第28話 王城内部
「チッ、こうなっちまえば、成功しねえ作戦を中止して引き返したところで姫様と繋がっていた反逆者って思われるだろうな……ッ!」
唯一姫が空けた大きな穴から王城の敷地内へ。
そこは広い庭だった。
町の中にある噴水広場をそのまま持ってきたような空間。
外壁から本命の城まで長くはないが、短くもない距離がある。
走って八秒、九秒と言ったところか。
「退いても進んでも地獄なら、進んだ方がまだマシ、かな……」
「竜巻みてえな姫サマに振り回されないためにも、素早く中心地に入った方がいい」
退くよりも、唯一姫と一緒にいた方がまだ言い訳が立つだろう。
「みなさん気を付けてください――狙撃がきますっ!!」
……なんだって?
言ったそばから、ぱしゅっ、と足下の地面が抉れた。
思わず立ち止まる。
狙撃、だって……? でも、銃声が聞こえなかったぞ……っ!?
「王城の外の市街地から狙ってます……あっ、また引き金を……っ!」
「……よく、見えるね……」
ミーナが呟いた。
五感だけでなく、第六感が発達している彼女でも、こちらに銃口を向けている狙撃手を見つけられてはいないらしい。
「私、眼がいいんです!」
瞬間、ゾッと背筋が凍る。……体が覚えているのだろう。
昼間、おれの指を吹き飛ばした狙撃手かもしれない……。
「狙撃はどこから」
「ええと……あそこ、あっちです!」
「どっち!!」
ミーナの口調が変わるほどの雑な指示だ。
しかし最低限、指を差して方向だけでも示していたため、ミーナでも対応できた。
彼女でも見える範囲まで弾丸が入ってしまえば、後は目で見て打ち落とせる。
連続で撃たれる弾丸と、ミーナの蹴りが衝突する。
ぼとぼとと弾丸がミーナの足下に落ちていく。
しかし、やはりミーナ一人では全てを弾けるわけではなく、こぼれる一、二発がある。
「あいたっ!?」
逸れた一発がシアナの額にカァン、と当たり、
「そこ、なんも入ってねえから良い音がするんだな」
「でしょ! ……、あっ! いまバカにした!?」
そして蹴り落とせなかったもう一発が――、
「――はっ!?」
「大丈夫ですか、マサト様っ!?」
シアナと唯一姫がおれを覗き込んでいる……、おれは、気を失っていた?
一体、なにが……。
ふと、違和感があって左手を動かし触れてみると、右肩にまだ乾いていない鮮血がべったりとついていた。
「なん……だ、これ……?」
「弾丸がお前の右肩から先を吹き飛ばした。その痛みのショックで気絶してた、ってわけだ。
良かったな、右側で。左だったら心臓があるから危なかったぜ?」
つまり、ミーナから逸れた弾丸がおれに直撃したらしい。
「もう、マサトを治すのに慣れてきちゃったよ」
確かに、シアナにはお世話になりっぱなしだ。
パーティメンバー内では、特におれが一番、シアナに回復させてもらっている。
「……回復できるからと言って、怪我を前提にするのはダメですよ。
やっぱり、私も前に出て壁役をした方がいいですね。
男の子を前に出すとこうなってしまいますし」
「一緒にすんな、気を抜いてんのはマサトだけだ」
「なら、私がマサト様の壁になります」
「待てって、そんなこと唯一姫でなくとも――」
ぱしゅ、という音に振り向くと、後方の地面が抉れていた。
頬を横切る弾丸。
切れた皮膚から血が流れ、顎から地面に滴り落ちる。
「諦めてくださいマサト様。
自衛ができていない以上、私が守りますので」
狙撃をかいくぐりながら、なんとか王城の中へ辿り着く。
建物内なので遠方からの狙撃を警戒する必要はない。
ただ、今後は装備を携えた警備を相手にしなければならないが。
黒ずくめだった唯一姫が
豪華なドレスも着ておらず、収集者の中に混ざっても違和感がない姿だった。
「一度着てみたかったのです。くノ一……と言うのですよね?」
長いマフラー、肌が多く見える、袖のない服装。
ティアラが額当てに見えなくもない。
いつもの豪華なドレスだと動きにくいだろう……であれば、まだマシな格好か。
「くノ一は服装に『擬態』の効力があるが、アンタのそれは?」
「いえ、効力までは……。見た目の格好だけです……」
「個人の趣味にとやかく言うつもりはねえよ。
アンタの頑丈さなら、肌を出してたところで傷つくこともねえだろ」
言われ、今になって自分の露出度を再確認したのか、唯一姫が顔を真っ赤にさせる。
ミーナがいるから麻痺しているのかもしれないが、実際、くノ一の服装でも肌がかなり露出している。
修道服姿でほとんど肌の露出がないシアナと比べてしまっている部分もあるだろうが。
「着替えるなら、途中で姫様の部屋に寄ってもいいけど」
「い、いえ、我慢します……弟が最優先です!」
恥ずかしさを吹っ切った唯一姫が、
「こっちです!」と前進した時だ。
彼女の足下に、小さな穴が穿たれる。
音はなかった。
建物内にかかわらず、狙撃が通った……? ――いや。
現在地は吹き抜けになっており、見上げれば二階部分が見える一階だ。
つまり、逆に二階から一階を見下ろせることにもなる。
視線を上げると、
二階部分の手すりに体重を乗せ、背伸びをしながらこちらを銃で狙う――少年。
王族らしい、おれたちを見下す目だった。
これだ、こういうのが、王族だ。
分かりやすくムカつく視線……ッ。
「きたか、姉さん」
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