第12話 再び魔界へ

 翌日、準備を整え、朝一番に飛行艇の離陸地に集合する。


 リッカたちがいるおかげで人間王国を渦巻く災害を抜けることはできるが、魔界へ辿り着くまでの運転は別だ。

 専属の運転手を持つパーティもあるが、おれたちは六名きっかりなので、別途で運転手に依頼する必要がある。


 そのへんの手続きは、シンドウが既に終えているらしい。


「お客さん、どちらまで?」

「魔界以外にどこがあるんだっつの」


「はじまりの花畑をすっ飛ばして、溶岩地帯や豪雪地帯に落とすこともできるけど?」


 レンズ部分がオレンジ色のゴーグルをはめた金髪の少女が、いたずらな笑みを見せる。


「なら、入り江の上空で落としてくれ。後はこっちで勝手にやる」

「あいよ。帰りはどうする? 待ってる? 時間をあけてまたくればいい?」


「具体的なことはいきながら詰める。とりあえず出発してくれ」


 スイッチ一つでプロペラが回り出す。

 リッカたちが片手を突き出し、防壁を張った。


 この役目のせいで、彼女たちは片手しか使えないことになる。


 遠征の時に使われた飛行船のようなスペースは当然なく、二人座席が四列、縦に並んでいる。

 座ってしまえば固定された座席のため、体勢を変えるのも難しいくらいだ。


 二時間の航路なのが幸いだった。

 これが一日通して続くとなると、防壁を張っていなくとも全身が痛くなる。


「リッカ、おれにできることがあったらすぐに言えよ」

「じゃあそこにあるお菓子たべさせて」


 片手でもできるだろ……、思ったが、言わなかった。

 それくらいの注文は聞いてやるべきだ。


 ――やがて、飛行艇が離陸する。


 目指すは魔界の入り江。


 地図に記された、宝を目指して。



 落下。

 パラシュートの準備もなく、

 一言「言ってらっしゃい」と添えられただけで、空中へ投げ出された。


 嵐を抜けた先の晴天の空の下なので、赤白青緑、と魔界が一望できる景色が目の前にある。

 しかし、視界良好でも空中でバランスが取れるわけじゃない。


 あぁあああああああああ!? と叫んでいると、腕がぐいっと掴まれ引き寄せられる。

 片手にリッカ、もう片手にシアナの手があり、倒れそうになって思わず手すりを掴んでしまった感覚で、二人の手をぎゅっと握る。


 パーティメンバー六人が互いに手を繋ぎ、輪になっている。

 とりあえずみんながばらけることは防げた。


 だが、ここからどうする!?


「嵐の中を抜ける時の飛行艇と一緒だよ」


 リッカが、掴んでいる手を組み直す。

 互いの指と指が交差する握り方だ。


 シアナとミーナも同じように。


「防壁を張って海に突っ込む!」




 空気を求めて水面に顔を出す。

 周囲を見回すと順番に仲間の顔が出てくる。


 相変わらず、シアナは泳げないためミーナに支えられていた。


「リッカは!?」

「今更だが、あの鎧を着たまま浮かべるのか?」


 慌てて潜ると、ちょうどリッカが浮かび上がってきているところだった。

 咄嗟に避けることもできずに、額と額が水中でごつんとぶつかる。


「り、リッカ……ッ、良かった、鎧で浮き上がれないのかと思ったぞ」

「今まで海に潜ったこと何度もあるでしょ……? 鎧を着てたって泳げるよ」


 顔を出すのが遅れたのは、

 鎧の重さで海底まで足がついたから、ついでに周辺を観察していたから、らしい。


 地図によれば入り江を指しているが、詳細までは記されていない。

 遠征時に浜辺周辺は見ているので、可能性があるとすれば水中、さらに奥の海底だ。


「見てみたけど……宝箱がぽつんと一つ置かれているわけでもなかったよ。

 でも、まだ浅い部分だし、もっと深いところにいかないと確かなことは言えないけど……」


 地図の印は入り江を指している。その先まで探索範囲を広げる必要はないだろう。

 海の方までいくと、魔物の数も増えるし、魔族に遭遇することもある。


「じゃあ、各自で探索するか。いちいち全員揃って移動する必要もねえだろ」


 討伐は別だが、探索となればばらけた方が効率が良い。


「そういうことなら……私は泳げないから浜辺でゆっくりしてるね」

「お前は陸地を探すんだよ、バカ」



 見つけたのはミーナだ。

 海底にある大きな岩を持ち上げると、栓を抜いたように先に道が広がっていた。

 魔物の巣にも思えたが、先を見ると僅かに光が差し込んでいる。

 海底にある洞穴だが、Uの字型になり、別の洞窟に繋がっているのかもしれない。


 リッカたちが作る防壁の中に入れてもらい、泳ぐのではなく歩くように先へ進む。

 万能に思えるが、

 酸素は有限なので長時間の移動をする場合は小型の酸素ボンベを使うことになる。

 濡れず、移動がスムーズという点がメリットか。


 今回は短距離なので、ボンベを使わず、水没した洞穴の先まで進んでしまう。


 陸地に繋がる坂道を上がっていくと、水面が見えた。


 水から出ると、横幅が広い洞窟が待っていた。

 天井も高く、鉱石を回収した洞窟とは大違いだ。

 ゴブリンが出ても戦いやすい場所だろう。


「その分、大型の魔物が出る可能性もあるがな」


 地図にマッピングされていない、未踏の地域だ。


 はじまりの花畑に近いとは言え、それでも魔界だ。なにが起こるか分からない。


 シンドウの言う通り、広い空間は大型の魔物の棲息地であるとも逆算できる。

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