第22話 訪問者/大物
「気になりますし……僕がきらなの家にいきますよ。いたら、連れてきます」
「レイジ、君は相手にどう扱われるか分からない。
右手はリザードマンだから、亜人だと判断されれば仲間に取り込もうとするだろう。
だけど、君は公的な扱いでは人間だ。向こうが書類だけで人の立ち位置を判断しているのであれば、君は殺されてもおかしくない」
迂闊に外を出歩けない……でも、いつまでも閉じこもっているわけにもいかない。
「焦らなくていい、大丈夫さ。私とまさきがいる。君の安全は私たちが守る」
「違いますっ、そういうことを不安に思ってるわけじゃ……っ」
「しばらく君はここにいるんだ……いいね?」
優しく微笑まれ、しかし、瞳の奥には僅かだが、威圧があった。
僕は頷くしかなかった……反論なんて、できるはずもない。
「良い子だ」
「……僕は、さらんさんにとってまだまだ子供のままなんですね……」
そう文句を垂れながらも、頭を撫でてくる彼女の手を払うことができない僕も僕だ。
居心地の良さに、甘えてしまっている。
「そうだね……これからもずっと、君は私が守りたい、可愛い弟子のままだよ」
「さらん」
長い電話を終えたマネージャーさんが、開口一番にその名を呼んだ。
「あなたに、会わせたい人がいるわ」
三十分後、アポイントメントの通りに、訪問者が現れた。
黒スーツにサングラスの護衛を二人、両脇に控えさせている。
「……これは驚いたね。大物中の大物じゃないか」
さらんさんが軽く、身なりを整えた。
森下先輩は、借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。
僕も、身じろぎ一つできず……してはいけないのだろうと思い込んでしまっている。
事務所内が、ぴりっとした空気に包まれた。
「わざわざお時間を割いていただきありがとうございます、高原さらんさん」
「こちらこそ、魔法少女の末端に過ぎない私に興味を持って頂けるとは光栄です。
毎日テレビで姿を拝見していますが、こうして直接、会うことはありませんでしたから」
「簡単に身動きが取れない立場にいますからね……。
仕方ないこととは言え、立場だけが大きくなってしまったものです……」
ふと、彼女と目が合う。
僕に気付いた訪問者が、ふっと笑いかけてくれた。
……亜人の代表、始祖のエルフ。
人の血が混ざっていない、純血のエルフだ。
その美しさは、エルフの血を継いだ森下先輩の比ではない。
先輩も先輩で見た目こそ綺麗だけど……格が違う。
輝きにもカラットがあるように、そこには明確な差があるのだ。
さらんさんと並ぶことで、金髪と銀髪が向かい合い、美の双璧が完成されている。
そうなると、彼女に匹敵しているさらんさんが凄いってことになるけど……?
というか、並んで見れば、さらんさんの方が勝ってるよね?
「褒めてくれるのは嬉しいけどね、レイジ。
きっとそれは君の贔屓が多く入っているよ」
呆れたようにさらんさんが僕を見る。
……かもしれない。
客観視できていない、僕の意見だ。
でも、僕にとってはそれが全てと言える。
すると、始祖のエルフが、くすっ、と笑った。
「美しさ、綺麗さ、可愛いさは、見る人によりますよ。
可愛いお弟子さんの褒め言葉を素直に受け取ったらどうですか?」
「始祖のエルフ様に、私の見た目が勝っているとはとても思えないですね」
「あら、こんなおばさんを捕まえてなにを言っているのかしらねピッチピチの若人が」
……年齢だけ見れば、そうだ、始祖のエルフは少なくとも八十歳は越えている。
百歳に届いているかどうかは分からないけど、それに近い年齢であることは確かだ。
言われなければ分からない。
エルフは何歳で老いてくるのか興味があったが、さすがにそれを聞ける雰囲気ではなかったし、女性に年齢を聞くのは禁句の一つだ。
さらんさんもこれ以上は墓穴を掘ることになるだろうと察してか、話題を変える。
「お会いできて嬉しいですが……お茶会をしましょう、というお誘いではない……とお見受けしますが、どうでしょう」
「長々と喋ってしまった後で言うのもあれですが――時間がありません」
始祖のエルフが、さらんさんの手を両手で包む。
「あなたに、お仕事の依頼をしたいのです」
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