第31話 開会
『娘が戦うのは父親としては気が進まんな……そうだな、王族にとってなにが重要か、前にも話したことがあっただろう? つまりどう使うか、だ。
道具もそうだが、他人のことも同等に扱えなければ王族は務まらない。
頼るのではなく、主導権を握った上で、だ』
『頼ると使うは違う……そうだな……代理の三人を立て、戦わせろ。
大会で優勝したチームの指揮を取っていた方が勝利者としよう。
姉弟喧嘩の内容はもちろん知らん。
勝者が敗者になにを求めても、それは当人同士のやり取りだ。
後は姉弟同士で話し合うことだ』
国王がそんなことを言って、実際に戦うのはおれたちになったわけだ。
自身の手を汚さずに欲しいものを手に入れ、奪いたいものを奪うやり方は、さすが王族と言うべき考えだった。……いや、唯一姫のことを言っているわけではないけどな。
ただ、彼女の場合は自分の力でなんでも手にしてしまうために、そういうことを考えないだけかもしれないが。
環境によって性格が作られていく。
王族でいる限り、根っからの王族気質は抜けない。
いずれ唯一姫も……、顎で人を使うようになるのかもしれない。
今みたいに頭を下げることも、おれたちに向ける敬語も、やがてなくなっていく。
「まさか、あの子がシンドウ様とシアナ様を引き抜くなんて思いませんでした……っ」
「そう? 代理で戦うことを聞いた時点で予想はできたよ。
ただ、シンドウが相手の話に乗るとは思わなかったけど……、
さて、どんな交換条件を出されたんだろうね」
シンドウのことだ、簡単に、金で動いたのかもしれない。
「引き抜くなら確かにシンドウが一番楽かもね。同時にシアナもついてくるわけだし」
回復魔法を扱うシアナがいるといないのとでは、精神面での安定感がまったく違う。
シアナを目的に動くなら、シンドウを攻めた方が話は早いだろう。
「仲間同士で、戦うことになってしまいましたし……っ」
「そのへん、僕たちは元々気にしていないよ。古い付き合いでも幼馴染でもないしね。
目的のためなら対立できる。相手がシンドウだろうと手加減なく戦える。
特に、マサトはこういうことに一番躊躇しないタイプだろう?」
「リッカが取り戻せるならなんでもいい」
「ほら、こういう集まりさ。数合わせで組んだだけのパーティだから気にしなくていい」
すると、唯一姫がゴウの手を握る。
ミーナがぴくん、と反応したが、それだけだった。
「ですが、ゴウ様。あなたが一番、自分にそう言い聞かせているように聞こえます……」
「……僕が、シンドウを攻撃するのを、躊躇っているって言いたいのか?」
「シンドウ様に限らず、ミーナ様は当然として、シアナ様、リッカ様、マサト様……誰も傷つけたくない、と思っているのではないですか?」
「…………」
「パーティのリーダーなら当たり前ですよ、恥じることはありません」
おれたちはあくまでも即席のパーティだ。
役に立たなければ切り捨てることができる間柄でありながら、ゴウは決しておれたちを見捨てなかった。
彼が司令塔でありパーティにおいて進むか退くかの判断力を担っていたからかもしれないが……率先して危険から遠ざけていた気もする。
振り返れば、過剰なほどに。
「優しい人ですね」
「行動だけで人の善悪を判断しない方がいいよ、お姫様」
ゴウの言いたいことは分かる。ただ……その忠告こそ、彼が優しい人であることの証明になってしまっているのだから、皮肉なものだった。
「行動には必ず裏がある。僕の優しさも見えていないところで誰かを陥れよ……なに?」
にやにやしていた唯一姫に気づき、ゴウが不機嫌な表情を浮かべる。
「いえ、なんでもないです」
「言いたいことがあるなら」
「やっぱり、優しい人ですね」
さらに言い返そうとしたゴウだったが……開きかけた口をゆっくり閉じた。
諦めろ。今の唯一姫を説き伏せるのは、お前でなくとも不可能だ。
昼過ぎ、長蛇の列を作り、闘技場に観客が入っていく。
昨日の今日ですぐに開催してしまえるほど、準備が整っていたわけか。
しかし参加者については、
さすがに宣伝のタイミングもあり、期待していたよりは少なかったらしい。
それもそうだろう、
まさに今、魔界へいっている収集者もいるわけで、誰もが知る実力者は少ない。
リッカとミーナがいるだけでも、客引きの話題性としては充分な効果だったらしいが。
参加チームは八組。
トーナメント形式で、参加者が多ければ第一、第二ブロックに分かれる予定だったが、幸いと言っていいのか、八組で参加は締め切れられた。
ステージ上に、おれたち含め、参加者が集められている。
「……有名人はいない、か……?」
「僕らが言えたものじゃないけど、若手から中堅の収集者だよ。
一番注目を浴びているのがリッカとミーナくらい。
一部、熱狂的なファンがいるから、シアナもかな。
マサトが危惧するような大物の収集者はいないよ」
「タイミング良く魔界にいっててくれたか……」
「様子を見ているだけじゃない? 前例のない大会に飛びつくほどの報酬はないし」
報酬。優勝賞金。
決して安くはないが、高いとも言えない金額の賞金が出るらしい。
まあ、おれたちには関係ないことだが。
あくまでも参加者を集めるための餌でしかなく、元々参加が予定されていたおれたちには、たとえ優勝したところで貰えない報酬だ。
『チーム唯一姫』と『チーム唯一王子』が決勝で戦うことを想定された大会だ。
勝った方が、相手に言うことを聞かせられる。
唯一姫の目的は、王子の手から大量の武器を取り上げることだ。
そのため、姫の代理で戦っているおれたちが優勝しても、当然、賞金は出ない。
王城を襲撃してその上、賞金まで取ろうというのは虫の良い話か。
正直、こっちは一辺倒、被害者なんだけどな……。
「賞金を目当てにするなら魔界にいった方が稼げる……そう判断したんだろうね」
「分からないでもないが、こっちの方がリスクがない気もするけど……」
「多くの人の目につくというのは、思っているよりもストレスだよ」
しばらくして、客入れが一段落したのだろう、観客席よりも上、最上階にある檀上に遠目から見ても分かる人物が立った。
部下からマイクを手渡されたが、国王は使わなかった。
あの人の声は、マイクがなくとも遠くまで聞こえ、よく通る。
「さあ、盛り上がれ――熱くたぎる戦いを、その目で見届けろォッッ!!」
ビリッビリィッ、と客席全体に響く素の声が、観客のテンションを引っ張り上げる。
オオオォッ、と盛り上がる観客の声を聞いて満足した国王が、口だけを動かし呟いた。
「開会だぜ、楽しんでいけ、野郎ども」
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