chapter/5 逆襲事変

第20話 家宅捜査/大事件

 マナの葉の存在が遂に世間の目に触れてしまった。


 もちろん、政府や警察はその存在を認知していた。

 マナの葉を取り込んだ、姿を変えた亜人による凶悪犯罪が増えていたためだ。


 しかし、これを正直に公開するのは危険だと判断した。

 どこかに亜人が潜んで、自分たちを狙っているのかもしれない、という人間の恐怖や、マナの葉を取り込めば自分も力を得ることができると企むデミチャイルドが出てくるだろう……。


 マナの葉がどこで栽培され、出回っているかのルートも把握できていない今、公表するべきではなかったが――今回の場合はそうもいかなかった。


 もみ消すには大きな事件だ。


 小学生の子供の多くが犠牲になり、その姿のまま昏倒してしまっている。


 違法薬物。取り込み過ぎれば、毒になる。

 全デミチャイルドが対象となり、警察の捜査が入ることになった。


 言うに及ばず、まず疑われるのはデミチャイルドだろう。

 人間が栽培している、とも言えるが、そうなるときりがない。

 全国民が容疑者となれば人手が足らな過ぎる。


 それに、僕たちの部屋を捜査する警察官も、もしかしたら裏で……と考えられるのだ。



 事件から翌日、まずはデミチャイルドの中でも有名人が対象になった。

 つまり魔法少女……セットで、怪人もだ。


 現在、数人の警察官が、さらんさんの部屋を捜索している。


「…………」


 僕の部屋は既に終わっている。

 狭く、物が少ないのであっという間に終わったが、さらんさんはそうもいかなかった。


 女の子の部屋だ、物が多い。

 丁寧に一つ一つ調べられていくと……衣類がまとめられたケースに、警察官が手をかけた。


「さ、さらんさんっ、いいんですか、あれっ」


「ん?」


 女性としては、

 そこには見られたくないものがあると思ったけど……気にしていない様子だった。


「拒否して疑われてもね。仕方ないよ。

 マナの葉は大きさも形状も曖昧で、多種多様に渡る。

 小さな葉一枚がマナの葉であることもあるんだ。服の隙間に隠しておくことも可能だし、それを見逃してしまえばいつまで経っても解決しないよ」


「それは、そうですけど……」


 そうこう話している内に、警察官がさらんさんの下着を物色し始めた。

 本人が望んでいるのに、僕がどうこう言うのは……っ。


 指先でつまんで持ち上げるなら、まあ許せるが、

(それもそれで汚いものを持つようで腹が立つが)

 両手でべったりといじくり回されるのはムカつく。


 ちらりと隣を見ると、僅かだけど頬を朱色に染めるさらんさん。

 ……可愛いなあ、って、そうじゃない。


「あの」


 僕は下着を物色する警察官の肩を叩き、


「そこの捜索は女性警察官さんにお願いできませんか?」

「レイジ……? 私は気にしていないから、大丈夫だ」


「僕が気にします」


 男性警察官は意外にも素直に応じてくれた。

 忙しさのあまりそういう配慮に目を向けられなかった、と謝りまでしてくれたのだ。


 よく考えればマナの葉を探しているのであって下着を見ていたわけではない。

 じっくりと見るわけにもいかない早さが求められる作業だ……真面目な警察官を疑ってしまったことで、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「すみませんさらんさん……余計なことを」


 下の事務所にいた女性警察官が呼ばれ、下着コーナーの捜索が再開された。


 ほんの数分だが、時間のロス。

 大したことのない時間でも積み重なれば膨大だ。


 明日、捜索できる部屋が一つ減ってしまうこともあり得る。その遅れがマナの葉の発見に影響し大きな事件に繋がってしまえば、世界的な損失になってしまう。


 軽率だったかな……、そんな反省をしていると、だ。


「私は嬉しかったよ」


 ぽんぽん、と僕の頭の撫でてくれた。


「ありがとう、レイジ」

「…………はい」



 捜査も終わり、僕たちは無事に容疑者候補からはずれた……とも言い切れない。

 自宅からはなにも出なかっただけだ。物的証拠がなくとも今後の動向は注目されるだろう。


 警察官が去った後、事務所に下りる。

 カウンター席で電話の対応に追われている忙しそうなマネージャーさんと、ソファに座り不機嫌な表情を浮かべて近づきがたい森下先輩の姿があった。

 チャンネルを回して三つの報道番組をぐるぐると見比べている。


「おはよう、まさき。自宅の捜査はどうだった?」

「先輩……、うちは問題ないです。そもそもマナの葉の存在さえ知りませんでしたから」


 そう言えば……そうか。

 マナの葉による事件、と言うには小さな事件だが、事件そのものは前々からあった。


 世間の目に映らないようにもみ消すことが可能な規模で。

 僕の右手が変化したきっかけとなった事件もそう。その時はさらんさんが僕を助けてくれたけど、マナの葉の存在を知る魔法少女は限られている。


 認められた実力者のみが、マナの葉を取り込み、

 一時期的に始祖返りした亜人の相手ができる。

 だからさらんさんが知り、森下先輩が知らないのだ。


「きらなは?」

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