第6話 第一章 完 マコトと飛鳥

マコトは振り返ったときのあの悲しげな影が気になって仕方がなかった。傷つけるつもりなんて彼にはなかった。ただ、会うのをよそうと思っていた。

 あの事件以来、自分でも何をしていいのかわからなくなっていた。

 その時だった。メールの着信音が鳴った。相手は案の定、飛鳥だった。

「ごめん」

 もう一度メールが来た。

「俺、なんかしたか?覚えがねぇんだ。言ってくれよ」

 マコトは焦った。さっきのは全く飛鳥に否はないのに謝られてしまった。ただの自分の身勝手だったのに・・・

 マコトはいてもたってもいられなくなり、いつもの場所へと駆け出していた。


駆けつけた喫煙所で彼はいつものように煙草を吸っていた。マコトに気がつくとゆっくりと体制をかえた。

マコトは勢いよく頭をさげた。

「すみません、全部俺の問題でして・・・」

「どんなだ?」

 マコトがゆっくり顔を上げるとしかたないといった感じで微笑んだ飛鳥がマコトを見下ろしていた。その顔はマコトの一番好きな顔だった。

 マコトは意を決して本音を話すことにした。

「僕が禁煙したのはあなたの顔を見たくなかったからです」

「・・・おまえ、そこまで俺が嫌いか?」

「そうじゃなくて・・・逆です。好きです。」

 飛鳥の手から煙草がはらりと落ちた。

「この前は弾みであんなことしちゃったけど、あの時自分の気持ちに気付いたんです。僕はあなたが好きです。ずっと前から好きでした。紛れもなく恋愛感情で。あなたに自分の気持ちを言うのが怖くて、でも一緒にいると言ってしまいそうで・・・だから禁煙しました。僕のことをどう思おうとかまいません。でも、僕があなたを好きなのは変わらない事実なんです。だから・・・」

「待て!」

飛鳥は言われたことを把握し切れずにとりあえずマコトから目をそらした。

 しばらくして飛鳥は口を開いた。

「本気か?」

「はい・・・」

「・・・」

 二人の間になんともいえない空気が漂った。

マコトはたまらなくなって外に飛び出そうとしたが、外はあいにくの大雨。とても傘なしで歩けそうになかった。

「・・・おい」

「なんですか?」

 振り返ると飛鳥が一本の花柄の傘を手に持ってさし出していた。

「飛鳥さんのですか」

「なわけあるか、そこに落ちてたんだよ。コレで帰れ。」

 そういって傘を無理やり渡しそっぽを向いた。

 マコトはその傘をじっと見た後ため息をついた。

「もういいや」

「は?」

 わけのわからないといった顔の飛鳥の腕をマコトはがっとつかんで立ち上がらせた。

 マコトは腹をくくっていた。気持ちをすべて吐露したことにより頭はすっきりとして何の恥じらいもなくなっていた。

「何すんだてめぇ!!」

「一緒に帰りましょう、ここは寒くなりますよ。それに・・・」

 マコトはにやりと笑った。

「飛鳥さんとひとつの傘で帰るのもいいかなと思いまして」

 その一言に一瞬間を空いた。そして

「ふ、ふざけんな!!誰がてめえなんかと!!」

「嫌ですか?」

 既に顔は真っ赤になった飛鳥の手をマコトは離さなかった。

「僕はあなたと一緒にいたいんですよ」

 マコトのにやけた顔と押しにとうとう観念したのか飛鳥は抵抗しなくなった。

「しっかたねえな!!駅までだぞ!」

「ありがとうございます」

 マコトはつかむのを腕から手へと移動させて優しく握り締めた。飛鳥は下のほうを向いたまま顔を合わせようとしない。どうやら顔を見られたくないようだ。

「か・・・」

 かわいいと言ってしまいそうになったのをあわててとめた。確実に走り去るだろう。

 そう、マコトが禁煙したのもこんな理由。

 

赤くなった顔は見られたくなかったから

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