第36話 幕間
やがて、決勝戦の開始時刻になる。
充分な休息を挟み、体力気力共に万端……とは言えないが、そもそも試合の大半をミーナに任せてしまったために、そこまで疲れているわけでもない。
心配なのはミーナの方。
一時間もしない休息時間で、果たして彼女は回復できたのだろうか。
シアナがいれば回復してもらえただろうが、相手チームに頼むわけにもいかない。
「ミーナ、大丈夫か?」
「問題、ない」
「ミーナには、リッカに付きっきりで対処してもらおう。
シアナとシンドウは僕とマサトで対処すればいい。
リッカの盾さえなければ、僕らの攻撃も通用するだろうし……まずはシンドウだね。
あいつを戦闘不能にすれば、戦いやすくなる」
いったい、いくつの手札を持っているのかは分からないが、状況次第で切る手札を変えるシンドウを、長く戦場に立たせるのは避けたい。
切った手札が手元からなくなるわけでもなく、手札という策が与えた影響さえも利用し、場の環境を見て手札を増やしてしまう。
シンドウには、次になにをしてくるか分からない、事前の策が後々の策に影響するかもしれないという底知れなさがある。
いるだけで存在感を発揮する……その存在感は敵対している今だからこそ実感できる。
今、おれたちが警戒しているのはリッカでもシアナでもなく、実はシンドウなのだ……。
たとえ強さなどなくとも、いるだけで敵対者を牽制させる力。
実際、考えられる策ができるかできないかは関係なく、もしかしたらできるのかもしれない、と思わせただけで、効果は充分にある。
でも、シンドウ自身の強さは変わっていない。
おれたちと同じで、女性に比べれば腕力はないし、機動力もない。
体の頑丈さもなく、
後ろから後頭部を殴られたらそれだけで意識を失ってしまうような弱い人間だ。
おれたちと同じだけど、でも、こうしておれたちに、「まずはシンドウから」と思わせている時点で、あいつは女性と共に戦う男としては、百点満点なんじゃないだろうか。
なにをするでもなくその場にいるだけで、女性を守っているとも言える。
無茶なことはしない。命懸けでもない。
あいつはただ、こちらの想像力に介入しているだけ。
あいつのこれまでの生き方と実績が、おれたちの想像力を膨らませてくる。
それには少なくとも、おれたちみたいにシンドウを知っていることが前提になるが。
味方として頼っていたからこそ、敵に回った時の恐ろしさが分かってしまう。
でも、これはおれにとっては、参考になる。
――たぶん、これが彼女たちを守る、おれたちのやり方なのだろう、と。
「……ミーナ様、ゴウ様、マサト様……力を貸してくださり、ありがとうございました」
ステージに出る寸前、唯一姫がそう言って頭を下げた。
「早いよ、まだ勝ってもいないのに」
「いえ、ここまで連れてきてくれたことにも感謝していますから。
お三方に背負わせる気はありません。もしも、ここで負けたとしても……」
「負けないよ。負けてたまるかよ……ッ、興味だけで生きているようなあのバカ王子に、リッカを利用されてたまるかってんだよ……ッ!」
唯一姫が苦笑しながら、
「無茶だけはしないでくださいね」
「ねえ、姫様、聞いてもいいかな?」
ゴウの質問に、唯一姫がなぜか身構えた。
「……なんでしょう?」
「王子から、大量の武器を取り上げるのが姫様の目的なんだよね?
彼がその武器を使い、なにをしでかすのか、分からないから。
遊びで戦争でもされたら困るしね。
てっきりさ、王族の中で落ちこぼれの待遇を受けている王子が、親、姉への反発心から武器を集めているのだろうと思っていたけど……本当にそうなの?」
たとえば国王からいないもの扱いされている王子が、興味を引くために武器を集めていたとしたら……。その場合、こうして闘技大会というイベントにしてもらっているため、目的は達成しているようにも感じる。
これが目的なのだとしたら、の話だが。
しかしまだ十歳の子供だ。
おれが十歳の時なんて、行動一つ一つにちゃんとした理由があるわけではなかった。
面白そうだから手を出してみた……そんな感覚だったはず。
目先に見えた武器を手元に引っ張ってきただけなのかもしれない。
「だと、思いますよ。
あの武器の中には私たちの体も貫通するような性能を持つものもあります。
男性なら当然、女性にも通用してしまう武器となると、対処できません。あの子を止められる者がいなくなってしまう。
ですから、あの子が調子に乗る前になんとか取り上げたいのです。
幸い、あの武器があれば『なんでもできる』とは、あの子もまだ気づいていないようですけど……それも時間も問題ですよね」
「そうかな。確かにまだ十歳の子供だけど、僕には彼が、とても聡い子供だと思ったよ」
ゴウは、唯一姫を見極めるように、
「はぐらかすのは、マサトがいるからかい?」
「…………っっ」
唯一姫の反応に、おれは「??」とついていけなかった。
なんの話をしている? おれがいるから、話せない?
「マサトの前で話せば、マサトは絶対に、姫様の元にはいてくれない」
「……そろそろ、時間ですよ」
会場のアナウンスがおれたちを呼んでいた。
「いいけどね。どうせ向こう側がこのままこの大会を終わらせるはずもないだろうし」
唯一姫の「いってらっしゃいませ」の言葉がないまま、おれたちはステージに上がる。
大きなしこりを残したまま、遂に決勝戦の幕が上がる。
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