第43話 ほう~。これは聖剣士さま――

「……ねえ? リヴァイアがリヴァクラー神殿を守ったっていう話って?」

 レイスが顔を覗かせながら、

「もう……その話はいいじゃないか」

 リヴァイアが話を止めようとする。


「いいじゃん! リヴァイア!」

 もう一度、シルヴィーが袖を引っ張る。

「リヴァイアの武勇伝を、どうしてこのお姉ちゃんたちに教えなかったの?」

「……どうしてって」

 俯くリヴァイアは、そのままに少し顔を青ざめさせてしまう――


「そ~ですよ! リヴァイアさん」

 アリアがうんうんと話に入ってくる。

「私達にも教えてくださいよ……。リヴァイアさんの伝説を」

 勿論のこと、アリアはリヴァクラー神殿の破壊のことについて何も知らない。

「そうだぞ、リヴァイア! 俺達、もっとリヴァイアのことを知りたいしな」

 しばらく立ち止まって露店を眺めていたルンが、アリアの言葉を聞くなり、急々いそいそと駆け戻ってきた。

「リヴァイアあっての、この飛空艇仲間……。でもあるからな……」


「あ! ひど~い。ルンって」

 今度は、その言葉を聞くなり、レイスが反応する。

「この飛空艇のリーダーで、御姫様の私レイスがあっての……飛空艇仲間なんだからね♡」

 どんだけ自意識が過剰な御姫様なんだろうか?

 どこまでもリーダーであることにこだわり続ける理由を、どうか教えてはもらえないだろうか……。


「それに、もう私、免許皆伝なんだし~」

「ああ……レイス。そうだったな。でも俺だって――」

 と、ルンは腰に下げていたブラッドソードに触って、

「このブラッドソードは……、その、確かサロニアム王子の証……だったけ?」

 たどたどしい記憶を辿って、自分もなにかしら自慢げになってレイスと対抗する。

「あら、ルン……てば。もしかして、俺にはこの聖剣があるんだから……俺って強いんだからって思ってんじゃない?」


「……い、いけないか」

 キョトンとした表情を作るルンだった。


 アハハ!

 すると、レイスが腹を抱えて大笑い。

「ど……どうして……笑うん? そんなに……」

「だって、その聖剣って、あんた剣術もなんにも習っていないじゃない。それなのに何さ、強気になってんの……あははっ」


「あ、あはは……そーですよねぇ……」

 意気消沈――ルン。


「レイス姫も、そう揶揄らないでください……」

 傍から御姫様と王子との会話を見物していた……見かねたイレーヌが二人の間に立つ。

「ルンも……これからは聖剣士として、まあ初心者だけれど。それでも一人前に剣をこなせるようになろうと……思っているん……ですよね?」

 腕を組んで、うんうんと……自分で納得するイレーヌ。

 と同時に、横目で、

「ですよね……ルン……王子??」

 チラリとルンの顔色を伺った。

(これって、ある意味で要求……だよね?)


「い……イレーヌ! もしかして、俺のことを蔑んで?」

「……は、いない。……くくっ」

 そして、腹を抱えたのはイレーヌだった。

「……い、イレーヌって。上級メイド……ついでにスカート短めだったイレーヌ、何笑って――」

「なんかいないぞ。くくっ。……まあ、あたしはこの魔銃を友としてパートナーとして今まで生きてきたから、……そのルンに聖剣と共に生きる覚悟のような……くくっ、気構えというのは教えてやろう。それに、スカート短めは余計ですよ……ルン王子」


「笑ってるじゃんか! しかも2回とな!」


「まあ、ルン君もそんなにおこら……くくっ」

「いきなりかい! アリアってば」

 まだ何も言ってないのにも関わらず、アリアが腹を抱える。

「ア、 アリアって? どうして笑う」

 たまらずに、ルンが尋ねた。そしたら、

「だって、そりゃ~ルン君って飛空艇の操縦は一人前ですけれど……、でもその腰に下げている聖剣の扱いなんて未経験そのものじゃないですか?」

「み、未経験とな?」

「だって、ルン君。魔物一匹も、スライムもゴブリンも戦ったことないですよね~」

 ジト目を見せるアリア、心の中では一本取ったり――

「……はい。そうですね」

 シュンとする……ルン……レベル1の混血の聖剣ブラッドソード使いです。

 それを見つめてアリアが、また言わなくても……、

「ルン君って、飛空艇の操縦という特権……も、今では免許皆伝になったレイスさんにも扱えるんですから……。くくっ! 形無しですね~。……くくっ」


 どうして二回もククっと……、俺ってそんなに立場薄いか?

 と、至極当然に思うルンが思わず、

「……お、俺が始めた飛空艇仲間だぞ!!」

 プライドの意地? 否、維持とは、これここに露呈して――




       *




「ねえ~。リヴァイア……」

 シルヴィーがリヴァイアの袖を掴む。

「……いいじゃない。ボクも聞きたいって神殿での武勇伝をさ」

「……て、ていうか。シルヴィー……もう伝説として、記述されている昔ばなしなんだからさ、」

「だからさ……?」

 それでも幼き男の子、シルヴィーの目は純粋無垢にキラキラとしている。

 知りたがる気持ちは、厭らしさなんかじゃなくて、本当に聞きたかったからだ――


 しばらくぶりに再開できたのだから、無理もない。

 なんだか、嫁いでいった姉と実家で再会できた時のような爽快感?

 夜なべしてた甲斐があったって……という待ちに待ってきたという思いからも、シルヴィーがワクワクしている。


 ずっと、北海の砂浜で待っていたもんね――


「それでもう、いいじゃないか。……なんていうか」

 リヴァイアが頬を指で触った。

「なんていうか? ……って??」

 シルヴィーが見上げる。

 純粋無垢な目をキラキラと……


「な……」


 その顔をしばらく見つめてから――

「なんていうか……昔話なんて、昔話として……その、語られ続けることが綺麗だしな」

「綺麗って……? だしなって……??」

 シルヴィー、ずっと見上げたままキラキラと。

 やめてくれ……シルヴィーよ。

 聞かせてやる程の美談なんかじゃ……ないんだから。



「……リヴァイア」

 顔を引きつらせ青ざめつつあるリヴァイアの表情を察して、レイスが感付いた。

「……な、なんだ、レイスよ」

 シルヴィーとは反対側に、隣に並列して歩くレイスの方を見る。

「……リヴァイア。もしかして……言いたくないの?」

 大胆にも、レイスは直球で尋ねてきた。

「これ……レイス! こ……子供の前で」

 その言葉を、リヴァイアがレイスの口を手で覆ってから、

「……」

 でも無言に――


 言いたくない……んじゃなくって――


「……リヴァイアさん?」

 後ろから、アリアが声を掛けてきた。

「私、魔法都市アムルルの図書館で聖剣士リヴァイア……さんの伝記を読んだことがあって、」

「そ、そうか……」

「リヴァイアさんの、リヴァクラー神殿のエピソードも、その……実は読みました」


「読んだのか? なんで??」


「はい? 読んじゃ……」

「い、いや! 図書館の書物は……その、みんなのもの……だからな」

 浮気現場の決定的瞬間を抑えられた……かのような、リヴァイアの蒼白した表情がカチコチに固まる。

 そんなことは気にも掛けない天然アリアは、自分の両手を胸前に握りってから、

「確か……うる覚えですけれど。オメガオーディンとリヴァイアサンが戦っている北海の海で、多くの近隣諸国の人々が被災してしまって、みんな逃避行を続けていて」

「と、逃避行か……」


 それは、我のことだな――


 と、は……リヴァイアの口からは言えない。

 伝説はどこまでも綺麗で、優美でいて……


 それでいて、ハッピーエンドであるべきだ!?


「……」

「リヴァイア?」

 シルヴィーがリヴァイアの顔を下から覗き見上げる。

「……な、なんでもないぞ」

 そう言うと、彼の頭に優しく手を乗せた。


「……リヴァイア?」

 再びレイスが話し掛けてきた。

「な、んだ。レイス」

「リヴァイア……、辛いの?」

「つらい……?」

「そう見えるか? レイス」

「そ、そりゃ……」


 そうか――

 そう見えるか。


 でもな、レイスよ。

 お前も姫として、究極魔法のトリガーとしての運命を生きていくんだから――

 その運命は、アルテクロスのスラムでは比較にならない程に、これから過酷なのだぞ――


 リヴァイアがレイスの頬に手を当てる。

「レイスよ――」

「……リヴァイア?」

 急に、当てられた手に、自分の両手を重ねるレイス。

「……本当は、言いたくないんでしょ」



 その通りだぞ――



「おいって! 言いたくなかったら……言わなくてもいいんだからな! リヴァイア」

 ルンが前に迫り出してから、リヴァイアとレイスの真ん前に立った。

「……ルン」

 その反動で思わず、再び顔を下げてしまったリヴァイア。

「……リヴァイア。伝説の女剣士は1000年を生きてきて、そりゃ俺達よりずっと……ず~っと辛い出来事を経験してきたんだよな?」



 そうじゃないんだ――



「そ! そうですよ……リヴァイアさん!」

 アリアが話に入る。

「だって1000年も生きてきたんですから、そりゃ艱難辛苦の1つ2つなんて……、ザラにあることは当たり前ですし」

 数百あると思うけれど――

「だから、その中の1つがリヴァクラー神殿の出来事であったなら、リヴァイアさんは仰らないでいいんですよ。だって、だって……言いたくないのですから」


「リヴァイア……そうなの」

 シルヴィーが袖を掴む手に、力に加える。



 そうじゃないんだ――


 言えないんだ。


 あの、リヴァクラー神殿が破壊された原因は、



 我が、リヴァイアサンへの信仰を捨てた結果からなんだ……



「わかって……くれ……ないか」

「わかって……? リヴァイア」

 レイスも反対側の袖を掴みながら聞く。

「……」

 リヴァイアは……何も言えなかった。

 自責といえばいいのか?

 それとも、無念と言えばいいのか?


 誰も……、好き好んでこの呪いを背負っているわけではないのに。

 あの時、リヴァイアサンと北海の神殿で対峙して、決別して、その結果――として証拠として神殿は破壊されてしまった。



 ……のだから。



「……もう、私は嫌だ」

 それは、聖剣士リヴァイアの……ではなくて、修道士見習いの頃に近いリヴァイア・レ・クリスタリアからの本音だった。


「……リヴァイア?」

「……リヴァイア?」

 両隣にいるレイスとシルヴィーが、


「……」

 リヴァイアは俯いたままで――




       *




「ほう~。これは聖剣士さま」

 木組みの街角から姿を見せたのは、黒いフードを被った男性だ――

「……誰だ?」

 ルンが殺気立つ。何か嫌な予感がするからだ。

「……リヴァイア?」

 たまらず、シルヴィーも――

「シルヴィー! 私の後ろに隠れておきなさい」

 と、シルヴィーの腕を引っ張って、半ば強引に自分の後ろに身体を回した。


「……木組みの街カズースの出身者であるリヴァイアさまも、まだこの街人に好かれているご様子で」

 フード姿の男性は、なんだかリヴァイアを揶揄うように話し続けてくる。


「あ、あなた何が言いたいの?」

 レイスはその男にとげを隠さない。


「……」

 それを見たフードの男性は、

「これは、……ここにいらしたのですね? アルテクロスの御姫様――」

「……え?」

 一瞬、驚きを隠せなかったレイス。

「な、なんでそれを知っているの……」

 レイスが眉間にしわを寄せて、その男を怪訝する。


「知っていますとも……有名な御姫様であり、世界を救う究極魔法の使い手ですから」

「きゅ……、それも知って」

 レイスが警戒感を一層強める。

 この男は、なんだか異様な気配だ。


 どうして……自分達の素性を……何故に知っているのか?


 すると、

「これ、レイスよ……。少しは口を慎め!」

 リヴァイアが彼女の口へと手を当ててから、

「街の者がアルテクロスの姫だと知ったらどうなる……。大騒ぎだぞ!」

「お、さわぎ……そりゃ……私はお姫様」

「まあ、おてんば姫だけれどな」

 頭を抱えてルンがボソった。


「ルン……あなたはサロニアムの王子ですからね」

 すかさず、元上級メイドのイレーヌが釘を刺す。

 と同時に、背に隠している魔銃を握る手に集中して――万が一の事態に備えて。


「ひっど~い! ってルン」

 レイスのその甲高い声に、まあ全員が一変させられてしまう……。


「……おてんば姫、事実じゃないか」

 ルンは真顔で言い放った。

「そうですよ……レイスさん。ここはグルガガムの大陸なんですからね。アルテクロスの流儀は通りませんから」

 再び、アリアが声を挟んでくる。

「魔法都市アムルルも、ここカズースもグルガガムの属地なんです~。郷に入ればなんちゃらって言いますから! 覚えておいてくださいね。レイスさんはね、ここでは“外様“なんですから……」

「……そりゃ、知ってるけれど?」

 目をぱちくりしてレイスが、えっへんに言い放ってくるアリアの説明に……それに反論することもなく。


「それがな……レイス」

 腕をすくんで、たまらずイレーヌが口を挟んだ――

「いいか、レイス。グルガガムとサロニアムは敵対している――今はもう休戦しているけれどな。それでもいざかいはつきものだ」

「あ、そうか。私達ってこの街では……、その……お尋ね者?」


「そうなるな……」

 リヴァイアが端的に返事した。


「――まったく。ルンの御一行、飛空艇仲間よ。お前達は騒がしくしていなければ生きていかれないのか」

 フードの男性がやれやれという感じで肩をすくめ、投げやりに呟いてきた。

「このままでは、敵国の地でお前達はアルテクロスの時同様にお首者だぞ……」

 やれやれと……肩をすくませてフードの男性が嘆く。

「おくび……もの」

 ルンはその意味が分からなかった。


「忘れたのか? アルテクロスの電波塔の一件を――」

 その一件とは、飛空艇で電波塔をぶっ壊したそれである。

「……ど、」

 ルンが焦る。

「今、どうしてそれをお前が知っているって……言いたかったのだろう」

「そ……うだけれど」


「これ、もういいじゃないか。冗談を止めよ」

 一歩前にせり出すリヴァイアが、

「来ると思っていた……。法神官ダンテマよ」



「ほ……? 法神官ダンテマ」



 ちなみに泣く子も黙るという冠もある。

「法神官ダンテマ……」

 ルンが……その名を呟いた。

「これ、ダンテマ……」

 すると、隣にフッと……そそくさに歩いてきた女性がいる。

「茶番な……こんな冗談は止めなさい。聖剣士リヴァイアの御前ではしたないですよ……」


「御意……」


 刹那……法神官ダンテマが片膝を着いて、その女性に頭を下げた。


「……か」

 レイスが――

「お久しいですね――我が娘レイス」

「か……母様!!」

 というなり、レイスは一心不乱になってその女性に――

「母様! クリスタ王女さま!」

 クリスタ王女へと駆け寄るなり、思いっきり抱き着いた。


「……ふふっ。元気していましたか? 息災でしたか?」

「どうして……どうして……母様がカズースに??」

 レイスが母様と呼んている人物は、当然のことアルテクロスの第14代クリスタ王女である。

 つまり、レイスの産みの母親が目の前にいる。

「……さあ、それはねぇ~もう積もる話もありまして」

「母様……か……母様!」

 ずっと、レイスは抱き着いたままで――


「レイス姫……。あの、ダンテマには何も無しで?」

 ダンテマが2人の愛情劇になんだか嫉妬――

「あったりまえだ! なんでお前になんか」

 そこへ、すかさず……ここぞとばかりにツッコむルンだった。


「そういうな、ルン」

 イレーヌがルンの後ろから落ち着いた口調で言う――

「ルン……。実は、あたしが呼んだんだ」

「イレーヌが? ……ああ、そういえばダンテマのニンジャだったっけ?」

 ふと思い出す。

「そうだ……」


「まあ、積もる話も今は……」

 最後に、リヴァイアがこの感動的な再開シーンに言付けを。

「ここにいる者は、ほとんどサロニアム出身で、この街では敵なんだから……だから穏便になろうな」

 やれやれ……という表情も、いつの間にか真顔へ変わっていた。でも、疲れ切っているその表情を隠さないリヴァイア。

 聖剣士リヴァイアも――気苦労がいまだにも続いていて……。

「シルヴィーよ」

「なに? リヴァイア?」

 話題を変えようと、リヴァイアが隣にいるシルヴィーを見る。

「我の……、常宿は健在か?」

「うん! シルヴィーのね……今は住み家なんだよ。あの常宿」

「名前を……」


「もう忘れたの? リヴァイア」

「ああ、すまんな……しばらくぶりだから……」

「……ほら、『オニオン』だよ」

「ああ、そうだったっけ? 今、思い出したぞ――我もだな……、忘れっぽくなってしまい」


 リヴァイアが彼の頭を静かに撫でる――

 すると――



 さっきまで快晴だった木組みの街カズースに――

「ああ、雪か。そうか……やはりか」

「まあ……雪国だからね。リヴァイア」

「知っている。我もここで生まれ育ったんだから……」


 ひとつぶ、ふたつぶと……、雪が舞い降りてくる。


「これは積もるな」

「うん! 積もる雪だね……」

「……そうだな」


「リヴァイア……あの」

 レイスが、

「……どうした? レイスよ」

「その……。ううん……なんでもないから」

 それ以上は、どうしてか聞き出せなかった。

 本当は『大丈夫なの?』って、声を掛けたかったのだけれど。

 


 私の知らないリヴァイアが目の前にいる――


 違うか――



 もともと知っていなかった聖剣士リヴァイア――なのだから。

 私なんて、足元にも――

「今、……レイスよ。私の知らないリヴァイアだって思っただろ?」

 リヴァイアが、今度はレイスの心痛を想像して言い放った。

「へ? い、いんや!」

 思わず赤面するレイスの表情は、あからさまにバレバレだった。

「私は……リヴァイアのことを」

「それ以上言うな……。お前は御姫様なんだから、ここでは敵国の姫だぞ」


「……はい」

 いまだ、自分の立場とか位置に馴染めないでいるレイス――無理もないのだけれど。

 さすがに敵国での失態は、その先に開戦がチラついてしまう。


「ダンテマ……それにクリスタよ、案内しよう」

「うん! ボクの住み家のオニオンだよね」

「そうだな……」

 すりすりとリヴァイアに身体を寄せてくるシルヴィーに、その頭を優しく撫でる。


「……そうですね……積もる話もありますし」

 クリスタ王女は、聖剣士の言葉に従った。

「御意に……ルンも同意するな」

「ダンテマ……また俺立ちに」

「立ちはだかるって……か?」


 ハハハッ


 よく笑るは、ダンテマである。


「レイス……」

 クリスタ王女がレイスの傍に来る。

「……母様」

「レイスも知りたいでしょう……。どうして、私達がここに来たのかを――」

「……は、はい」

 その言葉を聞くと、レイスは正直に頷いた。


「まあ、ダンテマもクリスタも……。その話は宿に行ってからにしよう」

 リヴァイアが、シルヴィーの手を取りながらも皆を先導しようと――

「ところで、シルヴィーよ。宿の温泉は今でも」

「うん! だってメインが温泉だもの」


「そうですよね~ カズースって温泉の名所なんですから」

 あ~よかった! 

 アリアの本音は天然温泉ものだということが、よ~く分かるセリフだった。

「ああ……そうだな。雪深い北国と温泉……。いい愛称だ」

 ルンもアリアの言葉に続く。


「そ、そうだな……温泉だな。このカズースは……」

「あれれ? 聖剣士リヴァイア――さまは温泉がお嫌いで」

 クリスタ王女が、リヴァイアの返答に疑問を感じた。

「……いや、どうとも思ってはいないぞ。……我はな」

 なぜなら、生まれた時から夜な夜なの湯は温泉だったから、

 もう入り飽きたというのが自然だ。

「ま、まあ。ゆっくり浸かるがいいぞ」


「レイス……一緒に入りましょうか」

「はい……母様」

「ルンよ。俺と一緒に」

「嫌だ。嫌だ……」

 ルンがダンテマにそっぽを向く――



「ま……まあ、カズースの本当の名所は温泉ではなくって、『木組みの夜市』なんだけれど……な」



 木組みの夜市? みんな初耳だった――


「そうなの? リヴァイアって――」

「ああ。……まあ、その話はオニオンでゆっくりと休んでから話そうぞ。夜市の明かりは雪に照らされたランタンの明かりが、それは……それは綺麗に……だ。まあ、その話は……なあ」

 リヴァイアは、思わず夜市というキーワードを口に出してしまった。

 別に隠すつもりはないけれど、ここカズースで生を授かった者として、これは軽々しく言ってはいけないと――後で思ってしまう。


 別に隠すつもりは……ないのだけれど……



 気持ちの整理が……まだ1000年経ってもという気持ちがあって――



 木組みの街カズースに次第に雪が積もってくる。

「これは、やはり積もるか?」

 リヴァイアが見上げる。


 見上げて――


「我は、どうしたらいいものか……」

「……リヴァイア?」

 レイスが歩み来る。

 それに気が付くリヴァイアは、

「大丈夫だ……。レイスよ」

「そんな……。その、大丈夫な様子じゃ」

「そんなことはないんだから……」

 優しいリヴァイアの両手が、レイスの頬へ触る。



「それでも、聖剣士リヴァイア――は大丈夫なんだと……」



 言うしかないんだ――



 雪が本降りに……へと、

「やはり積もるな……。これは、どうやら木組みの街カズースらしい夜になるな……」




 レイス

 ルン

 アリア

 イレーヌ


 聖剣士リヴァイア


 法神官ダンテマ

 クリスタ王女




 役者がそろう――





 続く


 この物語はフィクションです。

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