第25話 ……始まる
リッカを連れた帰り道のことだった。
ギィンッッ、と、鉄を削るような音が隣から発せられた。
「リッカ!?」
状況を把握するよりも早く、彼女から突き飛ばされる。
すると、連続してリッカを狙って、複数の弾丸が飛んでくる。
一発目はこめかみ。
二発目は眉間。
三発目は心臓、そして四発目は後頭部の死角から。
リッカが人よりも頑丈でなければ、一発目で死んでいた攻撃。
近くに気配はない。では、遠方からの射撃……?
しかもほぼ同時に思える四発の弾丸は、単独ではないことを意味している。
リッカを狙っているとして、だが、頑丈さを知らないわけではないだろう。
狙うにしてはお粗末な戦法だ。
また、連続で弾丸が飛んでくる。
同じようにこめかみや眉間、急所ばかりを。
急所である以上は気を抜けない。
意識を割かないわけにはいかないのだ。
「っ、鬱陶しいなあ、もうっ!」
着弾点から狙撃手が潜んでいる方向は分かる。
さすがに正確な位置は分からないが……しかも複数の方向であれば一方向へ向かったところで残りの方向からの攻撃はやまない。
北を目指したら南にはいけないように。
リッカに選択させることが目的なのか?
急所を撃っても倒せないなら、この狙撃にはどんな意味がある?
考える。もしも自分だったら?
この戦法にどんな目的が隠れている?
安全地帯からの攻撃で……リッカの気を逸らす、一方向を選択させて進ませる、どの方向からも攻撃を受けない遮蔽物に誘導させる……でも、ゴールが見えない。
時間稼ぎ? これは手段であって、目的達成のためにもう一つ、なにかあるはずだ。
それはなんだ。
遠方の狙撃、自然とリッカは遠くを見るようになる――まさか狙撃を受けた後に、狙撃手が自分のすぐ近くにいるとは思わないように。
そう、足下の警戒は一番最初に自然と切ってしまうものだろう。
「しまっ――」
地中から出てきたのは黒ずくめの男だった。
さっき出会った少年? 少女? とは違って男の体格をしている。
しかも四人――今まで地中に潜んでいたのか!?
彼らは握っていたごつく太い銃をリッカに向ける。
狙撃手四人、近接狙撃手四人から狙われ、どれを対処したらいいか、一瞬迷う。
いや、迷いなく対処したところで必ずどれかの攻撃は当たってしまっていただろう。
迷っている隙に、引き金が引かれた。
放たれたのは銃弾ではなく……網、だった。
魔物を捕まえるために利用されるアイテム。
魔物用に作られたそれは、リッカの力ではどうしても引き裂けない。
たとえ腕力に自信がある女性だろうと無理だろう、そういう素材なのだ。
「捕獲成功しました」
連絡を取っていた黒ずくめの男に向けて、短剣を抜いて突撃する!
捕獲、だと? まるでリッカを、手のつけられない魔物みたいに……ッ!
「返せ!」
男が連絡を取りながら、おれを一瞥した。
冷たい瞳だった。
「この方はもう貴様のものではない。今から王族の所有物になる」
短剣が落とされる。
音もなく。
剣を握っていた右手が真っ赤に染まっていた。
――力が入らない。
遅れて気づく……狙撃されていた。
そして……、膝。
膝が弾けていた。
がくんと力が抜け、受け身も取れずに地面に伏す。
「…………あ」
早い。慣れた手つきで獲物を刈るプロの技だ。
収集者ではない、暗殺に長けた者たちの職人技。
これが、王族護衛の……。
収集者上がり。
「――マサトっ、マサトぉっっ!!」
リッカの声が、聞こえて、でも、体が動かない。
冷たい地面に頬をつけて、意識がゆっくりと遠ざかっていく。
やがて、声だけが聞こえてくる。
地獄へ引っ張る死神にしては、イメージしていたよりも高い声だった。
「下がりなさい。この方を始末するというのであれば、私を殺してからにしなさい」
「……退却します」
「これは……弟の命令、ですよね?」
「なにも知らされてはおりません」
「なら伝えておきなさい。あなたの企みは成功しません……と」
「――弟の間違いを正すのが、姉の役目なのですからっ!」
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