第37話 計画通り
ステージ上、正面には二人の少女と一人の青年。
体に合わないごつごつした大きな鎧を身に着ける、黒髪を左右で結んだリッカ。
頭以外を真っ白な修道服で包んだ、肩で切り揃えられた白髪のシアナ。
シアナとは正反対に、全身を黒衣で染めた、金髪を片手でかきあげるシンドウ。
「……こうして見ると統一感もないし、ゲテモノを揃えたってパーティだな……」
「僕らのパーティでキャラが濃いメンバーが向こうにいるからね……」
見た目で言えば、おれとゴウは普通の格好だろう。
一般的な収集者と言える。
市販されている装備一式を、そのまま当てはめただけの格好だからだ。
強いて言えば水着とパレオという格好のミーナが多少目立つくらいだが……修道服と黒衣、ぶかぶかの鎧と比べるとマシに見える。
ミーナにいたっては服がはじけてしまうため必然的な格好なのだ。
あまりそこを指摘しても可哀そうだ。
「……ふぅ」
一息吐いてから。
……やっと、だ。
ここまできた。
リッカを守れず、唯一王子に奪われてから――、
こうしてあと一歩で手が届くところまで辿り着いた。
まあ、連れてきてくれたのはミーナだが……。
確かに、おれ一人では一回戦も準決勝も勝てなかっただろう。
意地を張って一人で戦っていれば、この場には立てていなかった。
そして、ミーナもまた、一人で問題の全てを解決できるわけじゃない。
適材適所だ。おれたちにできないことを、ミーナが。
ミーナが苦手な部分を、おれたちが。助け合いのために、パーティがある。
相手が盾のリッカだろうが、回復のシアナだろうと、策略のシンドウだとしても、勝機がゼロなわけじゃない。
ミーナだけだと厳しいだろう。
だけどおれとゴウなら、シンドウの頭の中を予測することが可能だ。
瞬発的な対処をミーナに任せれば、じっくり考えた上で処理をするのはおれたちの役目。
リッカを足止めし、シアナの集中力を削ぎ、シンドウの行動を阻止すれば、誰一人欠けてはいけないが、これが達成できればおれたちは勝てる……っ!
当然、リッカたちは手加減をしないだろう……、
そういう風に唯一王子から言われているはずだ。
シンドウは金かもしれないが、シアナとリッカに関しては弱み、かもしれない。
ゲス王子から救い出すチャンスは今しかない……っ、だから、負けられない……!
「リッカ、いま助けるからな」
「…………相変わらず、思い込みが強いなあ……」
リッカが照れたように笑う。
言葉の強さに似合わず、表情は砕けていた。
「思い込みの強さも、並外れた行動力の源がわたしだって知れば、そりゃあね」
「……でも……、その言い方だと含みがあるように聞こえるんだけどさ」
「そう言ってるの」
リッカが目を細め、
「結局、マサトは自分のことばかりでこっちの気持ちも理由も知ろうとしないじゃん」
「そんなことは……」
ある、な。
ついさっき言われたばかりのことだった。
守られるだけの身にもなれ、と。
おれはそれが嫌で、リッカの隣にいるのだ。
……逆も然りで、ただ守れるだけの存在に、リッカもなりたいわけがない。
「わたしたちがどうして戦っているのか、知ろうともしてないでしょ。
王子から弱みを握られて、無理やり戦わされてる、とか思ってそうなんだよね……」
「違うのか?」
「ほらっ、やっぱり!!」
ガシャン、と金属同士がぶつかる音。
リッカが思わず、一歩、前に出たのだ。
「わたしたちは自分の意思で戦ってるの! 王子のやり方に賛成してここに立ってる!
弱みを握られたわけでもお金で雇われたわけじゃなくてっ、こっちについた方が証明できると思ったからっ!」
「証明……?」
「わたしとマサトの関係性だよ。……姫様からなにも聞いてないの? ……まあ、そうだよね……だって言ったら、マサトはこっちの手伝いをするもんね」
ゴウも同じことを言っていたな……明かせば、おれが唯一姫から離れる事情……。
唯一姫はなにかを隠してる。
王子から武器を取り上げたい、わけじゃなくて、目的は別にあるということか?
「武器を取り上げたいことに変わりはないだろうね。ただ、その理由だと思うよ」
ゴウは知っているかのように。
「武器を持った王子がなにをしでかすのか分からないから――じゃないのかよ」
「なにをするか分かっているから、姫様は阻止したいんだろう……リッカと同じで」
リッカと同じで、だって?
……もしも、おれが武器を得たら、どうする?
そんなの当たり前に、リッカに負担をかけないように一緒に戦うに決まっている。
頑丈さ、攻撃力、戦闘センスが劣っているおれの不足分をカバーして余りある武器があれば、リッカの横以上に、前に出て、彼女に手を出させないことも可能だろう。
実際に力があれば口先だけじゃなく、大切な彼女をちゃんと守ることができるだろう。
となると、だ。
「…………唯一姫を……いや、姉を、戦わせたくなくて……?」
唯一姫だって戦うことがある。
収集者として魔界にいく機会は少ないだろうが、仮に人間国に魔物や魔族が入ってきた場合、王族が対処するのが通例だ。
今の女王も、
若い頃は最前線で戦っていたらしいし、唯一姫が駆り出されるのは自然の流れだ。
王子は、それを嫌悪をした。
弟からすれば、姉に守られるのはがまんならなかったのだろう。
幼馴染に守られているおれと同じで。
おれは無理やりリッカに同行することで彼女の負担を減らそうとした。
だけど王子は堅実に、確実に、武器を得ることで姉の負担を減らそうとした。
……金と人脈にものを言わせた王族らしいやり方ではあるが、それでも実現させるには一番の近道だろう。
おれが一人で集めようとすれば十年以上はかかる金額が注ぎ込まれているはずだ。
アイテム次第でおれたちは女性の横に並ぶことができる。
使い方次第で彼女たちの前に出ることも可能だ。
あいつは……王子は、それに気づいて行動に移したのだ。
武器を揃え、さあこれで姉を守れると思ったところで――守りたい相手から武器を取り上げられそうになっている……。
そりゃ、どんな手を使ってでも、阻止しようとするだろう。
最強の盾と呼ばれるリッカを取り込んででも。
王子の動機は、分かったけど……でも!
「リッカは賛成なのか……? いつも、おれのやり方は否定するくせに!」
「マサトのはただの無茶。でも王子のやり方は正解だと思うよ」
リッカは、守られること自体を否定したいわけじゃないようだ。
「マサトが怪我をしてまで、わたしを守ろうとしてほしくないの」
「それは、でも……一緒に戦っている時点で少なからず怪我はするだろ!」
「それがゼロじゃないと、心配で仕方ないの!
それに、王子のやり方に全面的な賛成でもないよ。協力しているのは利害の一致。
……もしかしたら、今日で決着をつけられると思ったから――」
「マサト、証明してみせてよ。わたしたちを守れるくらいの力……じゃなくて、創意工夫で、わたしたちを、倒してみせて!
安心させて! じゃないと、危なっかしくて見てられないんだから!
わたしたちだって、自分たちよりも弱い人に『守ってやる』なんて言われたくない!
格好つけるなら、わたしたち以上の強さを証明してみせてっっ!!」
「だからまあ、つまり、最初からこうする予定だったんだよな」
シンドウが向き合った位置から歩き出し、おれたちが立つ自陣へ踏み込んでくる。
「……やっぱり、そうなるんだね。……分かった。ミーナ、いきなよ」
ゴウが言うと、頷いたミーナが歩き出す。
そして、シンドウとミーナが入れ替わり、
おれ、シンドウ、ゴウ。
リッカ、シアナ、ミーナが、向き合う形になる。
「女がいない中、オレらだけでこの試合に勝つことができるのか――」
「闘技大会特有の細かいルールは全部無視した、
なんでもありの魔界……その戦場と同じルールで、だよね」
「……この戦力差で証明してみせろ、って……?」
おれの呟きに、リッカが頷いた。
「わたしたちに勝てなかったら、マサトは今後一切、魔界に同行しないでね」
「でも逆に言えば、勝てば認めるってことだろ」
「勝てれば、ね」
リッカの不敵な笑みが狙い通りと言わんばかりに輝いていた。
……この条件を突きつけるために。
あいつは、王子に協力していたって言うのかよ……っ。
証明。
そして決着、か。
……いいだろう。
「お前を一生守るために、ここで命を張ってやる。手加減はいらねえよ、殺す気でこい。
じゃないと証明にならないからな。……待ってろよ、死ぬ気で掴み取ってやるからな!」
「じゃ、じゃあ、いくよ! いくからねっ、マサトッ!!」
なぜか、顔を真っ赤にしたリッカが、邪念を振り払うように叫んだ。
「……あんなの、もうプロポーズですよね……?」
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