第19話 vs魔法人形兵器【ゴーレム】level2
その場で踏ん張り、待ち構える。
右往左往して逃げ、シンドウとゴウの邪魔になるくらいなら、最初からダメージ覚悟で囮の役目を最大限に発揮してやる。
全員が防具を身に着けているが、その中で盾を持っているのはおれだけだ。
ゴーレムがおれを選んだのは、考えようによっては好都合とも言える。
防具と盾の二つがあるおれが一番、ゴーレムの一撃に耐えられる。
「お望み通りに受け止めてやる。
さあその腕を振り上げてがら空きの関節部分を露出させてみろ。
こんなことを言っても脳がないお前には一切、伝わらないんだろうなッッ!」
ゴーレムが腕を振り上げた、その瞬間だ。
爆破音が響き、振り上げたゴーレムの腕が千切れ、おれの元へ落ちてくる。
「う、おっっ!?!?」
「悪ぃな、落下位置までは予測できねえ」
各関節が爆破されていき、その破片が周囲へ散る。
押し潰されそうになったのは、振り上げた腕くらいのものだろう。
ゴーレムの鎧が剥がれていく。
ぼろぼろと崩れ、見えてくるのは薄紫色に光った文字が浮かぶ、一つの岩だ。
「見つけた! あれが核だっ!」
「んなことは分かってるよォ!」
シンドウが短刀に爆弾をくくりつけて投げた。
スイッチを押してから爆破までの時間差があるのを利用しての長距離攻撃。
各関節を破壊したのも同じ要領だろう。
短刀が岩に突き刺さり、時間差の爆破で核の岩を破壊し、
『――なに!?』
しかし、
次の瞬間、短刀と爆弾が水没した。
茶色い液体のような……粘着性のある液体、か?
それが核を丸ごと飲み込んでいる。
核に突き刺さっていた短刀も爆弾も飲み込み、すぅ、とその存在が綺麗に消えた。
それから。
ずるり、と、臓物が這い出てくるように。
それを見たおれたち三人の声が重なった。
『スライムか!?』
腰までの高さ、だが横幅はかなり広く、両手を広げた以上の長さの円盤型。
茶色いスライム。
(本来は透明なのだろうが、環境の色を吸収しているのだ)が、地面に落下する。
すると、ぼこぼこと沸騰するように水泡を作り、ブチブチィ、と膨らんだそれを千切るように分裂していき、散ったゴーレムのパーツに付着していく。
再び、核がパーツを呼び寄せている。
各パーツに付着した、粘着性のある液状のものを纏ったまま、ゴーレムになれば……。
――まずいぞっ、スライムの粘着性でゴーレムの関節が強化されたら、対策していた爆破が通用しなくなる。
しかもゴーレムは無機物だが、スライムは生命体だ。
脳があるのか分からないが、無機質の兵器に生命体の知識が合わされば、脅威が跳ね上がる。
「組み上がる前に、早くッッ」
「いや、もう遅いね」
滴っていた液状のものがゴーレムの体に馴染んでいた。
パーツ同士の隙間を埋めるように詰められた、スライムの体。
粘着性によって強化されている……もちろん、各関節も同じように、だ。
これで、核が堅牢な要塞に閉じ込められてしまった。
……錯覚か、ゴーレムがさっきよりも、大きく見えている気がする。
「おい……おいおい!? どうすんだよっ、これッッ!」
「チッ、勝てる可能性はこれで万に一つもなくなったわけだ――」
シンドウがあっさりと諦め、目的を変更させる。
「こうなったら仕方ねえ、ゴーレムは諦める。このままアラクネの巣へ突っ込むぞ!」
予定通りと言えば予定通りだ。
目的はあくまでも、リッカたちを救出することであり、
ゴーレムとアラクネを倒す必要はない。
戦わずに、彼女たちを気づかれずに連れ出せたらそれが一番良い。
だが、それはさすがに難しい……。
見つかることは必至、であれば、見つかった上で逃げることに注力すれば、大きく開いている戦力差は大して影響しない。
逃げることに特化したおれたちを止めるには、
同じように逃げる相手を足止めすることに特化した相手だ。
仕留めることを意識した相手を欺くことは容易にできる。
そう、勝算はある。
リッカたちを救う作戦だ――って……っ!?
不意に、べちょ、という不快な感触が手の平にあった。
腰に付着した、粘着性のある液体。
足下に滴っているそれを目で追うと、球体状の茶色いスライムの体に吸い込まれた、苦労して手に入れたあるアイテムが見えた。
あれは、アラクネの糸を切るための……!
リッカたちを助けるために絶対に必要な、断ち切りバサミが……ッ!
二人に伝える暇もない。
スライムの体内にあるそれが、ふっ、と消えた。
「…………ッッ」
すぐに、アラクネの巣へ向かっていたシンドウとゴウを呼び止める。
「――ダメだ、アラクネの糸を切るためのハサミが奪われた!
スライムの体内にあるあれを取り戻さないと、リッカたちを助けられない!!
このまま突っ込んでも真正面からアラクネと交戦することになる……っ、今のおれたちに、勝ち目なんかない!!」
「チッ、スライムはゴーレムの強化だけじゃなく、侵入者からアラクネ対策のアイテムを奪い取る役目もあったっつうわけか……!」
前回、スライムが顔を出さなかったのも今なら分かる。
アラクネ対策なんて一切していなかったし、ミーナが素早くゴーレムを倒してしまったために、出る幕がなかったのだ。
ゴーレムと違い、生命体であるために、本能的にミーナに怯えたのかもしれない。
単純に、今回はおれたちを相手にして、勝てると踏んだのだろう。
「スライム対策なんかしてねえぞ!?」
「いや、いい……このままアラクネの巣に突っ込もう」
「ああ、お前がそう判断したなら従うのはいいが、目の前のこいつはどうする?」
巣への道が塞がれる。
粘着性がさらに増した、茶色い液体に、だ。
「前はスライム、後ろにゴーレム……アラクネどころじゃねえな……」
このままだと、アラクネの顔を拝む前にこの場で全滅も充分に視野に入る。
前も後ろも塞がれ、逃げ道はない。
残された道は、『戦う』のみだ。
相手は頑丈な無機物に知恵を持つ生命体で強化された魔物。
躊躇いのない攻撃力と機転が利く防御力を持つ。
おれたちが持つアイテムは通用しないだろう。
爆破しても通用しない。
粘着という再生力で無機物のパーツはすぐに修正される。
スライムの吸収力で、アイテムも、物理攻撃も、ダメージが通らない。
どうすればいい……どうすれば……。
生命体である以上、休息は必要だから、それを待つというのも一つの手だ。
何十、何百時間と活動できる生物はいないだろう。
おれたちは三人いる、だから交代制で我慢大会に持ち込めば……。
まあ、ゴーレムという無尽蔵の体力――(実際は魔力で動くが、アラクネからの供給がある限り、無限に動き続ける)を前にすれば、その手は使えない。
そもそも、タイムリミットがある。
何百時間どころか、一時間以内に助け出さないとリッカたちは捕食されてしまう。
なにか、なにかあるか……? くそっ、合体することで突く穴がなくなっている。
どちらか単体なら、どうにかすることもできたかもしれないのに……!
せめてスライムをゴーレムから剥がせれば。
粘着性の鎧が、とにかく厄介だった。
加えて、なんでも吸収する液状の体だ。
「爆弾を飲み込ませて、爆破しても意味はないよな……どうせ吸収される……スライムが内側から弾け飛んだところで、分裂した液体はすぐに集まって復活するだろうし……」
全てを吸収する……、だったら毒でもあれば効いたのかもしれないが……。
相手が無機物のゴーレムだから、毒物なんて持ってきていない。
即席で作るにしても、材料もない。
完全に、詰んでいる……ッ!?
いや、視野が狭くなっているだけだ……自分の力で倒せない相手と何度も向き合ってきた。
いつもならリッカがいる、別の収集者がいる……でも、自分一人だった時、どうやって乗り越えるべきか、妄想していたはずだ。
頭の中ではいつも颯爽とリッカを助けていたはずだろう。
妄想ほど上手くはいかないだろう……そう、必ずしも倒す必要はないのだ。
戦闘続行不可能にすれば、おれたちの勝ち。
結果から逆算しろ、
スライムをゴーレムから引き剥がすという結果に向けておれたちはなにをすればいい?
おれたちの手には、一体なにがある……?
両の手の平を見つめて――、違う。
おれじゃない。
突破口を持っているのは、いつだって、おれじゃない……!
「シンドウ!!」
彼は文句も悪態もつかず、おれの瞳を見つめる。
「通用するかは分からない……だけど試してみる価値はある!
生命体で、なんでも吸収するのなら、お前の睡眠玉で眠るかもしれない!
一つで足りないなら全部だ!
いつも持ち歩いてるそれを全部ッ、あいつにくれてやれッ!」
「……なるほどな、傷つけないことを前提にした手か。オレの視野も狭くなったもんだ」
シンドウが懐から球体を取り出す。
女性にも魔族にも効かない対男用の武器。
同時に、量によっては魔物にも通用する、非殺傷武器だ。
「睡眠玉を吸収してあいつが眠るなら、もう鎧としては機能しないはずだ!」
最後の賭け。
もしも睡眠玉が通用しなければ……、その時はその時だ。
いっそのこと、洞窟ごと破壊してもいいかもしれないな。
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