴァイア……あなたはいい子なんだから。だから、あなたを私達は決して戦場になんか行かせたくないの」

「リヴァイア……お願いだから、どうかサロニアムで幸せになってくれ。グルガガムからの徴兵は……お前という女にも与えるとパパンは聞かされて……、お前を……パパンは死なせたくないんだ」



 気が付くと、ママンもパパンも……そして、私も涙を目一杯に流していたんだ――


 城塞都市グルガガムはサロニアムと戦の準備を始めたらしい。

 戦には兵がいる。

 カズースはグルガガムの属地――従うしかなかった。

 でも、その徴兵に女までという話を両親が聞いてから、私をなんとか、


 死なせたくないと――


 サロニアムは最大の軍事国家――いくらグルガガムが戦力を備えようと叶う相手ではない。

 両親は知っていたんだ。

 戦場に駆り出されたら、私は確実に死ぬことを。


 一人娘の私を、私の命を助けるために、敵国サロニアム・キャピタルに密航させようと考えた。



「これで、お別れなのですか?」

 私は……17歳だった。

 右も左も分からない、ずっと木組みの街カズースで育ってきた田舎者だった。

「そんなこと……」

「そんなことはないぞ……リヴァイア」

 両親が木箱に入る私の背中を摩ってくれた……。


「この戦争が終ったら……また再開できるから」


(ウソだ)


「リヴァイア……この戦争でお前を死なせたくないんだ。兵役になんか絶対にいかせるものか。しばらくすれば、必ずカズースに戻ってこいよ」


(ウソだ……。みんな死ぬんでしょ)


 だから、サロニアムに私を――


「リヴァイア……」

「パパン……」

「ほら、これを受け取りなさい」

 涙でよくは見えなかった……。

「うん……」

 でも、私はパパンからを受け取って、

 重かった。ずしっときた。

「パパン……これは」

「これは、『ホーリーアルティメイト』というクリスタリア家代々の宝物だ」

「宝物?」

「そうよ、リヴァイア……。ママンがクリスタリア家に来た時にも、パパンからよーく教わったの。代々の宝物で、クリスタリア家を守護してくれたありがたい剣ってね」


「ホーリーアルティメイト……」


 その剣、少し剣先が錆びついていたことを思い出す。

 宝物……、到底戦では使えない代物だった。


「この剣を両親だと思って――そしてサロニアムについたら『聖サクランボ』という施設のエスターナ修道士を探しなさい。すでに魔法電文で話はつけてあるからね……。エスターナ修道士が、あなたを温かく迎えてくれるはずだから……」

「エスターナ修道士が……ですか」

「ええ、そうよ」

 ママンはそう言うとニコッと微笑んでくれた。……でも、目を見ると寂しくて。

「リヴァイア……」

「パパン!」

「いいか、リヴァイア……。この剣の名前がホーリーアルティメイトであることを、決して誰にも言うんじゃないよ」

「どうし……てですか?」

「ホーリーアルティメイトはな、この剣は『聖剣』なんだ」


 聖剣――


「聖剣といって、いつの日かこの世界を魔族が支配した時に、必ず活躍してくれる聖剣なんだ。だから、リヴァイア……お前にこの聖剣を与える。どうか、聖剣様……リヴァイアを御守りくださいという願いを込めて」


 聖剣様――


 その時に、飛空艇の汽笛が鳴った。出発の合図だ……サロニアムに向けての。


「じゃあな……リヴァイア。たっしゃで生きていくんだぞ」


 パパン……


「リヴァイア……。ママンはあなたのことを愛していますからね。いつまでも……」


 ママン……


 私も、いつまでも……、いつも 今でも――

 そして両親は木箱の蓋を閉めた。

 木組みの街カズースには珍しく快晴の空だったっけ。

 その空が、蓋を閉められるごとに日の光が遮られて、


 暗闇の木箱の中で、私は『聖剣』と呼ばれたホーリーアルティメイトを両手で抱え込んで――



「揺れる飛空艇の中、その聖剣だけが私の心を支えてくれてくれたんだ――」



 あれから1000年も……


 さようなら、 ママン パパン


 我はずっと人の死を見続けてきて、誰もが我よりも先に死んでいって、

 もう、おかしくなってしまった。頭がなぁ……


 聖剣士リヴァイアとして、何度もオメガオーディンと対峙して、魔物達を殺し、魔物達に殺される人々の無念を見てきて、

 倒したくても倒せない悪そのもののオメガオーディンであることを知り、それを人々には言えない自分がいて、


 なんなのだろうな? この我の命というものは――




       *




「……その、リヴァイア」


「ああ、なんだ」

 いつの間にか、両目に涙を溜めていたリヴァイアが、袖でそれを拭った――


「その……、その腰に提げているエクスカリバーが」

 ギルガメッシュが指を差す。

「ああ、この聖剣エクスカリバーがな……昔名むかしなをホーリーアルティメイトというぞ」

「これが……ですか」

 ギルガメッシュは、恐る恐るにリヴァイアの腰元に提げている剣――聖剣エクスカリバーを凝視した。

「そうだ、昔名をホーリーアルティメイトという」


「ずっと隠して生きてきた……」

 覗き込むギルガメッシュを横目に流し、リヴァイアは暖炉に目を向けて小声で呟く。


「リヴァイア……」

「……」


 やがて、エスターナ修道士に拾われて……、聖サクランボで見習いとして働くことになって、その最中に図書館で預言書とであって……


「……聖剣との出会いも、運命だったんだな」

 続けて小声に呟くリヴァイア――

「運命とは、分からないものだな……。我はグルガガムの兵役についてもよかったと思っている。城塞都市で囲まれたおびえた軍事国家だから、すぐに……降伏するだろうと内心思っていたけれど、案の定すぐに戦は収まった」

「じゃ……、カズースに帰れたんじゃ?」

 ギルガメッシュが端的に問ってくる。

 しかし、リヴァイアは静かに首を左右に振って否定した。

「……その後、しばらくサロニアムとグルガガムは大海峡を挟んで国交を断絶した。友好か平和だったか? 条約が結ばれたのは大分後の話になったっけ」

「じゃあ、飛空艇の往来も」

「当然、一隻も飛びやしなかった。だからカズースに帰れずじまいで……その後もサロニアムに」


 サロニアムで聖剣士としてオメガオーディンと戦い、リヴァイアサンから毒気をもらい受けてしまった。


 あの時――


 あの瞬間に、エクスカリバーは聖剣となり輝きを我に見せてくれて、けれど、その代償なのか?

 否……、はじめから、それが目的だったというのか?



 毒気をことで、ホーリーアルティメイトのを奪う――



「奴は知っていたんだろう。だから、我に毒気を浴びせてを奪った」

「どういう……こと、ですか?」

 ギルガメッシュがリヴァイアの顔を真剣に見た――

「……」

 リヴァイアはというと、暖炉のメラメラと燃えている炎を見つめたままで、

「エクスカリバーが、本当は最後の聖剣ホーリーアルティメイト……であることをだ」

「最後の聖剣……」



 あの時、確かにあったホーリーアルティメイトからの妖気が――


 リヴァイアサンからの毒気を浴びてから、それが無くなってしまったことを、


 エクスカリバーと偽って、サロニアム第四騎士団長にまでなってしまい、誰もエクスカリバーをホーリーアルティメイトであることなんて知る由もなくて、

 知られないままにホーリーアルティメイトの妖気を――魂を抜き取って行ったリヴァイアサン。


 お前は知っていたんだな?

 あれから、なんどもお前とカズースの砂浜で対峙してきたけれど、我は勝てなかった。

 召喚獣としてオメガオーディンが召喚するくらいのクラス、我がいくら聖剣士となっても、所詮は騎士団上がりの風来坊の剣士に過ぎないのだから。


 しかし、リヴァイアサンよ――

 お前はリヴァクラー神殿を半壊させたけれど、所詮はその程度の大津波でしか実力はないことを、我――聖剣士リヴァイアがよく知っているからな。

 お前は、その程度の“波使い”の魔物だからな……弱虫のリヴァイアサンを。



「ギルガメッシュ……。我の、本当の聖剣ホーリーアルティメイトを盗んで行ったのはな、リヴァイアサンなんだ」

「リヴァイアサンですか?」



 ああ、これを言ってしまったから……ギルガメッシュよ。


 だから、お前は大盗賊ギルガメになってしまい……。



「リヴァイア! そ……そうしたらですよ、リヴァイアサンからそのホーリーアルティメイトの魂を奪い返せば、この聖剣エクスカリバーも晴れて本当の聖剣に――」

 ギルガメッシュが両目に星を浮かべて……それもキラキラとお星様の如くにだった。

「あ……ああ、聖剣ホーリーアルティメイトに戻れるんだ」

「じゃ! リヴァイアサンを退治すればいいんですよね?」

「……いいんですよね? リヴァイアサンは我でも勝てない相手だぞ」

「じゃあ! リヴァイアサンからなんとか、ホーリーアルティメイトの魂を奪えばいいだけじゃないですか?」

「いいだけって……それができれば、我もすでにそうしている」


「俺、リヴァイアのためなら……やってみます! だから、もう休憩を終えて狩場へ行きましょう」

 おもむろにすくっと立ち上がるギルガメッシュが、リヴァイアの手を握る。

「ギルガメッシュ……正気か」

「は……はい。俺がレベルアップすればいいだけの話じゃないですか」

「は……はあ、レベルアップか」

 その手に引き寄せられて、リヴァイアも立ち上がった。

「お前のレベルでは、まだまだ難しいから」


「だから、狩場でレベルアップするんですよ! リヴァイア! ほら行きましょう」


(キラキラと……お前の悪に対する正義感というのは、魔法都市アムルルでの一件も聞いて、どうしてそうも戦うことにこだわるのか? 我は1000年を生きてきて、もう……正直しんどいんだから)

 リヴァイア――心の中でギルガメッシュの正義感に苛まれる自分を振り返り、

「そ……そうだな。じゃあ……、ギルガメッシュ、お前にリヴァイアサンからホーリーアルティメイトの魂を奪い返すように修練を続けようか……」

 空元気に返事した……してしまった。

「はい! 聖剣士様」

 当然のこと、ギルガメッシュには彼女の心中は分かることはない。


「だから、リヴァイアでいいって……」


 立ったまま、メラメラと暖炉の炎を見るリヴァイア――




 ああギルガメッシュ――


 我のためにホーリーアルティメイトの魂を盗んで、


 それは、我のためだったのだな。


 余計なことをしたな、ギルガメッシュよ――


 我へのために……どうして?


 愛か? 友からか?


 でもな……、何にしてもお前は間違っていると、我は思うのだ。




       *




 昼下がりのリヴァイアの部屋――

 

 憂いながら……、窓の外を見上げているリヴァイア。

 まだ、ベッドから起き上がってはいない。

 その外……木組みの街カズースの空は北海らしい……、薄暗い雨雲が厚く覆っている。


「我は……限界なんだ。すでに限界を越えてしまっている。だから、レイスよ……。ルン……。混血の聖剣ブラッドソードを完成させて、お前達に……次の私の世代に世界の命運を預けたいと思ったんだ……」


「リヴァイア?」

 レイスがベッドに座るリヴァイアの手を握る。

「この……混血の聖剣ブラッドソード……で、オメガオーディンを倒せと」

 先の浜辺の取り乱したリヴァイアを案じてか、ルンも同席している。

 彼の腰には、似合わず提げているそれを触る。

「ああ……、だからお願いする」

 そう言うと、リヴァイアが静かに頭を下げる。


 無論……、リヴァイアサンの言うとおりに混血の聖剣ブラッドソードでもオメガオーディンは倒せないだろう。

 そして、最後の聖剣ホーリーアルティメイトでさえも、同じように――


 ギルガメッシュよ――


 お前にも、言っていなかったっな。




 混血の聖剣ブラッドソードと最後の聖剣ホーリーアルティメイトが、揃った時に、

 預言書『究極魔法レイスマ』には……、確かに書いてあった。


 我は、それを読んだから――





 続く


 この物語はフィクションです。

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