第18話 vs魔法人形兵器【ゴーレム】

「なるほど、ゴーレムは倒さないつもりなんだね?」


「できれば倒しておきたいがな。アラクネとゴーレムをまとめて相手にしたくはねえし。

 可能なら倒す、時間がなければとにかくあいつらを優先して助け出す。

 あいつらを縛り付ける糸さえ切っちまえば、ゴーレムは処理できるからな」


 アラクネの糸を切るためのアイテムも準備している……高かった、これが今回、手に入れたアイテムの中で一番、値段が高かったかもしれない。


 そして、水中を移動するための酸素ボンベだ。

 替えはなく一本限り。

 ないだろうが、もしも酸素がなくなればおれたちは溺れ死ぬだろう……。


 それぞれの荷物はやはり軽装だ。

 あまり持っていくと身動きが取れなくなる。


 重量はないが、頑丈な耐久力を持つ防具。

 取り回しやすく、刃こぼれしない刃を持つ短剣と、範囲は狭いが強固な盾。


 シンドウは、短刀を買い込んでいた。加えて、爆弾だ。


 火力は高くない。

 おれたちが使うとなると、巻き込まれる可能性もあるからだ。


 火力が弱くても、ようは使い方だ。

 ゴーレムを相手にした場合、関節に差し込めば、たとえ火力が弱かったところで、岩を吹き飛ばすことは可能。


 足場だけを削る、

 火力が弱いからこそ追い風を作る、音のハッタリに使えるなど、用途は様々だ。

 これが周辺一帯を吹き飛ばす火力となると、使い勝手が悪い。

 威力だけなら申し分ないが、爆弾である必要性は感じられない。


 シンドウによれば、火力がない方が応用しやすいらしい。


「……よし、ある程度、作戦は頭に入ったな?」


 入っていなければ死ぬだけだ。

 今回は、リッカも、シアナも、ミーナもいない。


 おれたち三人だけ。

 本当に、死と隣り合わせの戦いだ。


「ま、全てが思い通りにいくとは思わねえことだな。

 決め打ちで挑めばあっさり死ぬ。覚えろとは言ったが、あまり意識しない方がいい」


「……覚えろって言ったり意識するなって言ったり、どっちなんだよ……」

「臨機応変に立ち回れってことだ」


 飛行艇に乗り込む。

 防壁を張ってくれるのは前回と同じ、シンドウの知り合いの女の子だ。


「珍しいね、というか初めて? 勝機のない戦いにシンドウが飛び込むなんて」

「あるから動いてんだよ」


「嘘ばっかり。アラクネの強さはシンドウでも知ってるでしょ。

 たっかいアイテムを揃えたとしても、絶対に勝てるとは限らない。

 相手の巣が戦場なら尚更じゃん。やっぱり、あの子だから? 

 まあそうよねー、だってシンドウが引っ張り出したんだから、あの子が一人前に独り立ちするまでは、面倒を見るって責任があるもんね」


「さっさと防壁を張れ。動くぞ」

「雑に扱ってもやっぱり一番大切に――きゃあ!?」


「シートベルトしないと、機体の中でシェイクされるぞ?」




 二時間後、だ。

 目的地である入り江の上空にて。


 今度こそ、パラシュートを付けて飛行艇から飛び降りる。

 円を描くように滑空し、入り江の水面に着地する。


 濡れたパラシュートの紐をすぐさま切り、拘束を解く。

 付けたままだと海に飲まれたパラシュートに道連れにされてしまう。


 酸素ボンベを咥え、水中へ潜る。

 あらかじめつけていた目印を辿り、アラクネの巣がある洞窟へ――。


 近づいてきた水面から顔を出す。

 気づけばボンベ内の酸素も残りわずかだった。


 帰りの分はないだろう。

 なんとしてでもリッカたちを助けなければ、おれたちも自力で帰れない。


「そろそろだな」


 ゴーレムが待ち構えている広い空間の手前、入口付近で一度止まる。


 今日は二連戦だ。

 あまりゴーレムだけを意識していると、続くアラクネ戦でアイテムが足りなくなり全滅することも充分にあり得る。

 石橋を叩いて、叩いて叩いて、さらに叩いても足りないくらいだろう。


 ……入口の先を見据えながら、右手にある、短剣の握り心地を確かめる。

 腕につけていた盾をはずし、胸の前で構えるように維持する。

 頭を守るヘルメットも装着済みだ。


「ゴーレムの関節に、爆弾を仕込む。

 爆破して岩が散った隙に核を破壊する。

 とにかく、これを基準にしておけば行動に迷うこともないだろ。

 爆弾は渡したよな? 稼働する関節は岩同士がくっついても隙間ができやすい場所だ。

 肘、膝、首……目についたら片っ端から放り込んでいけ」


 手の平に収まるサイズの爆弾。

 火力は弱いらしいが、持ち運びやすいため量を持つことができる。

 火力を上げたければ十個まとめて仕込めばそれなりの威力が出るだろう。


「その火力なら、仮に自爆しても大した怪我にはならないだろうぜ」

「……ちょっと転がった衝撃で爆発しないよな?」


「その心配はねえよ。魔力感知式なら問題ないが、今回はスイッチ式だからな、転がった時に間違ってスイッチを押そうもんなら爆発する。

 幸い、一つの爆弾の爆破で他の爆弾が連鎖することはねえ。

 まとめてスイッチを押さない限りは火力で吹き飛ぶことはねえよ」


 そうは言っても、やはり爆弾を持つ、ということ自体に慣れない。

 爆発しないと分かってはいても、恐る恐る扱ってしまう。


「よく爆弾なんか持ってられるよな……」


 シンドウはいつも、これではないが、睡眠玉を常備しているらしいし。


「慣れだろ。それに、爆弾以上に厄介なものを抱え込んじまってるからな」


 厄介な、ね。

 だけど、おれたちは今からその大切なものを取り戻しにいくんだ。


 やがて、意を決し、ゴーレムがいる空間へ足を踏み入れる。


 ごろごろと転がっている多数の岩。

 侵入者を感知し、自然と組み上がる魔法人形のパーツだ。

 この時点で核を見つけられたら話は早いのだが、さすがに見分けるのは難しい。


 木を隠すなら森の中の状態だ。

 起点となる、アラクネが岩に刻んでいるはずの文字も、簡単に隠すことができる。


 やっぱり一度、組み上がるのを待つしかない。


 すると、一つの岩が振動し始める。

 すぐ近くの岩とくっつき、次第に周囲の岩も集めていく。


 空間の端にあった岩も、まるで坂道を転がるように中心へ(起点となった岩自体はアラクネの巣を塞ぐように置いてあったため、この空間における中心地点ではない)向かい、大小様々な岩が集まってできた塊に合体した。


 量が積み上がっていき、そして、人の形を作り上げた。


 魔法人形兵器、ゴーレム。


 一度目は驚いたが、二度目は恐れるに足らない。


 こっちは手間と金をかけてお前を倒すためのアイテムを揃えてきたのだ。

 対策はしている。弱点も戦い方も頭に入っている。

 体が思い通りに動けば、こっちは三人がかり……、

 自分の頭で考えない無機物に負けるわけにはいかない。


 そして、ゴーレムが動き出す!


「散れ! 三角形を維持しろ! ゴーレムの意識を一つに絞らせろッ!」


 シンドウの指示が飛び、すぐさま仲間の二人から距離を離す。

 ここからは運もある。必ず誰か一人が狙われることになる……つまりは囮だ。


 ゴーレムに対する攻撃手段(爆弾)は持ってきているが、防御に関しては全員が機動性を重視した軽く薄い防具だ。

 金をかけているのでそれなりの防御力を持つが、


 ゴーレムの一撃を完全に防げるわけじゃない。


 だから狙われたら最後、残った二人の攻撃を当てさせるためにも、ゴーレムの一撃をあえて喰らう覚悟をしなければならない場合もある。


 逃げて二人に合流していたら本末転倒だ。

 囮は絶対に、安全地帯に逃げてはならない。



 結果、ゴーレムの意識が追った人影は――おれだ。



「こい、岩人形!」

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