STAGE:4 勇士逆転
第38話 類は友を呼ぶ
「お前、まさかその勢いのまま飛び出すつもりじゃねえよな。
こんな開けたステージってだけで、こっちは不利なんだ……ろくに作戦も決めないまま挑んでも、案の定、リッカの思惑通りに負けるだけだぜ?」
「だったらどうする。こんな開けた場所だからこそ、策なんてあるのかよ」
「なきゃ止めねえよ」
うずうずしていた足を止め、おれはシンドウが立つ方へ振り向く。
「というか、二人はなんでおれを手伝ってくれるんだ?」
言ってしまえば、これはおれとリッカの問題であって
(言い出したらシアナとミーナも無関係ということになる)、
シンドウとゴウがおれに加勢する必要はない。
シンドウとゴウは、パートナーの二人に同行してほしくないとは言われていないわけだし……そもそも、二人はパートナーの女の子のことを、どう思っているんだ?
リッカが前衛で戦うべきじゃない、と思っているわけではなさそうだ。
たとえ頑丈な体に、さらに鎧をつけて無傷なのだとしても、女の子が戦場に立つことを許せない――そう主張しているのはおれだけで、シンドウとゴウは、ほぼ認めているようにも見える。
女性の後ろで戦うことを、二人はこれまでに否定的な意見を出したことはなかった。
たとえパートナーであろうと、女性は道具なのだと、そう思っているのだとしたら。
おれにとっては、二人は仲間ではあっても、同志ではない。
「お前らにとってシアナとミーナは、なんなんだよ」
「他と大差ねえよ。道具、とまでは言わねえがな。
まあ、オレらよりも勝算が高い実力があるなら、頼ってもいいだろ、とは思ってる」
「同意見だね。道具扱いはムッとするが、それが世間において浸透したミーナたちをくくるパッケージ化しているのであれば、乗っておいた方が社会に溶け込めるだろうね」
他とは違うと思っていたが……同じか。
程度の差はあれ、シンドウもゴウも、女性が戦うのが当たり前なのだと思っている。
「それがあいつにとって最も生きやすい世界なのだとしたら、先人たちが敷いたレールに乗せておくのが一番確実だろ。
オレのわがままで変な方向へ進ませて失敗させちまったらよ、そこから引っ張り上げて正しい道に誘導する自信が、オレにはねえ」
確かに……収集者になれば、確実に人並みの幸せを得られる仕事ではある。
シアナの回復力には需要があるから、仮にシンドウがいなくなっても、シアナに舞い込む仕事はなくならないだろう。
「引っ張り出した分、オレにはあいつを、一人前にする義務がある。
道具、とは言ったが利用だけして人間として見ないクズ野郎と一緒にするなよ。
道具は道具でも、あいつにはどこに出しても通用する、たとえ一人でも生きていける道具になってくれなきゃな。じゃねえと、いつまで経っても、オレはあいつの傍を離れられねえ」
つまり、最高の道具に育て上げることが、シンドウがシアナといる理由であり――、
「僕の場合は逆、かな。ミーナは道具として完成されてる。
僕の実力がミーナに追いついていないんだ……だから、僕が万能にならないと、ミーナとは釣り合わない……」
道具としてミーナをリスペクトしているからこそ、メンテナンスは欠かさない。
「人も道具も一緒だよ。使い倒せば壊れる。
そうならないためにきちんとメンテナンスをしなければならない。
使い捨てて、それ以降、一切見向きもしないクズな大人と一緒にされたら困るな……。
力を持っている者が前に出て戦ってくれているからこそ、サポートは力のない僕たちがするべきことだろう?」
パートナーが戦うこと自体は許容しているが、それを当然だとは思っていない。
二人の認識は、世間に寄ってはいるが、迎合はしていない。
「……でも、おれを手伝う理由にはなってないだろ……」
「お前と一緒だよ。心の底では同意見だ。
……だが、現実を考えると難しいんだよ。
どうしたって瞬間的じゃなく、長期的に考えちまう。癖だ、悪癖じゃねえけどな。
将来のことを考えれば、自分がいなくなった時のことを考えればよ……、
世間に乗るのが無難だ」
「マサトのやり方は間違ってはいないけどね、実現は難しいし、結果的に救いたかった相手を不幸にさせてしまう可能性が残る。
そんな危ない橋はとてもじゃないが渡れない……いや、たとえ渡れたのだとしても、救いたい人を絶対に救うという覚悟がなかったんだ」
その言い方だと、現在進行形でおれのやり方はハイリスクのままなのか……?
リッカを救うどころか不幸にしかねないと……?
言われると、自分の足場にみしみしと亀裂が入っていくように、自信が柔らかくなっていくのを感じる。
「まあ、お前にとっちゃあ、ハイリターンだろうが。
だったらハイリスクも受け入れられるだろ。
それに、覚悟なんて大層なもん、お前の中にはないだろ。お前にとっちゃあ、こうすることが常識だったってだけだろ。
疑問に思うなよ、オレたちが考え過ぎてるだけかもしれねえんだからな」
「それこそが、マサトの自覚ない度胸なんだろうね――」
だから、だ。
『その度胸に乗らせてもらう。手伝う理由としては不満か?』
理由をつけて、言い訳をして、だけどシンドウもゴウも、おれと同じだった。
自分が前衛に出て、戦えたら……それが一番、良いに決まっている。
でも、機会がなかった。常識を反転させるその機会をおれが作ったからこそ、
このタイミングで、おれに手を貸した。
……ああ、納得だよ。
だったら遠慮なく、乗ってこい。
ただし、お前らの力を存分に利用させてもらうぞ。
「やってみろ、文句はねえよ、お互い様なんだからよ」
「僕たち三人の間に、遠慮なんか元よりないんだからさ」
「そうだったな。じゃあ策は? 囮、裏切り、結果良ければ全て良しだ!」
「……こういう時、耳が良いのは損な気がする……」
「リッカも、全部、聞こえてた……?」
「この距離ならみんなに聞こえると思うよ……男の子には無理だろうけど」
「……ゴウだけじゃなくて、やっぱりみんな、優しかった……」
「マサトだけじゃなかったね。だからこそ、こうしてわたしたちが集まったのかも――」
「シンドウめ……っ、じゃあ、私と別れるつもりだったってこと……!?」
「ちょっと、シアナ……?」
「私に無茶でも色々やらせてたのは、私が自立するため……? シンドウが私のそばから離れていくための準備だったって……? っ、なによ、それ……なんでなのッ!?」
「シアナ!? 別に、シンドウはシアナのことが嫌いでそうしたわけじゃ――」
「むかぁっ、つくう! こっちの気も知らないで勝手に決めつけて!!
私はずっとシンドウと一緒にいる気でっ、隣に立ってるのにッ!!」
「……釣り合わないなんて、関係ない……。ゴウ以外の人と組むつもりは、ない、よ」
「やめて二人とも! こっちが恥ずかしくなるようなセリフを言わないで!!
マサトたちと顔を合わせられなくなるでしょお!?」
「――観客席にいる女の人には聞こえてるんだから、こんなの……っ、こんなの公開痴話喧嘩になっちゃってるじゃないのよもうっっ!?」
「……ということは、リッカ様も、マサト様のことを……? ふふ、なんだか……見ているだけでわくわくしてくる展開ですね……思わず、ニヤニヤしてしまいます……」
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