第32話 勝利条件

 第一試合は、チーム唯一王子が出場する。

 おれたちは正反対の第四試合。


 おれたちしかいない控室に、控えめに扉をノックする音が聞こえる。


「ミーナ様に任せておけば、決勝戦までは楽勝ですね」


 唯一姫の言う通り、

 決勝戦までリッカたちと当たらない以上、ミーナの攻撃を防げる参加者はいない。

 他の参加者も、ミーナとリッカの参加を知った上で出場を決めている。


 それは噂の少女と手合わせできるから、という側面もあるだろうが、

 恐らく、勝負では勝てなくとも試合になら勝てると踏んでのことだろう。


 三対三。

 勝利条件が相手チームの全滅だけ、とは言われていない。


 もちろんそれも勝利条件の一つではあるが、

 元々の戦力差を加味したルールが設定されている。


 魔界でなに一つ適応されないものだが――、



 チームリーダーの撃破。


 拠点破壊。


 ポイント制。



 ……勝利条件は複数あり、どれかを達成できれば勝利となる。


 攻守が分かれているわけではないため、攻めながらも守る必要が出てくる。

 攻めの選択肢が多いということは守るべき選択肢も多いということだ。


 厄介なのがポイント制。

 決められた体の部位に攻撃が当たると加算されていく。

 それが一定ポイント溜まってしまうと試合は強制終了、勝利者が決まってしまう。


 急所以外、たとえば普段なら無視するような攻撃にも意識を回さないといけない。

 たとえ擦り傷程度だと判断しても、完全に避けなければポイントになってしまう。


 拠点は、闘技場の円形ステージ全体を見た時、半分に分割した場合の自分の陣地の最奥に置かれたガラス製の柱のことを言う。

 ガラス製なので、壊れやすい。

 狙撃などで人の間を縫って射線を通せば、壊すこと自体はそう難しくない。


 今のところ、最も警戒すべきルールになるだろう(ちなみに闘技場に場外はない。ステージとは言ったが観客席から見下ろせる地続きの全てがステージとなる)。


「このルールのおかげで、シンドウチームにも勝ち筋が見えてきたね」


 ゴウの言う通り。

 逆に、シンドウたちに有利になってきた。


 いや、シンドウにとって、やりやすい戦場に整えられている。

 ……これだけルールでガチガチに縛られてしまえば、あいつの策が活きてくる。


「……? どういうことですか? 

 シンドウ様たちにとっては、追加ルールがなければやりにくい環境だったのですか?」


「盾のリッカ、回復のシアナ……そして、攻撃のミーナ。

 そういう分担で今までやってきたから。たぶん、できないわけじゃないんだろうけど、あの二人に攻撃のイメージってほとんどないんだよ。

 ミーナの支援をしていたのは、主におれとか、シンドウだったし」


 おれたちの出番なく、ミーナが全て一人で終わらせてしまうことが多い。


 盾のリッカが相手の攻撃を防ぎ、動揺を誘ってくれたからだとは思うが……それにシンドウの策やゴウの進むか退くかの判断力、シアナの回復がミーナの背中を押してくれたのだろう。

 だからこそ発揮された攻撃力で、相手をなぎ倒してくれていたのかもしれない。


 ……そう考えるとおれってなにもしてないな……。

 シンドウは度胸、と言ってくれたけど、果たして役に立っているのか……。


 まあ、

 チームにとって役に立つかどうかが最優先ではない。


「始まったみたいですね、シンドウ様たちの試合が」


 控室に設置されていたモニターに映された、ステージ上の映像。

 しかし、それはすぐさまなにも映さなくなってしまう。


 暗転したわけではない……開始早々、画面は真っ白に。


「睡眠玉……、目隠しか」


 男相手ならそのまま効果が発揮されるが、女性には通用しない。

 だとしても白煙で視界を埋めればシンドウの身のこなしであれば拠点を破壊することは可能。


 別に近くまでいく必要もない。ガラス製の柱は、さすがに短刀を投げただけでは壊れてはくれないが、転がした爆弾によって爆破すれば……さすがに壊れるだろう。


 火力は抑え、音も小さい。

 それでも、柱一つ壊す威力はある。


「一試合目だからこそ使えた策だね。そして残る全チームへの牽制にもなっている」


 シンドウは自分の試合でなくとも、おれたちに影響を与える布石を置いていった。


「目隠しからの拠点破壊を、これで嫌でも意識せざるを得なくなったわけだ」


 白煙が晴れた後、事態が飲み込めず呆然とする対戦相手。

 リッカは安堵し、「なにしたの!?」とシアナがシンドウに詰め寄っている。

 声は聞こえないがたぶんそう言ってる。


 シアナをあしらいながらステージから去るシンドウがこっちを見た。


 カメラの位置を抜け目なく把握している……。


「……あいつ……」


 お前はどう戦う? 

 ……そう言われているようだった。

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