第45話 わ、……わたし! こうしちゃいられない。
「聖剣士リヴァイア様は……私達のことを、どうお思いなのでしょうね?」
窓の外――
同じくオニオンの宿の2階から、夜市のランタンの明かりを見つめている女性がいる。
「……クリスタ王女?」
そして、もう1人いる。
「……レイス、私のことはクリスタと言っていいのですよ」
「そ……そんな母様」
その2人とは、クリスタ王女とその娘であるレイスだ。
「いいえ、クリスタと言ってもらえるほうが、私も気が休まるというか」
「……」
一瞬、レイスはためらった。
アルテクロスの王女――
クリスタ王女といえば、レイスは幼い頃から耳にしている名前と敬称――
それを、クリスタと軽々しく呼ぶなんて……おこがましく思ってしまう。
「……クリスタ」
でも、レイスは、思い切ってその名を呼んだ。
「……はい、レイス?」
「……」
はは……
レイスは軽く微笑んで、緊張を解した。
「クリスタ……。リヴァイア――聖剣士リヴァイアさまがどうお思いかというと」
話を戻す。
「……ええ。聖剣士リヴァイアさまは、私の遠い祖先と聞きます」
「はい」
「その御方が、今もこうして生存なさって。悪――オメガオーディンと戦ってくれることを、私達は……今を生きている人々は喜んでいいのでしょうか」
「というと……」
「……」
クリスタはテーブルに置いてあった櫛で、自分の髪を梳かす――
「クリスタ?」
「ええ、率直に言うならば、私は聖剣士リヴァイアのおかげでこうして、王女として生きることができました」
櫛で髪を梳かしながら、でも、レイスには視線を向けずに窓の外のランタンを眺めているクリスタ、
「聖剣士さまがいなかったら、私もこの世界には生まれていなかった―― それはレイス、あなたも同じですね」
梳かす手を止めて、そのまま横目でレイスの表情を確認した。
「聖剣士リヴァイアがいなかったら……ですか? 私も……末裔で……はい。仰る通りだと思います」
と、言いながらレイスはリヴァイアとの出会いから、本で読んだ伝説を思い出してみた。
――確か最初はサロニアムの騎士団に入隊して
数々の武功を上げて、それからオメガオーディンを封印して、
確か究極魔法ダンテマだったっけ?
コンコン……
扉をノックする音が聞こえた。
「……はい。どうぞ」
クリスタが扉に向かい声を出す。
「では……」
ガチャ
「……法神官ダンテマ」
「……夜分遅くに失礼いたします。クリスタ王女とレイス姫」
「なにか御用で?」
首を傾けるクリスタ――
今宵はもうそれぞれの部屋で就寝しましょうという話だったのに?
何か自分に言付けることを思い出したのか?
「いや……聞こえてきましたから。廊下まで――」
ダンテマの来訪は、単なる好奇心の様子だ。
「……そうですか?」
「この宿では密会事は無理でしょうな……」
ダンテマは遠慮せずにすたすたと歩いてくると、2人がいる窓辺への近くに立った。
「……ダンテマさま」
レイスが彼の名を呼ぶ。
「今宵は綺麗ですな――木組みの街カズースにこのような夜市というイベントがあったなんて、さすがの我が法神官ダンテマも初耳でした」
レイスを一目見てから、でもダンテマは窓の外のランタンの明かりを優先する。
木組みの街カズースの夜市――
雪が積もる木組みの屋根には、ランタンの温かい明かりが乱反射して幻想的な光景を演出してくれている。
「それだけ……地元民は隠しておきたいのでしょうね。なにせ、この夜市はリヴァイアサンへの信仰の証だとか……」
クリスタもその明かりに見入ってしまっている。
「やあ、それは私もオニオンの宿主から聞きました。とっても機嫌よく教えてもらいましたよ」
「……そうですか?」
ハハ……
クリスタとダンテマは声を揃えて笑った。
「……」
レイスはその様子を隣で見ていて――
「レイス姫?」
ダンテマが表情を戻してから、
「ダンテマさま……わ、私のことはレイスと呼んで」
レイスはクリスタと同じことを彼に言った。
「……では、お言葉に甘えて。私のこともダンテマでかまいませんよ」
うんと……大きく頷いて返事をする。
「なにせ……姫のお言葉は法神官にとっても絶対ですから……ね」
そう……ちょっとだけいやらしく、レイスに対して言い放つダンテマが、目配せする相手はクリスタだった。
「……ええ、そうですね」
「か……母様……い、いやクリスタ」
もう……
レイスが少し頬を緩ませながら赤らめてしまう。
「聖剣士リヴァイアがいなかったら、私も……と扉の外から聞こえましたよ」
ダンテマがレイスに部屋の外で聞こえてきた会話を尋ねる。
「は、はい。そう言いました。……聖剣士リヴァイアがいなかったら、私もこうして姫という立場もなく、アルテクロスのスラムで……あるいは、ルンの飛空艇に乗っているだけの一生だったんじゃないかなって」
「……そうですか」
ダンテマは再び窓の外を見る。
夜市のランタンは綺麗だ――綺麗すぎる――
港町アルテクロスではお目にかかれない、新鮮な異文化に出会えたことに3人は心の中で感謝していた。
「そう思えるあなたは……賢い」
「か……私が賢い?」
ダンテマは街カズースの明かりを見つめながら、
「……聖剣士リヴァイアのさまは、聖剣士という冠を付けて1000年を生きてきて……、私達現代に生きる者は、聖剣士さまの武功を書物でしか知り得ません」
「……」
レイスは黙って聞いている。
その彼女の顔を一目確認してから、
「……レイスよ。あなたは賢い。あなたは飛空艇の仲間に出会う以前、かつてアルテクロスのスラムで暮らして……だから分かり合えるものが心の中にあったのでしょう」
「……私にですか」
「はい。そうですよ」
ダンテマはコクリ頷いた。
「あなたも、アルテクロスの住人に蔑まれた日々があったことでしょう……スラムなんかで暮らして、とか、スラムの盗人の分際で……だとか」
「……」
レイスは無言で頷いて返す。
「あなただって、好き好んでスラムを生きてきたわけじゃない……仕方なく。まあ、城の生贄の儀式からあなた様を逃がした結果、そうなってしまったことは事実ですけれど」
「レイス……その」
たまらずクリスタが、
「その、今一度……その、ごめんな」
「そ、それ以上は仰らないでください! クリスタ!!」
窓の外にランタンの光が街を覆っていて、
「わた、しは、その……もう気にしてなんかいませんから! だから、クリスタ……」
「……そ……うですか」
クリスタは、手に持っていた櫛を静かにテーブルに置いた。
けれど、このオニオンの2階の宿は暗くて――
でも、その方がより夜市の
「……私もスラムで生きてきたけれど。勿論、好き好んでなんか」
俯くレイスにダンテマが、
「その通りです。それが正しい反応だ」
両手を後ろに回してから、姿勢よくアルテクロスの御姫様へ、その気持ち清廉さを称える。
「あなたは正しい反応を、今したのです。誰も好き好んでスラムで暮らしてなんかいない。どうしようもない現実があったから、仕方なくそこで暮らす羽目になってしまった」
「……はい。ダンテマ」
「その……気持ちを」
「を?」
「その気持ちを……、聖剣士リヴァイアさまに当て
「リヴァイア……さまに? ですか?」
「…………」
しばらく無言になったダンテマは……、でも、すぐに口を開いて、
「毒気をもらい、生き続けなければならなくなった聖剣士リヴァイア――聖剣士さまと誰もが彼女を褒めるでしょう。そういう連続が聖剣士リヴァイアさまの1000年間だったのではないでしょうか?」
「……そうですね」
クリスタがダンテマの話に納得して大きく頷いた。
「クリスタ……」
その姿をレイスはしばらく見続けて、
「その聖剣士と呼ばれることが、つまりは不本意なんだと仰りたいのでしょうか?」
レイスがダンテマに尋ねた。
「無論……呼ばれることは仕方がないと、聖剣士さまも割り切ってのことだと思います」
「割り切って……じゃあ」
「でもですね……レイス姫。ある者は聖剣士さまを疎ましく思うかもしれません」
「う……疎ましくですか?」
疑問符を頭の上に見せるレイスだった。
一方、ダンテマは表情を真剣にしたままで、
「彼女を褒める者達は、必ずオメガオーディンを倒してくれるのだから、そのための聖剣士なのだからと、拍手を送るでしょう。一方で、疎ましく思う者達は聖剣士だからって、結局は、オメガオーディンは自ら封印を解いて復活し続けているじゃないか……と恨み節だ」
「……だって、聖剣……士、だから期待するとか……しないとか、でも期待しちゃうし……ああっ!」
レイスが何かに気が付いて絶句する。
「……ああっ。なんだか私がスラムで暮らしていた時の気持ちと同じような」
なんだか分からないけれど、その気付きを自分の過去の体験に当てはめて考えると、
だって、そう思っているのはあなた達であって、私からお願いしたわけじゃない――
「聖剣士さまも、自分でもどうすることもできなかったんだから……」
そう呟きながら、リヴァイアとレイスは最初に出会った時、アルテクロス城の塔で自分を抱きしめながら『すまない……』と一方的に謝ってきた気持ちが、なんとなく理解できた。
自分で望んで聖剣士に――それは末裔のレイス姫にも影響を与えてしまったこと、
初代ダンテマとの間にできた赤ちゃん。
初代クリスタ王女――
「聖剣士さまは……孤独なんだ。だから――」
仲間が欲しいと思った――
「……あの、サロニアムの城の出来事――私とルンに聖剣を託した理由が、自分にはオメガオーディンは倒せないから……だったと」
レイスが話題をサロニアム城のそれへと変える。
「ああ、その話もご存じで……」
後ろに組んでいた両手を離してから、ダンテマは今度は胸前に組み直す。
「……はい」
――レイスは、サロニアムの場内でリヴァイアが発した自分の運命の話を思い出す。
究極魔法レイスマが発動して、ルンが戴冠して混血の聖剣ブラッドソードを託されて――
その後の飛空艇では、リヴァイアは、「自分にはもう聖剣士の資格を失った――」
と語った出来事の顛末――
しかし、レイスは『あなたは今でも聖剣士なのです……』と励ました出来事、
「……あ、私リヴァイアに、言っちゃいけないことを言って」
ふと、レイスはここでも気が付いた。
聖剣士なのです……
なんて軽々しく語った自分に気が付いた。
その言葉は、とどのつまりはスラムで暮らしていた自分に対して、蔑んだ眼と言葉を欠けてきた住人たちと同じなのではと思ったからだ。
リヴァイアは好き好んで聖剣士になったのではなくて、なってしまっただけ――
「……だけなんだから」
レイスは思っていた言葉を思わず口に出す。
「……レイス」
その言葉にクリスタが反応する。
「はい……クリスタ?」
「……クリスタも法神官ダンテマも……、そしてあなたも。皆――聖剣士リヴァイアの末裔です」
「ぞんじて……ます」
コクりと大きく頷いて返答するレイスだ。
「レイス姫――」
すぐにダンテマが話に入る。
「……ダンテマ?」
「幸いなことに―― 私たちは末裔であり、聖剣士さまの傍にいることを許されています」
「……そ、その通りですね」
出会ったのはアルテクロスの城内の塔からだった、
そこからリヴァイアは私を抱きしめてくれて。
私には意味が分からなくて――
それでも、
我が最愛の妹――
と、言ってくれた。
このスラム育ちのレイス……・ラ・クリスタリアを。
「レイス……聞いてください」
クイと見つめてくるクリスタ王女だ――
窓の外に向けていた身体を、部屋の中へと向き直してから、
「私達が聖剣士リヴァイアの味方にならなくて、どうしてオメガオーディンと戦えましょうか……」
「……クリスタ……さま」
思わず様と、言ってしまった。
それくらいに彼女の視線は真剣だった。
「私達がここに、カズースに来た理由が聖剣士リヴァイアさまの力になることです。……幸いに私も魔法の使い手として心得がありますから、幾分かお力になれると思って」
「私も……ですぞ」
ダンテマも続けて、
「私も法神官として、ルンよりも……それ以上に博識であると自負しているのだ。私の知識があれば。これから聖剣士リヴァイアさまのお力になれるんだと信じて、こうして2人はここへ参ったのですから」
「……」
レイスはそのまま、口を紡いでしまう。
しばらく頭の中で考える。
何を?
それは自分の最愛の姉、聖剣士リヴァイアの本当の――
「わ、……わたし! こうしちゃいられない」
いきなり椅子から立ち上がったレイスだ!
「そ……その、すみません。私、行かなきゃ……。では」
ペコリと頭を下げると、急ぎ部屋から出て行ってしまった。
*
「リヴァイア! リヴァイア!!」
大声で名前を連呼しながらレイスが廊下を走っている。
「リヴァイア!! ってば、返事してよ」
その大声を、
ガチャ
扉を開けたのはルンだった。
「レイス……なんだ夜更けにさ。大声で?」
「ル……ルンて。よかった!」
グイっと腕を掴んだ。
「ちょい! レイスって何自分から……」
「あんた、何勘違いしてんの……よ!」
ボコ!
っと、ボディーにボコスカと一発くらわしたレイスだ。
「……おい。痛いって。何事かって俺は聞いていたんだけれど」
「ルン! リヴァイアはどこ?」
両肩をゆすって彼に尋ねると、
「……さ、あ? 部屋にいるんじゃ」
「そ……そだね!」
グイっと!
「おい、レイスって……お前どんだけ今宵は積極的なんだ?」
「ちがーう! いいから付いてきんしゃい」
グイっと腕を引っ張りながら――
「リヴァイア! 返事してよ!!」
駆け付けたのはリヴァイアの部屋の前だった。
「どうしたの……レイスお姉ちゃん」
丁度のタイミングで、扉の前にはシルヴィーが立っていた。
「シルヴィー君。リヴァイアは部屋の中に?」
レイスはシルヴィーの目をガン見して、
「……お姉ちゃん?」
思わずシルヴィーが身体を反らした、けれど……
「リヴァイアだったら、ついさっき……夜風に当たりたいからって屋上のテラスに行ったけど」
「はい! ありがとうね。いい子なんだから」
と、
「にゃ!」
「ごほうびよ!」
レイスはシルヴィーのホッペに軽くキスをしてから、
(お前、どんだけ今宵は……)
思わずツッコみたかったルンだったが、もう一発お見舞いされるのが嫌だったので、そこは無言を貫いて難を逃れる。
「じゃ! あたし達急いでいるんで」
と、右手を挙げて挨拶!
そそくさと、オニオンの屋上へと走って、行ってしまった……
*
「リヴァイア! ここにいたのね!!」
テラスで1人、リヴァイアが柵に腕を乗せて、街中のランタンの明かりを見つめている。
「なんだ……? レイス、騒々しいぞ」
そこへ慌ただしく駆け寄ってきたのがレイス達で、
「……リ、ヴァ。はあはあ……」
息を切らしているレイスを、
「……どうしたんだ? そんなに呼吸を乱して……レイス?」
不思議そうに彼女の顔を見つめている。
「……リヴァイアって」
呼吸を整えてから、レイス――
「おい、レイスって」
「いいから、ルンは黙ってて!」
キッと横目で彼を牽制する……。
「お、お前が連れて来たんじゃないか……」
「いいから!」
……もう一発喰らいたくないから、ルンは沈黙することにした。
「レイス……」
「リヴァイア」
「リヴァイア! 私は……ルンもアリアもイレーヌも、みんなみんな、あなたに出逢えて良かったって、こんな素晴らしい冒険を飛空艇でできるなんて、仲間一同……本気で! 本気で思っているんだから!
」
……はあはあ。
と、息を切れ切れに、それでもレイスは自分の言いたいことを言い切る。
「……」
リヴァイアはというと、当然に沈黙――絶句を、しかし、
「……そうか。ありがとうな……レイスとルンよ」
気持ちを察してか、リヴァイアがそう感謝の気持ちをレイスに、ルンに見せた。
「だから、リヴァイア! 私達をもっと信じて……ほしいの」
えっ、いきなりそんなプロポーズなフレーズ入れるのか?
流石の聖剣士リヴァイアも、
「し、信じて……信じているぞ」
反動形成に返す言葉は決まっていた。
「だから、もっと私達を頼ってくれたら……その」
「その?」
すると、レイスは少し俯く。
「……その、私達リヴァイアのことを1000年を生きてきたあなたのことを、最愛の姉のことをよくは知らないんだけれど。それでも、私達は、ここにいるルンも」
「俺……か?」
いきなり自分の名前がでてきたものだから、慌てるルンだった。
「このルンも、私も……飛空艇でずっとやってきたんだから。だから、」
「だから……」
「んもー! だから……。あなた空飛んだらMP消費するんでしょ!」
「……MPの話か。まあ、消費するけれど」
頬に指を当てて、なんとか会話をこなすリヴァイアだ。
「だからその……、あなたのMPを私達の飛空艇に乗れば、それだけでもなんとか負担を軽減できるんじゃって」
「だからその……、レイスの飛空艇じゃなくて。俺のノーチラスセブンだぞ」
腕をグイグイとレイスの横っ腹に押し付けて、ルンお決まりの返しをする。
「もう! ルンのバカ!」
でも、タイミングを考えようね。
「こ、こら……レイス。お前は姫なのだからそんなはしたない言葉を使うんじゃ………… ククッ」
「リヴァイア?」
「……リヴァイア」
ハハハッ
リヴァイアが笑っている。
腹を抱えながら、それでも口にはださまいと堪えながら、
その姿をレイスとルンはキョトンと見つめていた。
ハハハッ
リヴァイアが、まだ笑っている。
「……あ、あ。これは失敬か?」
困惑する2人に気が付いて、リヴァイアが目頭に浮かんだ涙を指で拭きながら、
「お前達と、お前達といて我はな、」
「我は……?」
レイスが聞き返すと、
「我は飽きぬ! ……そういうことだな」
「そういうこと……って」
今度は、ルンが返す――
「ほら見ろ!」
そのキョトンとした2人のことを、お構いないなしに、リヴァイアが見つめる視線にランタンの明かりが見えている。
「……ああ、夜市のランタン。綺麗――」
思わずレイスも見とれてしまう。
「確かこの光って、リヴァイアサンへの信仰の証だったっけ?」
「そうだ……。街の人は沿海の漁業の時に、大津波で海に沈んだ仲間の魂を癒すために、毎日……毎日こうして夜になるとランタンを街中に灯す風習だ――古来から続いてきた」
「……そうなんだ」
「へえ~。そうすりゃカズースの温泉よりも偉大なんだな」
「ああ。でもな、我は……この光が本当は、今は嫌いなんだ」
リヴァイアがいきなり吐露する。
「……リヴァイア? どういうこと??」
レイスが尋ねる。
「我に毒気を与えた呪い……。その相手にどうして我が祈ろうか……そうは思わんか?」
リヴァイアが顔をレイスに向けてそう言った。
自分に生き続けなければならない呪いを受けた相手に、祈りたくなんかなかった。
それよりか、あの時リヴァクラー神殿で自分は大海獣への信仰を捨てたのだから――
「……リヴァイア? それって、宿に来るときに暗い顔をしていたことと」
同じだと思ったレイスだ。そう直感したのだった。
「やっぱりリヴァイア。あなたは――」
辛いんだよね?
その表情を察して――リヴァイアが、
「――だから我を助けたいと。協力したいと? だから……我と共に戦いたいと??」
リヴァイアの目は鋭かった――
「うん……そう思っている」
「そ、そう思っているんだ!」
ルンも話に入る。
「リヴァイア……。伝説の聖剣士さまが……その、どんなに苦境を生きてきたのかは、俺は正直分からないけれど、分からいないけれど……でも。俺だって飛空艇でサロニアムの大陸や大海峡や、まだ見たことがないんだけれど……中立都市の、なんだっけ?」
腕を組んで明後日の方向を見つめながら、なんとか思い出そうと――
「中立都市オードール砦灯台だぞ」
たまらずリヴァイアがフォローした。
「そ……そうだ。そのオードール砦灯台の内海を越えたところにある大陸の帝国――なんだっけ?」
「まったく……ルン」
リヴァイアが頭を触る。
「竜騎士の帝国ゴールドミッドルだぞ」
「そう、その帝国まで。俺は飛空艇で行ったことがあるんだからさ……」
「……ルンそれ、何が言いたいの」
「知らないのかレイス!」
「知らない」
はっきりと告げる。
「我から言おう……。ルンが言いたいことを」
まあ、自慢したいこと……だなってリヴァイアは思ったけれど。
「レイスが暮らしてきたアルテクロスはサロニアム大陸にあり、我の生まれた大陸はグルガガムであって、その二つの大陸と内海を挟んだ先にあるのが」
「竜騎士の帝国……」
「そうだ」
リヴァイアが頷いた。
「つまりな、ルンが言いたいことは内海を飛空艇で越えてゴールドミッドルまで辿り着くことができたんだぞ! と言いたいんだ。あの大陸へ飛空艇で辿り着くのはかなりの至難だ」
「そ、そういうことが、言いたかったんだ。俺は」
「ふ~ん……」
レイスはジト目でルンの顔をしばらく見つめて、
「……なんだ、レイス……姫」
思わず敬称を……つけて呼んでしまった……くらいの威圧感あるレイスの両目。
「……本当は、たいしたことないんじゃいの? ルンのことだから」
ボソッと、
「た……たいしたことないって。お前さ、本気で言ってるのか?」
「あんたの飛空艇自慢には、私が……どれだけ呆れ果てたことかしら?」
「あ……呆れ果て」
ルンはガクッと肩の力を落とした。
飛空艇なくしてルンの功績はあり得ない……くらいに、彼にとって飛空艇の自慢話に力を入れている。
「まあ……ルン。リヴァイアから話そう」
「リヴァイア……」
レイスはジト目を大きく開けて、キラキラと瞳孔を輝かせる。
「……レイスも、そう彼のことを揶揄するでない」
「……そんな気はないけれど、リヴァイア」
「まあいい……」
リヴァイアはルンとレイスのそれぞれの顔を見流してから、ふぅ~という具合に小さく息を吐く。
「……ゴールドミッドルの大陸には、大きく3つのルートがあるんだ」
リヴァイアがレイスに口角を上げて話し始めた――
続く
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